メレメレ鉱山
メレメレ鉱山は、フェルナンド王国は東部に位置するグエン公爵領の中にあるダンジョンだ。
メレメレというのはメラメラという言葉がなまったもので、そこからもわかるようにこのダンジョンで出てくる魔物はそのほとんどが火属性である。
また、ここは鉄を始めとする各種鉱物が採れることでも有名な場所であり、冒険者がツルハシを持って入ることの多いことで有名だった。
そんな場所に、アッシュ達はえっちらおっちらと山を抜けてやってきていた。
そう、達である。
アッシュの特務ダンジョン行には、同伴する人員が二人ほどいたのである――。
「一つ聞いていいですか?」
「ん、どしたん。そんな真面目な顔して」
「やっぱり……俺が魔法覚えるために、わざわざシルキィさんが来る必要、なかったでしょ!」
「あはっ、大声出しちゃって。ウケんね」
「なんっっっにも面白くないですよ! あんた今『風将』でしょう!?」
メレメレ鉱山に入ったアッシュの右側にいるのは、緑色の髪をたなびかせる美しい女性だ。
その瞳はどこか気だるげで、髪をくるくると指で巻いていて、何が面白いのかケタケタと笑っている。
『風将』シルキィ――次期リンドバーグ辺境伯でもある彼女が、今回の同行人の一人だった。
「まま、一週間くらいサボっても問題ないっしょ」
「問題ありまくりですってば!」
「うちがいなくなったくらいでどうにかなるほど、国軍は弱くないよ。ダイジョブダイジョブ」
「本当に大丈夫なのかな……」
たしかに昔からの知り合いということもあり、アッシュは時たまシルキィに魔法の稽古をつけてもらっていた。
しかし彼女は既に、このフェルナンド王国で最も優れた風魔法の使い手であることを示す『風将』の地位にある。
次期リンドバーグ辺境伯ということもあってか公的な立場はフェルナンド王国軍の魔導師部隊の部隊長止まりになっているが、今後は軍を率いていく立場になる存在なのだ。
というか、今から近い将来にはそうなることをアッシュは知っている。
魔王軍幹部であるサハグィン率いる魔物軍団がやってくる強襲イベント、王都襲来。
それによって出た欠員を埋めるため、シルキィは軍を率いる立場の人間になり、今後国軍の軍団長にまで出世するのだから。
「問題ない。彼女は基本的に全部部下任せだから。むしろ副隊長がいなくなったりした方が、よっぽど大変なことになる」
「……俺からすると、ナターシャさんがここにいることも、それに負けず劣らず大変なことですけどね」
そしてアッシュの左にいるのは、『剣聖』ナターシャ=エラスムス。
少し前にあった王都近くでの魔獣騒ぎでの一件によりその名を轟かせ、父の二つ名を継ぎ今代の『剣聖』となった女性だ。
現在は国軍の千人隊長の地位にあり、彼女もシルキィ同様その将来を嘱望されている。
今回アッシュがリンドバーグ辺境伯からもらったフリーハンドを使って王都を出ようとしていたところ、何故か彼本人から同行者をつけると言われた。
監視役も兼ねてってことだろうな、まあ別に問題は……と高をくくっていたアッシュは、同行する面子を見て度肝を抜かれることになる。
なぜ今の自分でも少し難易度が足りていないと感じるような迷宮の同行者に、あの『風将』と『剣聖』が選ばれたのか。
アッシュは戸惑いながらも、どちらも自分の師匠なので無碍に断ることができず、そして今に至っている。
ちなみに当初は師匠呼びだったナターシャも、さん付けで呼びなさいという師匠命令があったので今ではナターシャさん呼びに変わっている。
シルキィも『風将』になった段階で名誉子爵となるために様をつけなければならないのだが、彼女に言ったら今まで通りにしないと風精霊召喚すると脅されて、さんづけのままだ。
アッシュは基本的に、彼女達には頭が上がらなかった。
(というかなんだか良い匂いがして、落ち着かないんですけどぉ!)
アッシュは道中、ずっと気が気ではなかった。
今はアッシュが先頭を行っているためにそうでもないのだが、ナターシャが前を歩いている時などはドキドキして正直まともに頭が回っていなかったのだ。
シルキィは、最初に出会った時はまだ少女だった。
ナターシャも、最初に出会ったときはまだ少女の面影を残していた。
けれど今の二人はもう、アッシュにとっては完全に年上で大人な、魅力的な女性へと変貌しているのだ。
それに加えて、アッシュも第二次性徴が始まり、変声期になりかけている時期なのもある。
以前はゲームキャラだからというのと自分があまりにも幼かったからというのがあったからなんとかなっていたが、今のアッシュは普通に性欲がある。
しかも十二、三歳というのは、前世で言えば中学生になりたての頃。
それこそ猿のように盛っていたような時期なのだ。
アッシュは今、常々襲いかかる煩悩を退散させるので精一杯だった。
おまけに――。
「うりうり~」
「ちょっ、前が見えないです、やめてくださいよ!」
「どしたん、耳真っ赤だよ?」
「バッ――」
シルキィはものすごくスキンシップが激しかったので、年頃のアッシュにはあまりにも毒だった。
自分を見てにやにや笑うシルキィを見ても、アッシュは顔を赤くしてうつむくことしかできない。
しかしそうしても、耳が真っ赤になっていることまでは隠しきれず、またシルキィに笑われる。
こんな風にからかわれるのも悪くない、そう思っている自分もいたが……アッシュはなんとかしてこらえ続ける。
もし下手なことをして二人の不興でも買おうものなら、今後どんなことになるかもわからない。
血迷ってシルキィに手でも出そうものなら、貴族への暴行というのも合わせて間違いなく斬首になるだろう。
(いやでもそういえば、リンドバーグ辺境伯は……はっ、いかん! 色即是空、空即是色……)
アッシュはなんとかして気持ちを落ち着けようと頑張り、シルキィはそれを乱すべく頑張る。
そしてナターシャはその様子を、後ろから見つめていた。
感情があまり表に出ないのでわかりづらいが……どこかぶすっとしているように見える。
こうしてダンジョンに潜っているとは思えないほどのやかましさで、三人はダンジョンを進んでいくのだった……。
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