vsシリウス 2
ナターシャは前に出る。
彼女の攻撃を邪魔せぬよう、またいざという時にカバーに入ってもらうことができるよう、アッシュはナターシャとシルキィの中間位置あたりをキープし続けた。
「シッ!」
『剣聖』の一撃は、重い。
威力が高く、その速度は軽い。
剣筋は翼を使って空を舞うドラゴンのように軽やかで、優雅さすら漂わせていた。
「ぐっ、ぐううっ!」
相対するシリウス・ブラックウィングは、憎々しげな様子でナターシャのことを睨んでいる。
既に傷は回復していたが、その身に纏う服は剣筋に沿うように裂かれてしまっている。
シリウス・ブラックウィングの持つユニーク魔法ゲート――それは空間と空間を繋ぐ扉を作ることができる魔法だ。
二つのゲートを設置することで両者間の往来が可能となり、それを利用して彼は後に『連結』と呼ばれることになるダンジョンと探索エリア同士をつなぎ合わせる現象を起こすことができるようになる。
彼はその強力なユニーク魔法を覚えているが故に、回復魔法や一部の攻撃魔法を除いてほとんど魔法の才能がない。
そのため使うことのできる攻撃手段は限られる。
シリウスの持つユニーク魔法は、どちらかと言えば初見殺しに近い。
彼にこちらの攻撃は当たらず、そしてあちらの攻撃は着実にこちらにやってくる。
その対応をどうしようか、その原因がどこにあるのかを考えているうちにメンバーがやられてしまい建て直しができなくなりゲームオーバー……というのが、シリウス戦をしたプレイヤーに襲いかかった悲劇であった。
しかしその初見殺しは、今はまったく機能していない。
何故ならそこに、既にそれを見たことのある人間――アッシュがいるからだ。
「エクストラヒール」
ナターシャの攻撃がシリウスの身体を通過する。
ゲートをつないでいるためにシリウスにダメージはない。
その隙を縫う形で、アッシュはナターシャの傷を回復魔法によって癒やした。
「マジック――チッ、邪魔をするなっ!」
そのアッシュの回復魔法に、シリウスが顔を歪める。
目の前にいるナターシャを治してしまうアッシュを倒さなければ、延々と回復されてしまうことになる。
そのため中衛としてナターシャとシルキィの間に入っているアッシュを倒そうとする動きを見せるシリウスに対して、即座に反応するのは戦闘慣れした二人だ。
魔法を放とうとすればそこに呼応するようにナターシャが細かい、鳥の啄みのような攻撃を繰り返す。
さらにそれに合わせるかのように、シルキィも細かくウィンド・カッターを放つことで牽制を繰り返す。
こうして細かい連打を重ねるようになったのは、シリウスのゲート対策である。
シリウスがゲートを解除して攻撃が通るようになった瞬間を逃さぬよう、またゲートを発動している最中に大きな一撃を放ってしまわぬようにした結果だった。
結果としてシリウスは舌打ちをしながらも、ゲートを維持したままナターシャとの距離を維持する。
そして一連の攻防をしているうちに、彼がナターシャにつけた傷は完全に治ってしまっていた。
相手が攻撃を防いでいる間は、こちらに干渉する手段を持たない。
その間に回復魔法を挟むことさえできれば、条件は五分に近いところまで持っていける。
シリウスはこちらに致命傷を与える手段を持たず。
そしてアッシュ達も同様だが、シリウスに最低限の攻撃を通すことはできる。
シリウスは魔物でありゲームにおいては屈指の強さを誇るボスキャラである。
大量の魔力を使用するゲートを使用し続けることができるように、その所有する魔力は文字通り桁違いなものになっている。
その分アッシュ達は、魔力をセーブしながら戦う必要があった。
けれどそれでも現状優勢なのは、アッシュ達と言えるだろう。
両者共に決定打を与えることはできなくとも、その攻防は確実にシリウスに精神的なダメージを与えることに成功しているからだ。
またシリウスが時たま使う回復魔法は、発動の瞬間に叩き込まれるシルキィとナターシャの大技との帳尻を考えると、まともな回復量を確保することができているとは言いがたい。
お互いがダメージを与え、それを回復魔法によって癒やす。
シリウスは魔法を切り替えながら戦わなければいけないため、回復魔法を使う瞬間には、ナターシャとシルキィの攻撃を食らうことになる。
対しアッシュ達は手数が三倍あるために、ナターシャが怪我をすればすぐに手当てをすることができる。
戦いは根比べの様相を呈していた。
まるでターン制の戦闘をしているかのような攻防が、数度ほど繰り返される。
それに業を煮やし新たな動きを見せたのは、人間風情にいいようにされている現状に怒りを強めたシリウスの方だった。
「貴様ら――よかロウ! 俺の全力で、叩きのめしてヤル!」
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