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vsシリウス 5


「グアアアアアッ!!」


 羽根と一体化した左腕が宙を舞う。

 ブシャアッと音が聞こえるほどの勢いで血が噴き出し、ナターシャの頬を赤く染める。


 左腕がなくなったことが信じられないかというようにシリウスが右腕を回し、先ほどまで腕があったはずの虚空に手を伸ばす。

 当たり前だが掴めるのは空気だけで、そこに腕はない。


 その隙だらけの様子を見逃すナターシャではない。

 剣が無限軌道を描くかのように奔る。

 引いてから突くまでのラグが極限まで削られた彼女の攻撃が高速で放たれていく。


 レベルアップと『剣神の寵愛』により、剣技を振るうナターシャの動きは人体の限界を超える。

 音に迫る速度で放たれる神速の突きは、剣先の残像を幾重にも生み出し、突きが当たる瞬間には次の突きが当たっていた。


 ドガガガガッ!


 鳥が木々の中にいる虫を啄む嘴のような、軽々と放たれるようにしか見えぬ一撃。

 しかしあらゆる補正がかかったナターシャのそれは、その一突き一突きが必殺の威力を持つ。

 岩を穿ち、鉄を貫き、硬皮を切り裂く必殺の連撃は、左腕消失のショックからゲートによる防御を怠っていたシリウスに命中していく。


「ガッ!? グッ!? ガアッ!?」


 シリウスの身体に赤い花が咲いていく。

 暴力そのものであれど、剣のきらめきは美しく、その鋭さが咲かせる赤を照り返している。

 苦悶の顔を浮かべるシリウスに、先ほどまであった余裕はない。

 そこにある兆候を見たアッシュは、自分の後ろ側へと魔法の弾丸を放つ。


 ブオンッ!


 暴風が吹き荒れ、アッシュの頬を浅く裂く。

 彼の視界の先にいるのは、指を上に上げて強力な一撃を放ったあとのシルキィだった。


 アッシュの視線に気付いたシルキィは、いつものように眠たげな顔をしたまま、パチンとウィンクをした。


「ディメンジョンゲート!」

「――っ! 逃がさないっ!」


 ナターシャの振りかぶった一撃は、たしかにシリウスの身体を袈裟懸けに切り裂いた。

 けれどシリウスは自らの身体をゲートの中へと埋め……そのままこの場から消失してしまった。


 息を荒げているアッシュとナターシャ。

 そして強力な魔法を使ったせいでどこかダルそうなシルキィ。

 三人の顔に、悲壮感はない。


「うん、二人ともありがと。私は先行っとくから、ついてきてね~」


 シルキィはそれだけ言うと、風をその身に纏い、正しく風の速さでその場から消えてしまったのだった――。






「ぐっ、はあっ、はあっ……」


 水鏡の塔の最深部の一画、行き止まりになっている区画にシリウスの姿がある。

 左腕は肘から先を失っており、右腕にもいくつもの刀傷があり無事とは言いがたい。

 全身は傷だらけで、特に肩から腰にかけて大きな裂傷があった。


 シリウスは回復魔法を使い応急処置を施しながら、歯を食いしばる。


「くっ、この俺があんな、人間どもに……」


 シリウスは人間を侮っていた。

 今まで魔物に脅かされ、いいようにされてきただけの人間など取るに足らぬ存在だと、最初から全力を出さずに舐めていたのだ。

 そしてそのせいで不意打ちを食らってしまい……結果はこの様だ。


「……いや、今回ばかりは、認識を改めなければいけないだろうな……」


 認めよう、今回ばかりはシリウスの完敗だった。

 これだけ傷を付けられては、人間の中にも場合によっては自分にも勝るだけの強者がいると認めざるを得ない。


 だがこれもまた一つの教訓だ。

 今後はたとえ相手が人間であっても決して手を抜くことなく、全力であたらなければなるまい。

 今まであった傲りを恥じ、シリウスはまた一つ学びを得た。


 ――だがその教訓を活かすことができるのは、彼が生き延びた場合のみ。


「風精霊召喚」

「なっ、貴様はっ!? なぜこの場所が――」


 シリウスが振り返った先にいたのは、全身に風を纏い緑色のオーラを放つシルキィ。

 彼女の隣には、自身が召喚した美しい女性の見目をした精霊の姿がある。


「なぜって……風は私の親友。風の流れが変わった場所を探ることなんて朝飯前ってわけ。逃げられるとは思わない方がいいよ」

「くっ……このシリウス・ブラックウィングが、こんなところでぇぇぇっ!」

「テンペストオブゴッド」


 対単体用の上級風魔法、テンペストオブゴッド。

 神の嵐の名を冠する暴風が、シリウスの身体を削る。

 応急処置をしただけのシリウスではその一撃に耐えることはできず……彼はそのまま、全身を切り刻まれて倒れ伏す。

 そして二度と立ち上がることはなかった。


 こうしてアッシュ達は、魔法を覚えるついでに、魔王軍幹部の一画を倒すことに成功したのだった――。


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