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意味


 『始まりの洞窟』での死闘を終え、転移魔法陣を使い外に出てきたアッシュは、非常に機嫌が良かった。


「うーん、太陽が黄色いなぁ!」

「そうかな? 夕暮れ時には、まだ早いと思うけど」

「二人はなんでそんなに元気なんだ……」

「身体の怪我は治せても、精神的な疲労は治せないですぅ……」


 心身共に疲れ、げんなりした様子のイライザとスゥに対し、アッシュとライエンはまだどこか余裕がある様子だった。


 もちろんアッシュが元気なのは、これから先自分はびくびく怯えるようなこともなく、自由に生きていくことができるからだ。

 ライエンが楽しそうな理由については皆目見当もつかなかったが、それについても今は気にならない。


 今のアッシュは世の中はバラ色だとばかりに、頭の中がハッピーでお花畑な状態になっている。

 ちょっとトリップすらきめてそうな勢いに女性陣はドン引きしていたが、もちろんそれもまったく気になどならない。


「さぁて、これからどうしようかなぁ!」

「時間的にはまだ早いから、学院に戻って報告しに行った方がいいんじゃないかな?」


 放課後に学院生が『始まりの洞窟』にごった返し、新人冒険者達が困ってしまわぬよう、魔法学院ではダンジョンでの探索を行う場合、授業を休んでも欠席扱いにならないとあらかじめ決められている。

 そのため本来なら授業中の今も、彼らは問題なく外を歩き回ることができるようになっているのだ。


「私はここで、帰らせてもらう。今日は早退して、急ぎクソお……父上に報告しに行かなくては」

「あ、私も一旦お義父様に連絡を入れなくちゃいけないので、学院には行けません」

「それなら……僕もイライザについていこう。陛下とは一度話もしておきたかったし。どうだい、良ければアッシュも一緒に……」

「嫌だね! だって俺は自由な旅人だから! 俺は誰にも縛られず、学院に戻るんだ!」

「意味がわからん……」

「それだと学院に縛られているのでは……?」


 たしかに本来であれば、魔王軍の幹部を倒したというのは今すぐに伝えなければならないほど大切な情報だ。

 というわけでアッシュを除いた三人は、そそくさと報告をしに駆け足で去っていってしまった。


 勝利の余韻に浸る暇もなく、忙しいことだ。

 アッシュは一人でいることに少しだけ寂しさを感じ、足下の石ころを蹴っ飛ばす。


「……学院に、戻るか」


 一人ですることもなくなったアッシュは、いつものようにフケることなく、学院へと戻ることにした。

 本人はまったくの無意識だったが、戻る一番の理由はとある少女の顔を拝むためだ。

 死というものを身近に感じたからこそ、アッシュは自分でも意識しないうちに、学院へと歩を進めていた。

 そして学院に戻ってきた彼は、その目で見ることになる。


 自分が会いたいと思っていた少女――メルシィが学院生に虐げられている、その瞬間を。




 アッシュは圧倒的なレベル差でもって、魔法決闘をぶち壊した。

 基本的に今まで、自分の実力を誰かに見せるようなことはしてこなかった(もちろん武闘会の時にはっちゃけしまったあれは例外だ)。


 アッシュは強くなったという自負があるが、強さをひけらかそうなどと思ったことは、人生で一度もない。

 彼にとって強くなることは、死なないために必要不可欠なことだった。

 アッシュは必要に駆られて戦い続けてきた、ある種の不可抗力のようなものだ。


 だがその力のおかげで、周囲に虐められ、困っているメルシィを助け出せたのだから。

 だからきっと、自分が強くなってきたことには、意味があったのだ。




拙作『豚貴族は未来を切り開くようです』第一巻が6/25に発売致しました!


挿絵(By みてみん)


作品の今後にも関わってきますので、書店で見かけた際はぜひ一度手に取って見てください!


また書店ごとに特典ssも複数あり、電子書籍版もございますので、ぜひ気に入ったものをご購入いただければと思います!

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