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望み


「ふむ、なるほどな……」


 王立ユークトヴァニア魔法学院の校長室。

 校長だけが座ることを許されているはずの革張りの椅子の上でふんぞり返っているのは、リンドバーグ辺境伯である。

 彼のすぐ隣にはその一挙手一頭足にビクつき、不安そうな顔をしている校長のマリアの姿があった。


 そしてその向かいには、今回属性魔法の弾丸を覚えにメレメレ鉱山に行ってきたアッシュが。

 そしてアッシュの後ろには、自分の愛娘であるシルキィと『剣聖』ナターシャが立っている。

 未だアッシュの方が背が小さいので、どうにもアンバランスな感じは否めない。


 リンドバーグ辺境伯は話があるというアッシュ達の言葉を受け、再度魔法学院へとやって来ていた。

 そして今現在報告を聞き終え、腕を組んで瞑目しながら考えをまとめていた。


(魔王軍幹部、シリウス・ブラックウィング……未だ名前すらわかっていない魔王の幹部を倒した。にわかには信じがたい話だが……こいつらならと思わなくもない)


 実はリンドバーグ辺境伯を始め、フェルナンド王国の重鎮には、既に神殿からは新たな神託が下されていることが知らされている。


『勇者の対となる魔王が現れ、世界を混沌に飲み込もうとするであろう――』


 勇者であるライエン。

 昨今魔物被害が大きくなりつつあり壊滅する街も出てきている中現れた新たな御旗。


 最近出た中では珍しい明るいニュースが来たかと思えば、崖から叩き落とすかのような新たな神託。

 現在王国内部は、政治闘争や魔王への対策に追われててんやわんやな状態だった。


 『風将』シルキィや『剣聖』ナターシャにすら未だ知らされていないことからもわかるように、この神託は王国秘中の秘。

 無用な混乱を避けるため、辺境伯を含めてこれを知る人物の数は五指に満たない。

 そのため現在は各地で増加する魔物被害への対策のためという名目で、国がどんどんと軍事費に関する補助を出している。


 当たり前だが、アッシュ達に神託が漏れているはずがない。

 となれば本当に魔王軍の幹部を倒したことになるわけだが――。


「アッシュ」

「はい」

「魔王軍幹部という敵方の重鎮をたったの三人で討伐したその功績、誠に比類なし。けれど申し訳ないが、今回はシルキィの手柄ということで納得してもらいたい」

「ちょっとお父さん、いくらなんでもそれはないんじゃないの?」


 文句タラタラな様子で父を睨むシルキィ。

 けれどそれは以前のようにやけっぱちなそれではなく、父親に対して娘が向けるごく当然のものだった。

 既に親子仲が改善している気が置けない二人からすれば、腹蔵なく意見を述べ合うことができる。


「シルキィ、お前から見てナターシャはどうだ?」

「真面目、堅物、言葉少な、根暗」


 シルキィの無遠慮な言葉に、ナターシャの目がスッと細くなる。

 それに気付いた辺境伯はにぃっと笑い、隣にいるマリア校長はとうとう緊張感に耐えきれずに机に手を伸ばした。


 そしてアッシュが二人に買ってきた火酒のうちの一本に手をかけて、キュポンッと魔法で器用にコルクを抜いてがぶ飲みし始める。

 強者達が放つプレッシャーと辺境伯が常に発している闘気にあてられ、とうとう我慢が効かなくなり、おかしくなってしまったようだ。


「……でも信用はできるよ」

「そうか、それなら説明しよう」


 理由は聞かず、娘の言葉を信じた辺境伯はアッシュ達に魔王についての諸々を話すことにした。

 無論アッシュについて聞かなかったのは、既に彼については自身で品定めを行っていたからである。


 マリア校長が時折むせながら火酒を半分ほど飲んだ頃には、全ての説明が終わった。


「俺はこれをシルキィ――つまりは時期辺境伯である『風将』の手柄とすることで、王国の政治中枢の掌握を目指す。互いに足を引っ張り合ってるこんな現状では、世界そのものを飲み込む魔王などという化け物を相手にして勝てるはずがないからな」


 長い平和が続いたことにより、現在のフェルナンド王国の政治体制は腐敗の一途を辿っている。

 基本的にまつりごとが苦手であまり興味もない辺境伯からすれば誠に不本意なことではあるのだが、彼は魔物達の大軍や魔王を相手にして有効な手が打てる人間は、王国上層部において自分しかいないことをしっかりと理解していた。


 最前線で魔物を倒して開拓をしてきたような自分でなければ、これから先にやってくるであろう国難を前にして戦い抜くことはできないであろうことも。


 嫡子であるシルキィが魔王の幹部のうちの一体を倒したという事実は、リンドバーグ辺境伯が魔王に対抗できるという何より雄弁な証拠となり得る――いや、なるようにしてみせる。

 辺境伯は校長が酔っ払ってろくでもないことを始める前に手刀でその意識を奪い、アッシュ達の方に向き治った。


「無論、相応の報酬は用意しよう。シルキィは既に国防を担う『風将』の立場だから報奨が出るだけだ」


 既に国難にあたる立場である以上、その処遇は当然だった。

 シルキィが不満もなく頷くのを見てから、次にナターシャの方を見る。


「ナターシャ、いくら『剣聖』の二つ名を授かったとしても、お前の身分は未だ百人隊長に過ぎない。今後も色々と動くとなると、その立場ではやりにくかろう。非公式ではあるが、後に将軍職の座につけることを約束しよう」


 こくり、とナターシャも頷く。

 興味なさそうな表情をしているが、その瞳の奥がキラッと一瞬輝いたのを、辺境伯は見逃さなかった。


「さて、アッシュ。聞けば今回の戦い、お前の活躍に拠る部分が非常に大きい。さあアッシュ、お前はいったい何を望む? 辺境伯が叶えられる程度のものであれば、どんなものでも聞いてやるが――」

「えっと……それじゃあ――」


 アッシュの続けた言葉に、辺境伯は快活に笑うのだった――。


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