活路
「魚にゃっ! 魚にゃっ!」
と大喜びではしゃいでいるミミに好きなだけご飯を食べさせてやれば、お腹を風船のようにパンパンに膨らませた彼女はすぐに眠ってしまった。
なんとも欲求に正直な生き方だ。
自分の死の運命をねじ曲げるために努力を続けたアッシュは、我欲を押し殺して生きてきたと言っていい。
もちろん今の強さがあるのも、メルシィに会うことができたのも今の自分だからこそ。
ストイックに生きてきた己の人生を否定する気はないが、ミミのことを少し羨ましく感じる自分もいた。
(そういえばヴェッヒャーを倒した後のことは考えていなかったな……)
m9で自分を殺すことになるヴェッヒャーを倒すことで頭がいっぱいになっているアッシュ。
現状彼は自分のことに手一杯なせいで、他のキャラクター達のことまで手を回すことができないでいる。
ただ、今はゲーム世界でも、開始されてから半年ちょっとしか経っていない。
キャラへの分岐やエンドの種類が決まる主要なイベントが来るのは、幸い自分が死の運命と直面してからだ。
死んだら元も子もないので、今までは意識的に考えないようにしてきた。
(もう少しくらいは自分のことを大切にしてもいいのかもしれないな)
アッシュは思考を一区切りして、立ち上がる。
湖を見つめ、周囲の人影がないかを確認。
幸いいるのは、ぐっすりと眠っているミミだけだった。
よかった。
これであれば――さっき練習をしている最中に頭に浮かんだ思いつきを、試すことができる。
「一つ――アイデアが思いついた」
魔法の同時起動は、本来のm9にはない要素である。
アッシュはランニングをしながら魔法を使ったりといった感じで何かをしながら魔法を使うことをできるようにして。
そこから魔法を使いながら魔法を使うことへステップアップする形で、この技術を手に入れた。
だが同時に制御ができる魔法の数は、二つが限度だった。
けれど、ここに遅延で滞留させた魔法を使うことができるなら――。
「やれるかもしれない……今までは不可能だった、極大魔法の三重起動が」
アッシュの魔力が爆発的に高まり、そして――。
「ん、むぅ……なんにゃ、もう朝……?」
手で顔をくしくしとしながら意識を覚醒させるミミ。
彼女は起き上がり、ぐぐっと伸びをした。
そして彼女は……
「な、なんにゃああああああああああっっ!」
彼女は気付いてしまった。
ついさっきまで並々と水が満ち、お魚さん達が回遊していた湖が……その形を大きく変えてしまっていることに。
それはもう、湖ではなかった。
そこにあるのは、抉られたようになっている巨大なクレーターだ。
水は干上がり、ピチピチと魚が地面の上を跳ねている。
そしてわずかに残る水だけが、かつてそこに湖があったことを示していた。
「さ、魚が……って、そうじゃないにゃ!」
目の前の魚に目が奪われそうになるミミだったが、流石にこの現象への興味の方が勝った。
ダンジョンの中の環境を変えてしまう何か。
その原因として思い当たる人物を、ミミは一人しか知らなかった。
くるりと後ろを振り返る。
そこには――満足げな表情で笑っているアッシュの姿があったのだった……。
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