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vsシリウス 1


「我がゲートを使い魔物の生息領域を混ぜ合わせ始めてから未だ数日……これほどまでに高い調査能力を、まずは評価してやるべきだろうな」


 魔王軍幹部、シリウス・ブラックウィングを一言で言い表すとしたら、黒い鳥だろうか。


 その五本指についている爪は尖り、伸びている。

 その一本一本が刃物のように強靱で、鋼鉄の剣程度ではまともに打ち合うこともできない。

 二足歩行であり、足は猛禽類のように三つに分かれている。

 そして腕の手首から先には羽根がついており、両腕を広げればそれが一対の翼になり、飛翔することも可能だ。


 体色のベースの色は黒で、ところどころに白が散っている。

 大地にパラパラと雪が降っているようだった。


「だがしかし、貴様らは運がない! メレメレ鉱山を攻略するようなレベルで、このシリウス・ブラックウィングを相手にしなければならないのだから!」


 バサッ、とシリウスが両腕を広げる。

 翼を広げ、銅像のようにポーズを取った。


 それを見たシルキィが、うへぇっという顔をしてから、


「ねえアッシュ、あれ何?」

「……あれが、エリアの『連結』を行っている魔物ですよ」

「趣味悪くない? なんか、イタいやつがすごい格好つけてるみたい」

「同感。あんなのが幹部なら、魔王もたかが知れている」


 ナターシャも同意見なようで、表情筋を動かさない彼女にしては珍しく眉間にシワを寄せている。

 正直なところ、アッシュも二人に同感だった。


 シリウスはナルシストで、自分が魔王の右腕だと疑っていない(もちろん実際の所はその能力の稀有さから珍重されているだけ)ような自信家だ。


 世界は自分と魔王を中心に回っていると心の底から考えていて、人間のことなど自分達の引き立て役くらいにしか思っていない。


 滑稽だ、とアッシュは笑う。

 シリウスはなんにもわかっていない。


 たしかに自分の実力は現状、一線級とは言えない。

 けれど自分と共にある者達が――アッシュの師匠達が、いったいどれだけ強いのか。


 彼我の実力差すらまともに把握のできていないシリウスのバカさ加減に、アッシュは苦笑を禁じ得なかった。

 シルキィ達も、彼に釣られて笑う。


「――何がおかしいっ!?」


 それを見て怒ったのは、シリウスの方だ。

 彼は人間のことを魔物達にはるかに劣る存在としか思っていない。

 常日頃から劣等として見下している人間共にバカにされたのが、相当に頭にきたようだった。


「よかろう、貴様らに教えてやろうではないか! この魔王軍幹部――シリウス・ブラックウィングの恐ろしさというやつを!」


 こうして戦闘は始まる。

 戦闘開始のBGM変化もなければ、視覚的な変化がやってくるわけでもない。


 けれど突如として、空気が変わる。


 シリウスの放つプレッシャーが、アッシュの肩にのしかかった。

 だがそれでも、アッシュは笑ってみせる。


 自分の師匠達ならばやってくれると、彼女達のことを信じているから。

 そして彼女達の助けが今の自分にならできると、自分のことも信頼しているから。


「ウィンド・テンペスト!」


 戦端はシルキィが開幕から全力で放った、上級風魔法ウィンド・テンペストによって開かれた――。




「ちいっ、無粋な人間が! 神聖な戦いを不意打ちで汚すような真似しかできんとは――」


 王国で最強の風使いに与えられる称号である『風将』。

 それをいただくシルキィの放ったウィンド・テンペストを食らったはずのシリウスは――しかし、まったくの無傷だった。


 ダメージを受けたような様子もなく、その衣服にはほつれの一つもできてはおらず、彼はただ怒り心頭と言った様子でアッシュ達のことを睨んでいる。


 シリウスのその防御能力の高さから、シルキィが不思議そうな顔をする。


 こうして戦闘が始まった以上、情報の出し惜しみをする必要はない。

 アッシュは勝つために、全力を尽くすだけだ。


「シリウスが『連結』を行えるのは、彼のユニーク魔法ゲートによるものです。今はそれを小規模で発動させたことで、シルキィさんの攻撃を遠くへ逃がした形になります!」

「あーね、なるほろ」

「貴様ッ! 俺の情報を、いったいどこで――まさか、魔王軍に裏切り者がいるというのか!?」


 納得した様子のシルキィと、驚きを隠せていないシリウス。


 そんな二人の間を駆ける一筋の光がある。


 ――それは剣を構え高速で移動するナターシャの持つ剣の、剣呑な光だった。


 限界まで強化された肉体により可能となった高速移動は、風を切り音を置き去りにする。


 アッシュが一つ瞬きをする間にナターシャの姿は消えており、その背中を捉えた時には既に、彼女はシリウスに肉薄していた。


 一閃。


 ナターシャの腕がブレた次の瞬間には、剣が消え、相手の肉を抉る軌道で叩き込まれている。


「ゼロ距離なら――」


 今代の『剣聖』であるナターシャが放った一撃。


 しかしそれもまた――シリウスの目の前で消え、彼は傷一つ負っていない。

 ナターシャは剣を引き、放つ。

 身体をねじり、突き入れる。


 けれどその尽くが空振りに終わった。

 シリウスの放つ反撃に備えるため下がった彼女は、彼女は不思議そうな顔で己の剣を見つめる。


「攻撃が入らない……?」

「それもゲートの応用です! シリウスは身体の周囲を別の空間と連結させることで、攻撃を完全にシャットアウトしています! それを攻略するためには――」


 アッシュが最後まで言い切る必要は無かった。

 ナターシャは下がっていたところから反転、前に出る。


 そしてシリウスが放つ虹色の魔力弾をその身に浴びながら、そのまま剣を振り抜く。


 互いの身体に衝撃が走る。


 ナターシャの肉体が魔力弾によって抉られ、彼女が放った振り上げは、今度はシリウスの肉を裂いた。


「シリウス自身が反撃しゲートを解除する瞬間。そこに合わせて、カウンターを叩き込めばいい」

「――クソッ、人間風情がぁっ!」


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