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最強の剣と最強の杖


 テンタクルスワンプは、沼地に生息することの多い魔物である。

 その見た目は、イソギンチャクに似ている。

 真ん中に土色をした球体があり、その周囲にうねうねとした泥色の触手が伸びている。


 常に水気のあるとこで暮らしてきたためかその身体を構成するかなりの割合が水で占められており、よく見るとうっすらと後ろが透けるようになっている。

 元来持っている触手と水魔法のウォーターウィップを用いて、獲物を捕まえ、捕食する魔物だ。


 魔物に襲われている人間を見て、見捨てるなどという選択肢はない。

 シルキィはその場に留まり即座に魔法発動の準備を。

 そしてアッシュとナターシャは全速力で前に出た。



「ウィンドカッター」


 シルキィが放った下級風魔法ウィンドカッターが、本来よりも狭い範囲に、風が凝集された形で発動させる。


 『風将』である彼女が放てば、たとえ下級魔法であれど強力な魔物に痛打を与えることすら可能になる。


 その一撃は微細なほどに威力が調節されており、冒険者を捉えている触手だけを器用にすっぱりと断ち切った。


「魔法の連弾」


 アッシュとナターシャが、テンタクルスワンプへと駆けていく。

 走行中、アッシュは手なりで発動できるようになっている魔法の連弾を放つことで、再度触手が伸びるのを防ぐことにした。


 冒険者がバタリと地面に倒れ込むのと、アッシュとナターシャがテンタクルスワンプに肉薄するのは同じタイミングだった。


「――ふっ!」

「ぜあっ!」 


 ナターシャが一閃。

 そしてそれにわずかに遅れる形で、アッシュが一閃。


 クロスした剣閃が、テンタクルスワンプの中心にある球体を四つ裂きにした。

 一瞬にして魔物は絶命し、その触手はぺたりと地面につき、ドロドロに溶けていく。


「おい、大丈夫か?」

「え、ええ、なんとか……」

「エクストラヒール」

「回復魔法まで……本当にありがとう。あなた達がいなければ、私達は、今頃……」


 そこに居た冒険者は二人。

 一人は既に意識を失ってぐったりとしていたが、もう一人の方は比較的元気そうだ。

 どうやらアッシュ達と会話をするだけの余裕もありそうな様子である。


「にしてもどういうことなんだろ? なんでこのメレメレ鉱山にテンタクルスワンプが……?」


 アッシュ達に追いついてきたシルキィが、口の下に指を当てながら首を傾げる。 

 その後ろにいるナターシャも、無表情ながらうんうんと頷いて同意を示している。


 不思議そうな顔をしている彼女達を見て、アッシュは気付いてしまった。

 そこに生じたのは、わずかな迷いだった。


 彼は原作知識があるからこそこの現象がなんなのかを知っているが、彼女達はそうではない。

 フェルナンド王国の防衛に関して重要な立場にある『風将』シルキィと『剣聖』ナターシャ。

 二人が知らないと言うことは、この現象は未だ有名になってはいないのだ。


 しかし、生じた迷いはわずかに過ぎなかった。

 アッシュは自分の原作知識を使うことを、もはや躊躇しない。

 自分に嫌疑がかかろうとも、できることをすると決めたのだから。


「これは『連結』と呼ばれる現象です」

「『連結』?」

「はい、簡単に言えば二つ以上の探索エリアが繋がるワープゲートが生じるって現象ですね」

「そんなことが……ありうるの?」

「ありうるのって、実際起きてんだからありうるに決まってんじゃん?」


 これはゲーム中盤以降で時折現れるようになる現象だ。

 この『連結』現象が起こるのは、空間同士を繋ぐことのできる空間魔法を扱うことのできるとある魔物が原因となっている。


 本来のm9であればまず何故か起こるようになった探索エリアの『連結』の謎を解決するための依頼をライエンが受け、そこで偶発的にイベントが発生し、更にそこで『連結』されている別の探索エリアへ向かう選択をすることでその理由と元凶が発覚することになる。


 だがアッシュはその過程を全てすっ飛ばして、結果だけを口にすることができる。


 『連結』が起きるのは……魔王軍幹部シリウス・ブラックウィングの空間魔法のせいです……と。


 けれどそれを口に出すことは、さすがのアッシュと言えどはばかられた。


 この世界では本来魔王の存在が露わになるのはもう少し後になってからの話だからだ。


 本来は先に魔王が世界を混沌に陥れるという神託が行われてから、ライエンこそが勇者であるという神託が下る。


 ライエンの成長により勇者の神託は早まったが、その対となる魔王は、未だその存在すら明らかになっていないのだ。


 魔物の被害が明らかに増しているということはわかっても、それが魔王によって魔物が凶悪化しているからだという事実を知っている人間は、ごく一部しかいないのである。


 例えば魔王の存在が明らかになることで、本来より防衛計画が前倒しになり、それが内通者経由であちら側に伝われば……恐らく王都防衛戦はゲームとまったく異なる日取りで、異なる様相を見せることになる。


 それがわかっているからこそ、今までアッシュは王やリンドバーグ辺境伯とのホットラインを持っていながらも、それを使って助言者のような立場になることはなかった。


 勇者ライエンの身に何かが起こらぬよう、また起きればアッシュができる範囲でなんとかするようにして、自分で修整の利く範囲に収めようと努力してきたのだ。


 だがだからこそ、アッシュはこの異変に誰よりも敏感に危険を感じ取っている。


 魔王軍幹部の行動ルーチンが変わっている。

 少なくともシリウスは、この段階では未だ魔物領の奥深くで森の縄張り争いに精を出していたはずだ。


 やはり、勇者の覚醒を自分が早めてしまったことで、敵側の魔物達の行動にも変化が起こっているということなのだろう。


 で、あれば……その原因を作ってしまったアッシュには、それをなんとかする義務がある。


 本来中盤で戦うことになるシリウスは、今のアッシュ一人では勝てるかわからない強力な魔物だ。


 それに、シリウスの空間魔法を放置することはできない。

 今後『連結』が続くようになれば、冒険者を始めとする戦力に致命的な問題が起こる可能性が高いからだ。


 例えばアッシュが使っていたダンジョンである『始まりの洞窟』と、それより攻略難易度の高いメレメレ鉱山が繋がればどうなるか。


 メレメレ鉱山から溢れ出した魔物が『始まりの洞窟』にやってくることとなり、初心者冒険者達は強力な魔物によってその命を散らされてしまう。


 メレメレ鉱山よりも攻略推奨レベルが10以上高い水鏡の塔に出てくるテンタクルワームが出てきており、冒険者達がやられそうになっていた現状を見れば、このままだとマズいのは明らかだった。


「ナターシャさん、シルキィさん……この『連結』の先に、凶悪な魔物がいます。きっと今の俺だけじゃ、勝てないくらいの強敵です」


 けれど……アッシュは決して、一人ではない。

 今のアッシュのパーティーには……王国最強の剣と、王国最強の風使いがいるのだから。


「――お願いします、俺に力を貸して下さい。三人でならきっと……いえ、あなた達と一緒に戦えるのなら絶対に勝てます。三人でこんなふざけたことをしでかすバカ野郎を、ぶっ飛ばしに行ってくれませんか?」


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