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オリジナル短編集

博士の悪戯

作者: のなめ

博士はとにかく悪ふざけが好きだった。悪ふざけと言っても、子供がするようなかわいらしいものではない。その頭脳と技術、一歩間違えば犯罪になりかねないふざけ方は、流石に赤の他人でも心配になるほどのものである。幼い頃からその天才的な頭脳で発明した数々の装置は、役に立つとは真逆の、迷惑極まりないものだった。その頭脳を社会の発展、特に大気汚染の解決に役立ててくれれば間違いなくノーベル賞を受賞するだろうが、あいにくそんなものに興味はないらしく、自分の好奇心や遊び心を満たし楽しむことが彼のやりたいことであり幸せだった。そんなこんなで年を重ね三十手前になった彼は、今日もまた新たな装置を発明した。


「よくやく、ようやく完成したぞ……!この装置があれば、この国どころか全世界を巻き込めるぞ!!」


額に手を当て汗を拭うと、彼は目を輝かせてそう言った。この装置――どうやらこの世のありとあらゆる電気を操り、一瞬で世界の電気系統をショートさせるほどの超強力なものらしい。


「今までは世界を巻き込むレベルの装置は開発してこなかったから、今回が記念すべき第一回目かぁ!しっかし楽しみだなぁ。成功するかなぁ!」


ちなみにだが彼自身、他人が自分の作った装置で被害を受けても、最終的には笑って許してくれるような範囲内の装置に仕上がるようにと思って日々開発を進めているらしいが、実際の所それは彼ではなく他人の解釈次第なので、まさにそう思い込んでいるだけで現実は全く違うかもしれない。しかし不思議と、まあ彼なら仕方ないだろう、というよく分からない理由で許される事もあるため、あまりその事を深刻に捉えてはいないようだった。


「あの時は間違って裏社会の人達に装置を使ってしまったから流石に笑い事じゃ済まされなかったけど、何とか過去に発明した記憶改ざん装置を使って何事もなかったかのように出来たもんなぁ!いやぁスリルがあって面白かった!おかげでその装置の有効性も証明できたし、結果オーライだよね!!」


このように彼はあまりにも過去のアクシデントを軽く話すので、つい我々までその物事を軽く捉えてしまいそうになるが、当然それは間違いなく生死をさまよっていてもおかしくない状況にある。だがこの一歩間違えば大事件になりかねないような危機であろうと、彼はそれすらもまた楽しんでいるのかもしれない。究極、自分が死ぬような目にあっても、それが自分の装置によってもたらされた現実ならば笑顔でそれを受け止め、その状況を楽しむかもしれない。まさにその狂いようは、常人には理解しがたい感覚であり、一部の層からは酷く嫌われているが、別の層では信仰の域にまで達しているほどのものである。


「全世界の電気系統が一瞬にしてショートしたら、地球はどうなって皆はどんな反応するのかなぁ――」


彼はそんなことを考えながら、さっそく実行に移すため、近くの高台に登ると、その装置に付いているスイッチを一つ一つオンにしていき、胸の鼓動が高鳴っていくのを感じた。


「いやーそれにしても高台から見る夜景は絶景だねー!ここなら十分にビルもマンションも高速道路も見渡せるし、本当に良い場所だよ。さあて、準備は整ったし、いよいよ始めようかね!!」


彼は最後のスイッチをオンにする。すると、装置内のモーターが動き出しその中で強力な磁場を作り始めた。どうやら正常に作動しているようだ。モニターにカウントが表示され、残り十五秒と書かれている。彼はそれを確認すると、高鳴る心音に期待を寄せ、あらゆる想いを巡らせた。緊張感と興奮で言えば、宇宙飛行士がカウントダウンで地球から飛び立つあの瞬間に匹敵するかもしれない。高台に吹く強風に髪を揺らし、装置の轟音と風になびく草の音とともに両手を大きく広げながら彼は言う。


「本当に本当に、我ながらなんて楽しい人生を送れているんだろうか!何にも縛られないで好きなことだけやっている、僕はこんな人生を体験できて幸せ者だ!いつ死んだって後悔はない!そう、みんなやりたい事をやればいいだけなんだよ!過去や未来なんてどうでもいい、今この瞬間が大切なんだ!やりたい事をやってるその瞬間の積み重ねが、幸せな人生を作っていくんじゃないか!!嫌なことをしていてもロクな考えなんて浮かばない!楽しいことをしてるから愉快なアイディアが降ってくるんだ!!」


彼はうんうんと満足そうに持論を言い終えると、そのタイミングで装置の天辺に位置する巨大なライトが思い切り光り、まるでこの世を飲み込んだかのような、彼の周りを真っ白な光で覆い尽くす――。彼にとって、当然人類にとっても、今この瞬間とこれから起きることは未知の体験の連続である。例えその先にどんな結果が待ち受けていようと、好きなように生きてきた彼は間違いなく、どの瞬間でも幸せなのだろう。ただ、同時にその瞬間彼は、自分の中に湧いてきた新たな疑問に気が付く。それは、全世界の電気をショートせるほどの強力な装置と、一番身近な人間の体に流れている電気、一体それら同士はどんな反応を起こすのだろうか――と。



















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― 新着の感想 ―
[良い点]  文体が丁寧でとても読みやすいです。 博士は困った方ですが、面白い方であることは確かですね。できれば人に迷惑のかからないレベルで楽しんで頂きたかったです。 [気になる点]  特にございませ…
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