同行者
アッシュはとりあえずミミ達をこのダンジョン、『翡翠の迷宮』の外へ連れて行くことにした。
(ミミ達にこの狩り場はまだ少し早い。いくらスキルが強力だからって、ちょっとそれにあぐらをかきすぎだ)
先ほど戦闘を見た様子、ミミは片手で数えられる程度しか魔法を覚えていないようだった。
身体の動きから察するに、恐らくレベルは10にも満たないだろう。
好奇心が旺盛なミミが身の丈に合わない階層へと突っ込んでしまったのではないか、というのがアッシュの見立てだった。
「エクストラヒール」
「にゃ、にゃあ……回復魔法まで使えるにゃんて……」
道中ミミが足を怪我していることに気付いたので、回復魔法を使うと、ミミの瞳のキラキラ具合は明らかに増していた。
アッシュからすればただ痛くて見ていられなかったので怪我を治しただけなのだが……。
どうやらミミは、自分を助けてくれたアッシュに対してかなり強い恩義を感じているようだった。
アッシュはどうしてそんなに自分を見る目が輝いているのかわからなかった。
共に冒険へ出掛けるのが『風将』シルキィや『剣聖』ナターシャである彼は、世間一般の冒険者の常識から大分ズレている。
――見ず知らずの誰かのために回復魔法を使うことは、誰にでもできることではない。
MPは無限に湧いてくるものではない。
ダンジョンなどといういつ魔物に襲われるかもわからない環境下で、誰かのために限りあるMPを使うことは、決して当たり前ではないのだ。
(この人はすごい人にゃ! 自分の力をしっかりと使いこなしているのにゃ! しかもミミ達のことを、わざわざ戻ってきてまで助けてくれた!)
ミミの中でのアッシュへの好意は、先導しながら魔物を易々と処理していくその後ろ姿を見る度に募っていくのだった……。
『翡翠の迷宮』を抜けると、ミミの方から今回のお礼がしたいと食事に誘われた。
彼女が今何をしているのかは、たしかに気になるところだ。
アッシュはそれを快諾し、彼女の馴染みの酒場に同行させてもらうことにした。
ちなみに
「にゃあはミミっていうにゃ! 冒険者猫をやってるにゃ!」
「冒険者猫ってなんだよ……(素敵なお名前ですね)」
「本音と建て前が逆になってるにゃ!?」
「ちなみに俺の名前はアッシュだ」
「この人、もしかしてすごいマイペースにゃ!?」
ミミは元々ざっくばらんというか、屈折したキャラが多いm9の中では一二を争うほどに裏表のないキャラである。
おかげでアッシュの方も気取らず、わりと素に近い感じで話すことができた。
話すことが好きなミミをおだてながら、彼女が今どんな風に過ごしているのかを聞いていく。
どうやらミミは先ほど言っていた通り、冒険者猫として生活をしているようだ。
冒険者猫がなんなのか完全に理解できたわけではないが、多分冒険者とそれほど変わりはしないだろう。
ちなみにミミと行動を共にしていた彼女は、同行していない。
どうやら今回だけの臨時パーティーだったらしい。
「とりあえずご飯にするにゃ、今日はミミのおごりだから好きなものを好きなだけ食べていいにゃ!」
「じゃあ果実水を一つに、オーク肉のステーキを一つ、焼き加減はミディアムレアで。それと野菜炒めを濃い味一つ、デザートはこの四つあるやつ全部一つずつで」
「こ、この恩人本当に容赦がないにゃっ!? ……ミミあんまりお金がないから、三品までにしてほしいにゃ」
もちろん冗談なので、アッシュは中で一番安かった野菜炒めだけを頼む。
そのまま頭を撫でてやると、どうやら自分がからかわれていたらしいとわかったミミが、ふしゃーっと猫のような鳴き声を出しながら、髪の毛を逆立てている。
「にゃあ……」
だがどうやら撫でられるのは嫌いではないようで、気持ちよさそうに目を細めている。
こうやって見ていると、本当に猫のようだった。
ご飯を平らげ、そろそろ店を出ようかというところになって、ミミはアッシュの方を上目遣いで見つめてくる。
「アッシュさん……ミミのことを、鍛えてほしいにゃ」
「ん、いいぞ」
アッシュはあらかじめ、何を言われるか大体想像がついていた。
ミミのことは嫌いではないし、彼女の固有スキルはかなり強い。
彼女はスキルの使い方をしっかりと磨いていけば、ゆくゆくはアッシュより強くなるであろう、強キャラのうちの一人だからだ。
鍛えておいて、今後損になることはないだろう。
それにアッシュ自身、優先順位の高い巻物収集は済んでいるし、若干飽きもきていた。
アッシュの旅に同行してもらいがてら、彼女のことを鍛えていけばいいだろう。
まさか簡単にオッケーをもらえるとは思っていなかったミミが、目を白黒させている。
こうしてアッシュの巻物探しの旅には、新たな同行者がつくことになったのだった――。




