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vsヴェッヒャー 3


 この地下室にやって来るまで、ライエンはずっと疑問を抱いていた。


(一体アッシュは……何を知っているのか)


 ここに来るまで、いくつも違和感があった。

 『始まりの洞窟』には何があるというのか。

 そしてその答えは――今こうして、彼の目の前にある。


 既に彼の持つ『勇者の心得』は発動している。

 第一のスキル『不撓の勇気』によって、ライエンの身体能力は一時敵にアッシュを超えるほどに高まっている。

 彼は軽くなった身体で、ヴェッヒャー目掛けて駆けていった。


「ギャアアオッ!」


 それを邪魔するように立ちはだかるのは、フロストリザード。

 口から氷のブレスを吐き出す、Cランク相当の魔物である。


「ファイアアロー!」

「ギャアアアアッッ!」


 ライエンが放った炎の矢が、一瞬のうちにフロストリザードを炭化させる。


 第二のスキル、『勇気の魔法』。

 今のライエンの使う魔法には全て、勇者補正がなされ、超強化が施される。

 その一撃は火属性を弱点とする氷の蜥蜴を、容易く打ち倒した。


「ふぅむ、これはなかなかっ!」


 魔物を倒されても顔色一つ変えず、ヴェッヒャーもライエン目掛けて駆け出してくる。


「ガルルルルッ!」

「キシャアアアッ!」

「キョワアアアアッッ!」


 前方からヴェッヒャーが、そして左右からは多数の魔物が迫ってくる。

 魔物達は手術によって強化されているため、防御せずに一撃を食らえばただでは済まない。

(今はただ――前へっ!)


 だがライエンはそれでも止まることなく、それどころか更に勢いをつけて走り続けた。


 一番脅威度が高いのがのはヴェッヒャーなのは変わらない。

 故に狙うのは最初からヴェッヒャーただ一人。

 左右から近付いてくる魔物。

 このままでは魔法を使う間もなく接敵し、攻撃を食らうだろう。

 けれど心配する必要はない。

 何故ならライエンは……一人ではないからだ。


「ウォーターマシンガン!」

「ホーリーメイル!」


 ドドドドドッ!


 圧倒的な物量で放たれる水の機関銃が、左右からやってくる魔物達へと降り注ぐ。

 そしてライエンの身体は、攻撃を防ぎ状態異常から身を守るための光の鎧に包まれていた。

「行けっ! ライエン!」

「ライッ! 行ってっ!」


 後ろから飛んでくる魔法。

 背中からかけられる声援。


 イライザとスゥの応戦を背にして、ライエンは更に前に出る。


「フレイムウォール!」


 ライエンは走りながら、左右に炎の壁を作り出した。

 これで今この瞬間、目の前にいる障害は完全に消え去った。


 勇者の焔によって作り出された直線の先には――こちらに駆けてくるヴェッヒャーの姿がある。


 疾駆した両者が――激突する。


「シッ!」

「――ぐっ!?」


 ヴェッヒャーの手に持つ光のメスが伸びる。

 ライエンは己の持つ鉄剣でそれを受けた。

 互いに攻撃し、防ぎ合う間も、『不撓の勇気』は発動し続ける。


 圧倒的に広がっていた差が縮まっていく。

 その細腕のどこに力がかかっているのかと思うくらいに、ヴェッヒャーの一撃は重い。

 最初はその一撃を受けることすらできずに、ライエンの身体は吹っ飛ばされた。

 しかし弾かれていくうちに、踏ん張りが利くようになり、気付けばヴェッヒャーの一撃をある程度いなすことができるようになっていく。


「ほう……やりますね」


 ヴェッヒャーが握るメスが、ぐにゃりと曲がる。

 そしてその攻撃が、ライエンの腕に突き立った。


「ぐうっ!?」

「手術、開始」


 ヴェッヒャーは自身が直接執刀した生き物を強化・弱体化させることができる。

 ライエンが剣を力強く握っていた力が、ガクッと抜ける。


「ほらほら、どうしました? さっきの威勢はどうしたんですっ!」


 二人は炎の壁に包まれながら切り結ぶ。

 火による継続ダメージなど気にせず、二人とも傷を負いながら戦い続ける。

 回復魔法を使えば、傷やダメージは回復できる。


 けれどライエンの速度は、先ほどまでと比べれば明らかに落ちてしまっていた。


『不撓の勇気』で上昇した能力が、ヴェッヒャーの手術によって削り取られてしまっているからだ。


 次第にライエンの負う傷が増えていく。

 速度に差がついたことで、ライエンは回復魔法を使う暇もなくなっていく。


(身体が……熱い、そして重い)


 ヴェッヒャーのメスが胸に突き立つ。

 それを引き抜かれると、また身体から力が抜ける。


「けれど僕は――負けられないんだ!」


 パキリ、と頭の中にある何かが割れる音がした。

 第三のスキル、あらゆる状態異常を無効化するスキル『健常な勇気』が発動。


「これで――トドメですッ!」


 ドスッと、先ほどよりも深い場所に光の刃が刺さる。

 血が噴き出し、身体が急速に冷えていく。


『俺が雑魚の相手をしておく。あいつは、お前がやれ』

『――わかった!』


(まだだ……僕がここで、倒れるわけには……)


 だが強敵を前にしても、ライエンは怯まない。

 絶体絶命のピンチにあっても、彼の目は死んでいない。

 いやそれどころか、戦う前よりもずっと強い輝きを宿している。


「バカな――致命傷のはずだっ!?」


 先ほどまでの冷静な仮面を捨てたヴェッヒャーが、ありえないと動転する。

 彼がトドメをさしたはずのライエンの傷が、みるみるうちに塞がっていくからだ。


「アッシュと……約束したんだ」


 パキリ、と機能が制限されていたライエンの勇者スキルが解放される。

 第四のスキル、『不屈の勇気』――ライエンが負った傷を即座に癒やす自動回復。


「君は――僕が倒す」

(なっ、この私が――怯むだとっ!?)


 先ほどまで自分が圧倒していたにもかかわらず、気付けばヴェッヒャーは後ずさっていた。 ライエンとヴェッヒャーの戦いは、その激しさを増していく――。



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