vsヴェッヒャー 5
新たに解放された勇者スキルは二つ。
第三のスキル、一切の状態異常にかからなくなる『健全な勇気』。
第四のスキル、死なない限りHPを無限に回復し続ける『不屈の勇気』が発動する。
これによりヴェッヒャーの手術の魔法の影響は減り、更に今まで負っていた傷が急速に治癒されていく。
更にここに第一のスキル『不撓の勇気』の効果が重なることで、現在のステータスはヴェッヒャーとほとんど同じというところまで辿り着いている。
「うおおおおおおおお!」
「――一体どこに、こんな力がッ!?」
必殺の一撃だった。
威力、タイミング、相手の弱り具合。
全てを加味した上で相手を葬り去れるはずだった一撃は――しかし狙いを外し、ライエンの胸に突き立つだけで終わる。
そして手術の魔法を発動させようとするが――なぜか不発に終わる。
魔法を発動した瞬間の隙を見逃さず、ライエンは剣を振る。
だが相手の狙いに勘付いたヴェッヒャーは、左手のメスでその一撃を防ぐ。
けれどそれも、ライエンの想定内。
右手で胸に突き立つメスを持ち、左手は防ぐためにメスを構えている。
今ヴェッヒャーは両手を使い、自由が利かない状況。
ライエンはここで第二のスキルを発動させる。
「ファイア……アローッ!」
第二の勇者スキル、『勇気の魔法』による超強化を施した炎の矢は――ライエンごと、ヴェッヒャーを貫いた。
「があああああっっ!?」
まさか自爆特攻をされると思っていなかったヴェッヒャーは回避することもできず、一撃を受けた。
結果として腹に大穴が空き、身体の一部が炭化するほどの怪我を負う。
けれどそれはライエンも同様。
更に言えば魔法を避けられぬよう、ライエンは自らの背中で魔法を隠し、自分ごと攻撃をしたため、最初に自分の攻撃を食らったライエンの方が重傷な状態だった。
「おおおおおおおおっっ!!」
だがライエンはそれでも剣を振る。
圧倒的な熱量により赤熱化しかけている剣を、ヴェッヒャーに突き立てる。
「気でも狂ったか!?」
避けられぬよう自分を巻き込む形で魔法を発動させた自爆。更にそのままたたみかけてくる剣撃。
己の命を賭けたその捨て身の自爆特攻に、ヴェッヒャーは面食らうことしかできない。
歯を食いしばると、唇を巻き込んで血が出てくる。
奥歯にヒビが入るが、それでもライエンは攻撃の手を緩めない。
ヴェッヒャーのメスがライエンを貫き、ライエンの剣ヴェッヒャーを切り裂いた。
二人の口から、大きな血の塊がごぽりと吐き出される。
「――ちいっ!」
これ以上は、と身の危険を感じたヴェッヒャーが距離を置こうとする。
だがそんな隙を与えるつもりは毛頭ない。
ライエンは自らの損耗を度外視して、果敢に攻め立てる。
「ウィンドカッター!」
第四のスキル『不屈の勇気』は一度発動すれば戦闘中は持続し続ける。
彼の傷はたちまちに癒えていく。
そしてそれを見たヴェッヒャーは目を剝いた。
再度の自爆特攻。
今度は更に大胆に、ライエンはヴェッヒャーの身体を強引に抑え、自分ごと風の刃で切り刻む。
「ぎゃあああああっっ!!」
「ぐうっ!」
もちろんライエンにもダメージは入る。
だがライエンは痛みに歯を食いしばりながらもそれに耐え続ける。
奥歯は割れ、そして傷として判定され治っていく。
再度剣を振り上げた時には、腹に空いた穴と同様完全に回復していた。
そのライエンのデタラメなスキルを見たヴェッヒャー。
彼は応急処置をする間もなく、ダメージを継続的に受け続けている。
「チッ!」
今度はヴェッヒャーが身を切る番だった。
彼は敢えて剣の一撃を食らい、思い切りライエンの腹を蹴る。
ライエンが胃液を吐き出しながら後方に吹っ飛んでいく。
それを見届ける間もなく、息を荒げたヴェッヒャーが笑う。
「ふ……ふふふ、まさかこんなところで、全力を出すことになるとは……」
そう言ったヴェッヒャーは、自分の身体にメスを突き入れる――。




