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喫茶店

 『始まりの洞窟』の探検が解禁されることで、現在このダンジョンの周辺は非常に賑わいを見せている。

 まずは顔合わせということで四人で集まることになったのだが、店を探すために歩いているだけで、周囲からものすごい視線を向けられた。

 イライザは正真正銘王女であり、彼女はその見た目の良さから対外的な場面で顔を出すことも多い。

 なのでその顔を知っている者も多いのだ。


「その顔、隠せばいいのに」

「王女の私がそんなことできるはずがないだろう。この髪も、顔も、そして身体も、何一つ恥じるべきところはないからなっ!」

「そういう意味で言ってるわけじゃないんだけども……」


 アッシュに対してグルルと唸ってくるイライザは、まったく聞く耳を持ってくれなかった。 おかげで先ほどから周囲の視線が痛い痛い。


(でもまあ、なんだ……ライエンがいるおかげでそれほど緊張しなくて済んだのは助かるな。もしイライザとスゥと三人で会ってたら、間違いなくまともに話せなくなってただろうからな)


 あまり好きではないライエンがいるおかげで、m9オタクとしての一面が出てファンのような対応をすることもなく、飄々とした態度を取り続けることができている。

 更に一度イライザ相手に調子に乗ってしまって後に引けなくなっているという部分もあるのだが、そこについては考えたら負けだとハナから思考を放棄している。


「とりあえず適当な喫茶店にでも入ろう。あそこなんかどうかな?」


 そう言ってライエンが指さしたのは、お世辞にも栄えているとは言えなさそうな寂れた店だった。

 けれど人目を避けるにはああいう場所が適しているのは間違いない。

 まずは軽く腹を満たしながら作戦会議をしようと、四人は店に入るのだった――。



 ダンディなロマンスグレーがやっているらしく、店内はかなり落ち着いた雰囲気だった。

 ようやくまともに話をすることができそうだ、と茶菓子をポリポリとつまむ。

 向かいに座っているイライザとスゥがあれが美味しそうこれも美味しいと女子トークに花を咲かせている隙に、アッシュは一番気になる部分を聞いておくことに下。


「まず最初に聞きたいんだけど、ライエンは今固有スキルをどこまで使えるようになってる?」

「……自分でちゃんとコントロールして使えるのは、第一のスキルである能力差の補正と、第二のスキルの魔法強化までだね」

「……俺と戦った時そのまま、全部が使えるようになってるわけじゃないんだな」


 初めて耳にする情報に驚きながら、声を潜めるアッシュ。

 意外な答えに、顎に手をやって思考を回す。

 てっきり全てのスキルが解放されていると思っていた。

 まだスキルが二つしかないとなると、戦い方も考える必要があるだろう。


「といっても実際のところ、七つ目まで使えることも多いんだ?」

「はぁ? どういうことだ?」

「僕のスキルは、その……簡単に言えば僕の感情というか、精神面によって大きく左右されるんだ。効果の大小もそうだし、スキルの発動自体も僕がその時どんなことを考えているかで変わってくる。だからそうだね、例えば……絶対に力を発揮したいと思ったタイミングが来れば、きっと全てのスキルを使いこなすことができる」


 元々ライエンの固有スキル『勇者の心得』は逆境やヒロイン救出などの覚醒イベントを減ることで一つ一つ解放されていくものだった。

 だがアッシュとの激闘でスキルの箍が外れたおかげで、今では気持ちさえ乗れば覚醒し、全スキルが使用可能になるそうだ。


 それなら戦闘では問題はなさそうだ。

 今回戦う相手は、死力を尽くさなければ負けるような奴なのだから。


(けど……それなら今戦ったら多分、俺が負けるだろうな)


 思い出されるのはかつての記憶だ。

 武闘会で戦った時のライエンはまともな実戦経験もなく、まだレベルも一桁だった。

 だからこそ勇者スキルによって差を埋められても、なんとかアッシュが勝つことができたのだ。


 現在もレベルの方ではアッシュが勝っているとはいえ、スキルの使い方を覚え、使いこなせるようになった今のライエンと戦えば、恐らく勝つのは難しいだろう。

 なんとか引き分けに持ち込めるかどうか、という感じだと思う。


 正直悔しいが……それでいいと思う自分もいた。

 弱い主人公には世界など守れない。

 であれば自分は彼の手助けをすることができれば、お助けキャラとしての役目は全うできる。


 今回シルキィとナターシャを呼んで万全の体制を整えなかったのは、ライエンの今後のことを考えてである。

 今のところライエンは話を聞いている限り、本当に生きるか死ぬかという命のやり取りをした経験がない。


 それは後に展開に齟齬を来すほどの差になりかねない。

 話を聞いていても、やはり何度も死線をくぐり抜けなければ、ライエンは自分の持つ真の力を使いこなすことはできないはずだ。

 で、あれば……。


(多少危険でも……俺とライエンでヴェッヒャーを倒す。大丈夫だ、今の俺とこいつなら……やってやれないことはない)


 こうしてアッシュはスゥやイライザに怪訝そうな顔をされながらも、ライエンと二人で戦うための綿密な打ち合わせを行い続けた。

 ライエンは何も言わず、黙ってアッシュに従って手を抜かずに話を続けてくれる。

 そんな二人を見てスゥ達は不思議そうな顔をしていたが……何か思うところがあったのか、特に文句の一つも言わず、黙って会話に参加してくれたのだった――。

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