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五千倍


 だが目の前のシルキィは、アッシュが知っている彼女よりかなり幼いような気がする。


 たしか二十四歳だったはずだけど……と考えて、今が本来のゲーム開始時点よりずっと前であることを思い出す。


 王都防衛戦が始まる……つまりシルキィがキャラとして登場するのは、ライエン達が入学して更に二年が経ってからのこと。

 逆算すれば、今のシルキィは十二歳のはずだ。


 十二歳、ということは今年ようやく冒険者ギルドに登録したということだ。


 いくら彼女が魔法の才能があるとはいえ、たしかに入ったばかりでいきなり名前を知られてたら不審がるのも当然だ。


(ヤバい……つい目の前に知ってるキャラがいたからテンションが上がっちゃった。でもm9ファンなら仕方ないことだとも思う)


 シルキィは、合計二度行われた人気投票においていずれも上位へのランクインを果たしている。


 いつも気だるげで、口癖は「風になりたい」。


 めんどくさそうな態度ばかりとるけれど実は家庭的で、料理がめちゃくちゃ上手くて…………と脳内でヲタク特有の早口を出しているうちに、自分があまりに沈黙し過ぎているところまで頭が回る。


 ハッとして意識を現実に戻すと、むむ……と言いながらシルキィがアッシュのことを見つめていた。


 目の前に大好きなキャラがいるという事実に胸を弾ませながらも、どうしようと焦って心臓はバクバクだ。


 自分の態度や言動は、不審に思われてはいないだろうか。


「……ま、いっか。うちの家は有名だから、どっかで見たんでしょ」

「そ、そそそそうです。リンドバーグは優れた魔法使いの家系なので、俺も一魔法使いとして見習いたいと……」

「どもんなし、キショいよ」


 シルキィは、言葉自体は割と辛辣だ。


 だが、それがいい。


 アッシュはそう思うタイプの人間だった。


「そろそろMP戻った?」

「あ、はい何発か打てる程度には」

「そっか、それじゃあ私が手ほどきしたげる。私が教える機会なんて滅多にないんだから、ありがたく頂戴しとき~?」

「えっ……本当ですか!? ありがとうございます!」

「うんうん、人間素直が一番」


 アッシュは今まで、魔法を誰かに習うことができなかった。

 平民の自分に魔法を教えてくれるような物好きがどこにもいなかったからだ。


 そのため彼は魔法を使おうとすると浮かぶあのMPと魔法の表記だけを頼りに、独学で魔法を使ってきた。


 痛みがやってくるということと、それが魔法を使っていけば慣れてくるということだけを人づてに聞き、その不確定な情報だけを頼りにこれまで魔法を使ってきたのだ。


 ゲームにもそんな設定はあった気がするが、実際にやってみると痛みも疲労もとんでもなく酷いものだった。


 ゲームとリアルはやはり違うということなのだろう。


 何にせよ、教えてくれるというのならこれほど嬉しいことはない。


 しかもそれが将来王国の防衛の一端を担う『風将』シルキィから教えられるとなれば尚更だ。


 この機会を逃すわけにはいかない、とアッシュは真剣に話を聞く体勢になった。


 真面目モードになったアッシュを見て、シルキィは満足げに頷いてから的の方へ指をさす。


「あんた……えっと、名前は何?」

「あ、すいません。セピアと言います」

「セピアね、わかった。ねぇセピア、あんた魔法は独学っしょ?」

「えっと……はい、その通りです」


 どうして当てられたのか一瞬不思議に思ったが、シルキィは適当そうに見えてもかなりいいとこの出のご息女だ。


 魔法使い達のネットワークに自分の姿がないことから、簡単に予想できたのだろう。


「魔力を持ってるのは、大体百人に一人。その中で魔法の痛みに耐えられるのが五人に一人、更にそれを使いこなせるだけの才能か根性がある人間が十人に一人。まずおめでと、セピア。あんたは既に、倍率五千倍の魔法使いの切符を手に入れてる。あとは駆け上がるだけだから、頑張り~」

「五千倍………」


 魔力を持っている人間がそれほど多くないということは、両親から聞いていたのでアッシュも知っていた。


 だがそこから更にふるいがあることも、自分が気付かぬうちにそれを乗り越えていたことも全く知らなかった。


 ただ魔法を使いたい、ゲームでアッシュが使えていたから自分にもできるはず、というかできるようにならなくちゃ死ぬ、とがむしゃらに頑張ってきた。


 その努力が実ったのだと他ならぬ天才魔法使いシルキィに認めてもらえたことが、アッシュには何よりも誇らしかった。

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