vsヴェッヒャー 11
時は、アッシュがミミと共にダンジョンに潜っていた頃にまで遡る。
遅延の魔法を手に入れ、その使い道に迷っていた時のことだ。
アッシュの脳裏に、ある考えが浮かんだ。
(遅延による魔法の連続起動……これを極大魔法でやれば、どうだ?)
アッシュが手に入れた念願の遅延の魔法。
そこにはある可能性が秘められていた。
それはアッシュがミミとの冒険の道中に思いついた、三つの魔法の合体だ。
遅延の魔法は、魔法の動きを止め、滞留させることができる。
アッシュが使える最強の攻撃手段とは、焦土炎熱と氷結地獄を合体させ、お互いに対消滅を行うことで生み出した純粋なエネルギーを打ち出す、極覇残光弾だ。
これに、遅延で滞留させた新たな極大魔法を組み合わせることで生まれる可能性。
今までは不可能だった極大魔法の三重起動。
だが新たな技を開発するのは、並大抵の苦労ではないこと。
当然ながら、アッシュは失敗を繰り返した。
「ここで極覇魔力弾を――って、うおっ!?」
魔法を滞留させた状態で、極覇魔力弾を生み出し、二つを掛け合わそうとしたところ、互いにぶつかり合い、暴発してしまったり。
「よしよし、これで……あれ?」
それなら三つの魔法を同時に滞留させ、そのまま三つを一気に合成してしまえばどうだとやってみると、なぜか反発しあって明後日の方向に飛んでいってしまったり……。
アッシュは色々と試行錯誤しながら、なんとかして三つの魔法を合成させることはできないかと試していく。
これがダメならこっちはどうだ、とすぐに次に試すアイデアが湧いてくるのは、以前極覇魔力弾を作成した時の経験が活きている。
結果として、極覇魔力弾を生み出し、そこに新たな魔法を入れ、強引に合成させることは不可能であることがわかった。
三つの魔法を強引に入れ込もうとすると、どう足掻いても失敗に終わってしまうのだ。
なのでアッシュは、根本的な考え方を変えることにした。
彼は三つの魔法を合成させる魔法を生み出すのではなく……まず最初に二つに合成した魔法同士を掛け合わせる新たな魔法を作り、そうして作った二つの魔法を一つに合成させる形を取ってみることにしたのだ。
これが上手くハマってくれたおかげで、魔法開発は一気に前進することになる。
そこから先をスムーズに進めることができたのは、やっていることが既に発動可能な極覇魔力弾と同じだったからだ。
具体的な工程は以下の3ステップになる。
まず最初に、極覇魔力弾を生み出す。
そして次に極覇魔力弾に遅延をかけて滞留させてから、大地讃頌二つを合成する。
最後に、合成した二つの魔法同士を組み合わせ、新たな魔法を生み出す。
不思議なことに、風魔法の極大魔法である花鳥風月は上手いこと合成させることができなかった。
多分だが、属性ごとの相性のようなものがあるのだろうと、アッシュは考えている。
こうしてアッシュはダンジョン内の湖を干上がらせるほどに大量の極大魔法を使いながら、なんとかして新たな魔法を生み出した。
そうしてアッシュが編み出した技こそが――合計四つ分の極大魔法のエネルギーを込めた新たな必殺技、三極覇王弾である!
「――ちっ!」
完全に意識の埒外からやって来た一撃。
ライエンへと放った右ストレートを止めても、右手での防御は間に合わない。
一瞬のうちにそう判断したヴェッヒャーが取った選択肢は、左半身による防御であった。
彼はライエンの方へ警戒することを止め、完全にアッシュの放った一撃へと意識を向ける。
極大魔法の対消滅により生み出された極覇魔力弾。
純粋なエネルギーの塊であるその一撃は、不思議なことに周囲の魔法を取り込み、己のエネルギーへと変換する性質を持っていた。
そこへ新たな極大魔法二つ分の魔法を混ぜ合わせることで生み出された、三極覇王弾。
その見た目は、遺伝子の二重螺旋構造によく似ていた。
紫色の光と、橙色の光。
二色の輝きが互いを追い抜き、追い越そうと競い合っている。
ぐるぐると回転しながらその勢いを増していく攻撃が、加速を続けながら、ヴェッヒャーへと襲いかかる。
「ぐ……うおおおおおおおっっ!?」
ヴェッヒャーの拳と、迸る光がぶつかり合う。
拳は、既に痛みを感じていなかった。
代わりに感じるのは熱さだ。
ただただ熱く、拳の皮膚がめくれ、骨が剥き出しになっていく中で、その熱さすらも麻痺していく。
激突の余波によって全身に絶え間なく降り注ぐ、魔力の欠片の方が痛いというのは、明らかに異常だった。
質量を伴った魔力はその暴威を遺憾なく発揮させ、ヴェッヒャーにダメージを蓄積させていく。。
魔力それ自体に威力を持たせる。
その攻撃手段は、アッシュが人生で最も使ってきた魔法である魔法の弾丸とその仕組みを同じくしている。
故にアッシュの異常なまでに高まった知力と、魔力攻撃の練度により、その一撃の威力は極覇魔力弾と比べものにならないほどに高い。
その威力は、ヴェッヒャーの防御力を優に超えていた。
「おおおおおおっっ!?」
左手を前に出し、攻撃を受け止めようとするヴェッヒャーの腕に、ピシピシと亀裂が入っていく。
全身の肌が裂け、そこから血が噴き出していくが、それでも魔法の勢いは止まることがない。
ヴェッヒャーは咄嗟に己の身体に魔力を纏わせる。
窮地で新たな力に覚醒し、ほんの少しの間希望が見えた彼だったが、それはすぐに絶望に塗りつぶされることになる。
魔力による肉体のコーティングは焼け石に水程度の効果しか発揮することはなく、一瞬で魔力が剥がされ、熱さが襲いかかってくる。
迸る魔力は絶え間なくヴェッヒャーの肉体を苛んでいく。
今まで自身が味わったことのないほどの責め苦に、ヴェッヒャーはそのまま意識を手放した。
ライエンの『最後の勇気』を食らい、なんとか踏みとどまっていたヴェッヒャーの身体は、とうとう限界を迎えることとなったのだ――。
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