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翡翠の迷宮


 『翡翠の迷宮』はいわゆるコンセプト型と呼ばれるタイプのダンジョンであった。

 翡翠とは古くから使われており、勾玉の原料などに使用されていた硬玉のことを差す。


 『翡翠の迷宮』は宗教チックというか、どことなく日本の古代文化を彷彿とさせるような魔物が多い。


「カアッカアッ!」


 上で人を襲っている魔物は、第十三階層のボスモンスターであるヤタガラスだった。

 見た目はそのままその手に鏡を持っている三つ足の烏だ。


 体色は紫で、うっすらと靄のようなものが立ち上っていて不気味な見た目をしている。


 そこで戦っているのは、二人の人物だった。


「くっ――ダメよミミ、無茶なことを」

「で、でもやらにゃいとこのままじゃジリ貧にゃ。――行くにゃあああっ!」


(おいおい嘘だろ……ここでミミに遭遇するのかよっ!)


 アッシュが我が目を疑った。

 けれどそれは間違いなく、彼が知っているドジケモミミ少女のミミだった。

 彼女が持つ固有スキル『キャットファイト』が発動している。


「にゃんこファイアボール!」


 ミミが魔法を発動する。

 ただの火の玉のはずのそれは――なぜか猫耳が生えた状態で生成された。


 彼女の持つ固有スキル『キャットファイト』はシルキィやライエンと同じ複数の能力を併せ持つ強力な能力だ。

 そのうちの一つが、今見せた魔法の猫化。


 彼女が使う魔法はなぜか魔法の技名ににゃんこと付き、MP消費量はそのままに威力が上がり、そして……猫耳がつくのだ。


 何を言っているかわからないかもしれないが、それは正常な感覚である。


 ミミの固有スキルはその多彩さと強化率の高さからかなり強いはずなのだが、見た目がどうにもファンシーだったり彼女自身どこか天然なところがあるせいで、ネタ枠キャラとして扱われることが多かった。


 ちなみにミミはいわゆるサブヒロインであり、個別ルートこそ存在するものの、扱いは決していいとは言えない。


 クリアには二時間もかからず、スチルも二枚程度しかなく、感情移入できるほどの感動エピソードもない。

 ミミと一緒にニャンニャン言ったり、マタタビを使って遊んでいたりしたら気付けばゲームクリアになっているという圧倒的な手抜き仕様。

 攻略をするとゲーム進行が止まり途中でクリアになってしまうタイプのキャラクターだっった。


 そのゲーム性が人気の要因だったm9においてミミが人気がなかったかと言うと、決してそんなことはない。

 彼女の存在はm9プレイヤーにとっては一種の癒やしとなっており、m9のネット掲示板ではにゃんにゃんという文字が散見される程度には皆から愛されるキャラクターだった。


 だがミミは猫のように気まぐれで、彼女のルートに入るためには、世界中のどこかにいる彼女へ何度も話しかけなければならない。


 そしてミミが何の仕事をしているのかもわりとランダム要素に左右されるので、確率によっては彼女が花屋を初めてすぐに破産したり、鉱山で馬車馬のように働かされていたりすることもあるので、本当に行動が読めないのだ。


 当たり前だがアッシュもミミが何かをやっていないか、冒険者ギルドなどで聞き込みをしてアンテナを立ててはいた。

 まったく情報が手に入らず、諦めるしかないか……と思っていたところに、突如として現れたヒロイン。


 当たり前だが、アッシュがそれを助けない理由はない。

 今のアッシュにとって、ヤタガラスなど大した魔物ではないからだ。


「――おいっ、助けはいるかっ!?」


 アッシュは戦闘中のミミに聞こえるように、階段の下から大声で叫んだ。


 ボスを倒した階段に入っている時に新たなボスへの挑戦者が現れた場合、既に攻略済みの人物はボスのいる部屋に戻ることができる。


 けれど冒険者というのは基本的に誰かからの干渉を嫌う人間も多い。

 獲物の横取りとも取られかねないために、積極的に誰かを助けようとする人間は決して多くはない。


「い……いるにゃっ! たすけてほしいのにゃっ!」


 ミミは猫のように気まぐれなので、意固地になって断れてしまう可能性もあった。

 だがどうやら今回は当たりを引いたらしいで一安心だ。


 その声を聞くと同時、アッシュは一息に階段を飛び上がり、ミミ達が戦っているボス部屋へと辿り着いた。


「魔法の連弾 十連」


 ヤタガラスの攻撃法法は基本的には単純だ。

 嘴によるつつき攻撃、鏡による相手の攻撃の反射、そして火魔法による遠距離攻撃、この三つである。


 中でも一番厄介なのは、やはり鏡による反射である。

 けれどこれは、今のアッシュにはとってまったく問題にはならない。



 ズガガガガガガッ!



 攻撃を反射させようと鏡をキラリと輝かせたヤタガラスの全身に、アッシュの魔法の弾丸が風穴をあけていく。


 ヤタガラスの攻撃反射には与ダメージによる反射限界が存在する。

 既にレベルが46まで上がったアッシュの魔法の弾丸であれば、跳ね返すことができるのは一発が限度なのだ。


「魔法の弾丸」


 自分の方に跳ね返ってきた弾丸に再度発動させた魔法の弾丸を合わせて相殺させると、九発の弾丸を受けたヤタガラスのHPが全損しそのままバタリと倒れ込んだ。


「す、すご……」

「にゃ、にゃんという強さ……にゃあ達じゃ足下にも及ばなそうにゃ……」


 どうやらパーティーを組んでいるらしい女の子と一緒に話をしているミミ。

 目をキラキラと輝かせながら、アッシュの方をジッと見つめている。


 イライザの時に一度手痛い失敗をしていたアッシュは、慎重になりながらも話しかけてみることにした。


 ミミが今後どうなりそうなのかをあらかじめ知っておけば、彼女に襲いかかる悲劇を事前に払いのけておくことができる。

 アッシュはヒロイン達全員の幸せを願ってやまない、ハッピーエンド至上主義者なのである。



12/28に『かませ犬な第一王子に転生したので、ゲーム知識で無双する』の第一巻が発売いたします!


挿絵(By みてみん)



作品の今後にも関わってきますので、書店で見かけた際はぜひ一度手に取ってみてください!

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