死神
「……そうか? 私は何も感じないが……」
「何か変な感じがするんだけど……気のせいかな?」
そう言ってライエンは壁に触れようとし……腕はそのまま、するりと土の中へ入ってしまった。
「「「――なっ!?」」」
ライエン、スゥ、イライザ……アッシュを除く三人の声が被る。
腕が埋没してしまったのだが、どうやらそうではないらしい。
見ればそれには相当高度な隠蔽の施された幻影が施されており、内側に道が続いているようだった。
ライエンは皆の方へゆっくりと視線を向けてから、幻影の先に続く暗闇へと視線を向ける。
「……どうする?」
彼はそう言うと、親指を新たに現れた道へと向ける。
本来のm9なら、ここで先輩冒険者であるアッシュがすぐに引き返すべきだと主張し、ライエンがそれでも進みたいと願い、結果として先を行くことになるという展開になる。
原作をなぞろうかと一瞬だけ悩んだが……やめておくことにした。
ここにいる自分は、ゲームであっけなくやられてしまうアッシュではない。
自分には自分のやり方がある。
「行きたいんだろ?」
「……ああ。この先にある何かが、僕を呼んでいるような気がするんだ……」
「そっ、そんな! 危険ですよ!」
「ああ、こういう時はまず引き返して大人達に報告を……」
アッシュにはライエンにはもう、スゥとイライザの制止の言葉は聞こえていないとわかっていた。
勇者と魔王は引かれ合う。
故にこの先に待ち受ける何かに、ライエンの中にある固有スキルが反応を示しているのだ。
ライエンの固有スキルは、既に七つ全てがアッシュによって解放されている。
だがその残滓は確かに、強敵との戦いを求めているのだろう。
アッシュの答えは決まっていた。
「俺も行く」
「いいのかい?」
「皆が反対したら、一人で行くんだろ? だったら二人で行った方が生き残れる確率は上がる」
「そ、それなら私も行きます! ヒーラーが一人いるだけで、パーティーの安定感が違いますから!」
「――くっ、私も行くさ、行けばいいんだろっ! ……私、一応、これでも王女なんだけどな……」
言葉の最後、消え入るような声でイライザが素を出すのを、アッシュは聞き逃さなかった。 少しとは言え、彼女の本音が聞けるような間柄になったことを喜びながら、アッシュは笑う。
そしてライエンと共に『始まりの洞窟』の奥に続いている道へと歩き出すのだった――。
暗闇の先は一本道の階段だった。
まるでやってきた者を誘うように、歩を進める度に階段の両側に設置されている松明が点灯していく。
「「……」」
誰も言葉を発しなかった。
緊張しているのだ。
この先に何が待ち受けているのかがわかっているため、アッシュも緊張から身体を強張らせていた。
深呼吸をして、無理矢理にでも気持ちを落ち着ける。
いつも通りの実力が出せなければ、勝てる相手ではない。
けれど自分の実力さえ出せれば、勝てない相手ではない。
シリウスと戦った時のことを思い出す。
ナターシャとシルキィの助けはあったとはいえ、あれと比べてしまえば、今から戦う相手など屁でもない。
ふぅ……と気持ちを落ち着ける。
すると進む先に、歩く度に点く松明とはまた違った光源が現れた。
あそこを抜ければ……まず間違いなく強制的に戦闘に入るだろう。
ゴクリ、と唾を飲み込んだのは一体誰だったか。
アッシュは一瞬で戦闘用のスイッチを入れた。
いつでも魔法が発動できるよう、思考を戦闘向けに切り替えていく。
「やれるかよ、主人公」
「……言われなくとも、やってみせるさ」
恐らくこの先に何かがいることに気付いているであろうライエンは、額に掻いた汗を拭いながらそう答える。
その答えも、横顔も……どこまでも主人公だ。
そんなライエンを見て、アッシュはフッと笑う。
二人は歩み出すと、そこには……。
「――ふむ、私に来客とは珍しい。恐らくはシリウスのゲートに巻き込まれたのだろうが……まあ、安心してくれていい。安心して……逝きたまえ」
側頭部に二本のねじくれた角を持つ男が――魔王軍幹部、『白衣の死神』ヴェッヒャーの姿があった――。
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