vsシリウス 4
前を確認するが、ナターシャは魔物の影に隠れて見えない。
後ろを確認すると、暴風が吹き荒れていた。
魔物達は風に巻き上げられて天高く飛んでおり、シルキィも戦っているのがわかる。
恐らくそう遠くないうちに、二人とも合流してくれるはずだ。
だから今は、なんとしてでもシリウスの攻撃をしのがなければいけない。
シリウスは自分の身体につけているゲートから、新たな魔物を召喚する。
リザードマンやゴブリン達が、大挙をなして襲いかかろうと駆けてくる。
「魔法の連弾」
幸い、出てくる魔物はどれも雑魚ばかり。
恐らくはこちらの注意をひきつけるのが狙いだろうと、アッシュは魔法の連弾を使って的を蹴散らしながら、常にシリウスに意識を傾ける。
「ザットシュート!」
「火魔法の連弾!」
シリウスは魔物の影に隠れるようにこちらに近付いてきていた。
上背の高いリザードマンの後ろに隠れていたため、目算をわずかに見誤る。
想定より少しだけ近付かれていたシリウスが虹色の魔力球を放つ。
その数は四。
その全てにぶつけ、更には上回れるよう、アッシュは五発の弾丸を装填し放った。
ドゴオォン!
激しい激突、そして大きな爆発音が響く。
互いの攻撃は相手を飲み込まんと破裂し、炸裂し、そして衝撃波を周囲へとばらまいた。
一つ一つの攻撃力だとシリウスがわずかに上回るが、手数はアッシュの方が多い。
結果としてわずかにアッシュが優勢になる形となり、爆風はシリウスを飲み込んだ。
それを好機と見て、アッシュが剣を振る。
剣が風を斬り、うなりを上げてシリウスへと襲いかかる。
「ちいッ!」
シリウスはそれを己の爪で受け止めた。
ギャリギャリと、爪と剣が互いを押し合いながら前に出ようとする。
膂力で見れば、アッシュの方が明らかに不利だった。
けれど彼に剣を教えたのは――この世界最強の剣士である『剣聖』である。
「グウッ!?」
アッシュは押し合いを不利と見た瞬間、即座に腕に込めた力を抜いた。
互いにぶつけ合っていた力の片方がなくなるのだから、当然もう片方のシリウスは上体のバランスを崩してしまう。
アッシュはそこを狙い、すれ違いざまに剣を振る。
剣は薄くはあるがシリウスの脇腹を切り裂く。
そして刀傷部には、パッと青い華が咲いた。
それで気を弛めるアッシュではない。
彼はそのまま振り返ることもなく、裏拳の要領で背後へと剣を叩き込む。
飛びかかる際、勢いをつけながら回転をすることで前に向き直る。
そこには今度は足技を使おうとするシリウスの姿があった。
アッシュがナターシャに叩き込まれた戦法はいくつもある。
彼は一瞬のうちにその一つを使うタイミングと思い――相手の技の始動点を潰しにいく。
このm9の世界においては、固有スキルを持っている者や魔物の中でも強力な個体の中に、特殊なモーションを挟むことで通常より強力な攻撃を放つことが可能となる者達がいる。
それらの攻撃は、初動を完全につぶすことができればそもそも発動ができなくなる。
またそういった特殊なものではない攻撃であったとしても、技の始動を妨害することには意味がある。
満足な威力を発揮することができなければ、それだけで相手の動きと心は乱れる。
『戦いとは、如何に自分がしたいことを押し通し、相手がしたいことを邪魔するか』
『剣聖』ナターシャの金言は、アッシュの心にしっかりと刻まれていた。
アッシュには手数を補うための技がある。
素早い俊敏を活かした突きの連続は、着実にシリウスの神経を削ぐ。
それならば遠距離から一方的に攻撃を叩き込もうと下がるシリウスに対しては、魔法の弾丸で対処を行う。
その一つ一つのダメージは、シリウスにとって決して大きなものではない。
けれどそれらの小さな石の積み重ねは着実に小山を為し、大きな意味を持ってシリウスに精神的なダメージを与えていた。
「ちいっ、それならばっ!」
シリウスが背中の翼を掻き抱くようなモーションを取った。
それは彼が放つ必殺技の一つ――自分を中心として周囲に強力な魔法攻撃を放つ『黒翼衝撃』を放つ際の固有モーションだ。
しかしそれを見ても、アッシュは動揺していない。
彼は周囲に来る魔物を着実に減らしていきながら、魔法の弾丸をシリウスへと放ち続ける。
彼が落ち着いていられるのも、当然のことだ。
なぜならアッシュの視界には――モーションを潰すことの大切さを教えてくれた、己の師匠の姿が映っていたから。
「――シッ!」
魔物達を平らげ、気配を殺し、アッシュに意識を向けさせることでその存在を気取らせなかったナターシャ。
彼女の一閃が光の筋を描き――シリウスの翼が、切り飛ばされた。
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