異変
たまーに行き交う冒険者達から、『ハーレムパーティー死ね!』という視線を向けられながらも進んでいると、ようやくお目当ての魔物が見つかった。
「キョッキョワアァァッ!!」
そこにいたのは、スライムのような見た目をした魔物だ。
だが本来のっぺりとしているスライムとは違い、その魔物にはしっかりと凹凸があった。
青い石が二つほど目の位置に配置されており、口にあたるであろう部分には赤い石が置かれていた。
顔のようにも見えるが、あれが本当に目と口なのかはわからない。
全体の体色は赤なのだが、頭部だけなぜか緑色をしている。
そのヘンテコなスライムのような魔物の名は、ポロロッカという。
こいつこそが、アッシュが探していたあの魔法を使う魔物だった。
「お、出た出た」
「頑張れ」
シルキィは楽しそうな表情を崩さず手を振っていて、ナターシャは後方で腕を組んで、いわゆる後方腕組み面をしている。
二人のマイペースさに苦笑しながらも、アッシュは前に出た。
「いけ、風魔法でゴーゴー」
「……剣で」
二人ともアッシュの戦い方が気になっているようだったが、アッシュはいつも通りに最も使い慣れた魔法を選択した。
「魔法の弾丸」
アッシュ達の方へのろのろとやってきたポロロッカに、弾丸は吸い込まれるように飛んでいく。
そして着弾した瞬間に、ポロロッカの全身が弾け飛んだ。
そもそもアッシュは、レベルアップを繰り返して知力を向上させている。
彼のレベルは、既にメレメレ鉱山の推奨レベルより10も高い。
ぶっちゃけてしまえば、下手に大技なんぞ使わなくともここに出てくる魔物はワンパンなのだ。
「え~、つまんな」
「……剣」
後ろからの面白くなさそうな視線は努めて無視し、アッシュは自分の使える魔法を確認する。
するとそのリストの中にしっかりとお目当てのものがあり、思わずほくそ笑んでしまう。
「火魔法の弾丸」
アッシュが魔法を発動させれば、今までとは違う弾丸が飛び出していく。
赤く燃える炎。
それが弾丸を包み込んでいる。
火魔法の弾丸はオレンジ色に輝く光を尾にして前へ前へと進んでいく。
知力の向上に伴い威力も上がっているため、その速度は本来ポロロッカが放つそれを優に越えていた。
その着弾点は洞穴状になっていた部分の側壁になった。
弾頭が接触し、ほどなくして爆発。
その場に大きな爆風を起こす。
風が止んでから確認してみれば、硬い岩肌が削れている様子が見える。
威力は申し分ない。
発動までにかかった時間も、魔法の弾丸とほとんど変わらない。
使用MPが魔法の弾丸の倍なのは若干ネックではあるが、そもそも今のアッシュのMPは優に100を超えている。
長時間の連続戦闘でもしない限り、問題はなさそうだった。
「火魔法の連弾」
アッシュは魔法の弾丸と同じ要領で、複数の火魔法の弾丸を形成し、先ほどの隣の未だ無傷の岩肌へと飛ばす。
まずは三つの火魔法の弾丸を横一列に並べて岩肌へぶつける。
するとその爆発の範囲が重なった部分だけが、他と比べると凹みが大きくなっていた。
「火魔法の連弾」
それならばと、今度は三発を角度を変えて放つ。
発射タイミングを少しだけずらして角度を変え、直線的な弾道のものを一発と小山型、山なりの二発を曲射で放って着弾点を揃える。
魔法の弾丸よりも少し放つまでのラグが大きく、撃つときの手応えのようなものがあったために若干戸惑ったが、無事に成功。
三発が同時に爆発したその爆心地は、横二つにできた穴のどれよりも深くなっていた。
うん、と頷いて後ろを振り向く。
そこにはつまらなそうに髪をいじっているシルキィと、立ったまま眠っているナターシャの姿があった。
「あんたら、自由か!」
「イェ~ス、私はいつだって風みたいにフリーダム」
「すぴぴー……」
こんなんがフェルナンド最強の風魔法使いであることを示す『風将』と『剣聖』で、本当にこの国は大丈夫なんだろうか。
そう思うアッシュであった。
だがとにかく、これでお目当ての火魔法の弾丸を大過なく得ることができた。
既にアッシュ達からすればこの場所は物足りない狩り場のため、魔法さえ得ることができればメレメレ鉱山に用はない。
少し遠くて物騒な遠足だったと帰ろうとするアッシュ達の耳に……女性の叫び声が届いた。
「キャアアアアアアアアァッ!!」
シルキィは気だるげな目を見開き、眠っていたナターシャはパチリと目を覚ます。
二人はアッシュの方を向き、アッシュは彼女達へ頷きを返す。
三人は言葉を交わす間も惜しんで、悲鳴のする方へと向かう。
彼らが向かったその先には、あり得ない光景が広がっていた。
――本来ならばメレメレ鉱山で出るはずのない、水属性の魔物。
テンタクルスワンプが、冒険者を襲っていたのだ――。
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