セリフ
当然ながら、初心者向けで初めてダンジョンに入る者達に最適とされている『始まりの洞窟』の探索はサクサクと進んでいく。
ただ魔物を圧倒して潰していくだけでは時間の無駄になるので、積極的に四人で連携を取るための訓練をしていくことにした。
「グギャッ!」
相手取る魔物はゴブリン三匹。
ライエンとアッシュは鳥が翼を広げるように、左右に別れて前に出た。
「ギャッギャッ!」
「グギイッ!」
ゴブリンとは最下級の魔物である緑色の人型魔物である。
成人女性程度の背丈があり、腰元には粗末な腰布を巻き、その手には無骨な棍棒を持っている。
知能は三歳程度しかないため、連携などという考えはない。
三匹のうちの二匹がアッシュに、一匹がライエンに向かっていく。
「よっと」
「――フッ!」
アッシュは攻撃を避け、ライエンは攻撃を受け止めた。
当然ながら、既に数多の魔物と戦ってきている二人にとってゴブリンなど物の数にも入らない。
アッシュは剣を振り、ゴブリンの首下でピタリと止めてから、もう一匹の方に蹴りを入れて吹っ飛ばす。
ライエンは剣で受け止めた棍棒をスパッと断ち切る。
二人は一度合流し、再度前に出る。
「――速いなっ」
「そんな変わんねぇ、よっ!」
速度自体はレベルが高い分、アッシュの方が高い。
なので歩幅を合わせるためには、アッシュがライエンにペースを合わせる形になる。
どうやらライエンの方は納得がいかないような気がしているが、こればっかりはしょうがない。
どうせヴェッヒャーとの本番では、勇者スキルを使って自分とそう変わらない速度が出せる。
今は息を合わせる練習をすればいいだろう。
ライエンとアッシュはゴブリンを一匹まで減らしてから、二人での戦闘のやり方に慣れていくことにした。
相手が右側から攻めてきたらどうするのか。左側ならどうするのか。
ポジショニングはどのような形で取るのがベストか。
後方にいるイライザとスゥへヘイトが向かないよう、アッシュが比較的視野を広く取っておく必要がある。
継続的に火力を出せる能力はライエンの方が高く、また勇者スキルでステータス差は埋めることができる。
なのでライエンの方が前衛、アッシュが中衛という形を取ることになった。
アッシュは常に魔法の弾丸を使い、敵の気を散らして集中力を削ぐ。
またライエンが苦戦していると見れば前に出て、前衛としても動ける位置取りはキープする。
二人とも回復魔法を使うことができるが、戦闘に集中している間は流石に回復魔法を使うだけの余裕もない。
「スゥ!」
「は、はいっ!」
なので基本的には回復はスゥに任せる。
スゥの持つ固有スキルは『白の癒やし手』、回復魔法と光魔法に極大補正のかかるスキルだ。
彼女が放てばヒールがハイヒールになり、ハイヒールはオールヒールになる。
未だレベルも魔法の練度もそこまで高くなく、戦闘に参加しすぎては危険な可能性がある彼女はあくまでも補助に徹してもらう形にした。
『水瓶の女神』という水魔法に関する固有スキルを持ったイライザは、遠距離攻撃に徹してもらう。
既に何度かライエンと共闘したことがあるらしく、二人の息は合っている。
なのでライエンのカバーに入ってもらう形を取ることにさせてもらった。
そもそもイライザはアッシュのことを嫌っている節がある。
いざという時に咄嗟の判断を間違える可能性を考えれば、彼女にはライエンの補助兼遠距離火力として運用するのが一番無難だろう。
「なぜこんなことをしなければならんのだ……ブツブツ」
執拗に連携や有事の際のフォーメーションの確認をするアッシュの様子に、イライザは不満たらたらな様子だ。
だがアッシュとしてもここは譲れない。
既に対決の時は刻一刻と近付いているのだから。
ちなみに細かい確認や練習を繰り返しても、ライエンは相変わらず何も言わなかった。
気にならないのかと思い正直に尋ねてみたが、返ってきた答えは……。
「僕はアッシュのことを信じてるから」
背中がむず痒くなるほどに篤い信頼。
一体どこでライエンフラグを立てたんだろうかと疑問に思いながらも、アッシュは戦うための用意を整えていく。
皆ができること、自分ができることを、可能な限り確かめて、わからない領域を潰していく。
他の生徒達よりも遅いペースで攻略を進めていく四人は、無事『始まりの洞窟』のボスであるホブゴブリンを倒すことに成功した。
今回は最終確認ということでイライザがどこまでライエンと息を合わせて戦うことができるのかを見たのだが、二人の息はこれでもかというほどに合っていた。
ボスを倒し、上の階層へ戻る魔法陣が現れる。
そこへ乗ろうとするよりも早く、ライエンがそれに気付いた。
「あれ、この壁……なんか変じゃないか?」
思わずごくりと唾を飲み込むアッシュ。
そのセリフは一言一句違わず、イベント発生時のそれと同じだった。
ここから始まるのだ。
アッシュの生き残りをかけた、本当の戦いが――。
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