ウィンドバースト
「そうにゃあ……」
遅延の魔法の効果を聞かされたミミは、少し悩んでからアドバイスをしてくれた。
そしてその内容を聞いてみると、確かにと思える部分があった。
「まず最初にその魔法を設置するって考え方があるにゃ」
「設置?」
「置いておけるのなら、罠みたいな形で使うこともできるはずにゃ」
遅延の魔法は、いつでも発動できる魔法を空中で滞空させるさせる魔法である。
遅延させる秒数は発動時に設定するのが普通だが、倍の魔力を消費してもいいのなら逐次MPを使う形で効果時間を引き延ばすこともできる。
アッシュは今まで効率的に魔法を使うために、秒数を事前に設定する形を取ることがほとんどだった。
だが確かに考えてみれば、アッシュのMPは既に200を優に超えており、『与ダメージ比例MP回復』と戦闘中に自然回復するMPのことを考えれば、わりと潤沢に魔法を使うだけの余裕はある。
言われていた通り、遅延を置き型の罠として使ってみることにした。
(精度を気にしなくていいんなら、わざわざ魔法の弾丸を使う理由もない。別の魔法でも使ってみるか)
とりあえずエアカッターを発動させることに。
そして水の中の一定のポイントで滞空させた。
遅延は魔法の発動時にも発動中にも使うことができる。
今回は魔法の発動中に停止させ、罠のように使うことにした。
「次は誘い出すか」
ただリーガルフィッシュを狙うだけでは芸がない。
というわけで動きが速く、より深いところで泳いでいるため魔法の弾丸だけでは捉えられれないパープルツナという魔物を狙うことにした。
その見た目は完全に紫色のマグロ。
けれど額には角が生えており、そのひれやえらのあたりからはすごい勢いで水が噴き出している。
食べたら美味しいのかどうかは、実際に食べて知ることにしよう。
そのちょっとグロテスクな見た目マグロを見ながら、魔法の弾丸を魚へと放つ。
魔法の弾丸は水の中を進んでいくに連れ減速していく。
当たれば一撃で木っ端微塵になる威力はあるはずなのだが、高速で動くパープルツナはその攻撃を容易く避けてみせた。
「魔法の連弾、十連」
続いて一発一発の軌道を変えながら魔法の連弾を放つことで、擬似的な包囲網を作っていく。
再度魔法の連弾を放つことで、パープルツナの泳ぐ先をある程度絞ることに成功。
ブシュブシュブシュッ!
そして見事アッシュが遅延で設置しておいた場所へ飛び込んでいき、パープルツナは風の刃で切り刻まれ……そして見事に沈んでいった。
「にゃああああああああぁぁっっ!!」
慟哭するミミを見て何故か安心する自分がいることに驚きつつ、アッシュは更に思考を発展させる。
とりあえずミミに魚を食べさせて先へ進むためにも、なんとかして魚を打ち上げなければならない。
(なんとか風魔法でこちらまで打ち上げてみるか)
恐らく空気を利用するからだろう、風系の魔法は攻撃距離が伸びると威力が大きく減衰する特徴がある。
その特徴を活かすため、しっかりと威力を下げてから遅延を発動。
再度パープルツナを追い込む。
やや威力が落ちた風魔法のウィンドバーストを食らったパープルツナは、ダメージを受け全身傷だらけになったが、陸に打ち上げられるまでの威力はなかった。
再度試していく中で、アッシュは遅延の魔法の更なる特性に気付いた。
それは魔法を遅延させることができるのが一つだけではないという点、そして同じ種類の魔法であればMP使用量が変わらないという点である。
同じ魔法を使いさえすれば、たとえそれが何個であっても、同じMP使用量で魔法を遅延させることができるのである。
現にアッシュがウィンドバーストを三つ遅延させたとしても、消費するMPの量は変わらなかった。
停止させるコストが高すぎるのがネックだと思っていて使わなかったが、このような使い方ができるのならトータルで見てMP消費効率がいい戦闘方法を編み出すことも可能そうだ。
そしてアッシュは遅延による魔法の連続攻撃や相手へ妨害や罠を仕掛けたりするやり方に習熟していきながら練習を続けていく。
自分なりに満足のいく水準までいけたと思えた時、ついに……。
「にゃ……にゃあああああっっ! マグロ、マグロにゃっ!」
アッシュはウィンドバーストの連続起動により、パープルツナを切り刻むことなく、陸に打ち上げることに成功するのだった――。
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