どうしてこうなった
「君がアッシュで、合ってるかな……?」
「え、まあはい、そうですけど……?」
どうしてこうなった……どうしてこうなった、どうしてこうなったー、俺のバカ野郎ー!!
アッシュは自分の迂闊さを呪いながら、目の前にいる少年の姿を見る。
相変わらず金色の髪と、きらりと光る歯が目に眩しい男だ。
この世界において主人公であり、そして世界を救う英雄。
――ライエンが、アッシュの目の前にいる。
どこかデジャビュを感じるこの光景は、アッシュに冷や汗をだらだらと感じさせる。
アッシュは自分がm9の物語に組み込まれることまでは求めていない。
彼はただ傍観者として、メルシィ(ヒロインのはずなのに何故か攻略できないバグが修整されずにリリース二周年を迎えた)を含むm9世界のヒロイン達を救いたかっただけなのだ。
お助けキャラとして生まれ、ライエン覚醒イベントで死ぬ運命をねじ曲げるために無理をして強くなったのだ。
本当なら、強くなるだけでよかった……はずなのに。
自分が主人公じゃないということに対するフラストレーションが溜まっていたというのはもちろんある。
どうしてライエンだけ、と思ったことは一度や二度ではない。
そしてそれが爆発して、武闘会へ出て、ライエンを倒してしまった。
それがいけなかったのだろうか。
いけなかったんだろうな。
絶対にいけなかっただろ、常識的に考えて……。
自分なりに答えを出して顔を上げると、そこにはしてやったりという顔をしているイライザの姿があった。
先ほどやり込められたのが気に入らなかったからか、こうしてぐぬぬと唸っているアッシュを見て、彼女は何故か嬉しそうだった。
別にライエンが探しているのが自分かどうかは、彼女にとってはどうでもいいらしい。
自分を舐めていた奴が困っているのを見て、溜飲を下げているようだった。
(ゲームじゃわからなかったけど、案外イイ性格してるのな……ああくそ、だから原作キャラと関わりを持ちすぎないようにって話だったはずだろ、俺)
アッシュは、美少女ゲームというものにかなり強い信念を持っている。
彼はゲームのファンディスクやドラマCDはもちろん全部見るが、あくまでも本作を楽しむことに主眼を置くタイプのプレイヤーだった。
そういう性癖の彼からすると、原作キャラの表では見えない面の皮の厚さなど、別に知りたくもないのだ。
ヒロインはゲームの中だから、尊いのである。
ツンデレヒロインは、二次元の存在だからずっとツンツンしていても許されるのである。
「こいつが人探しをしていると聞いてな。その話を詳らかにしたところ、どうも私の知っている人物かもしれないという話になったんだ」
「なんでも魔法の弾丸を上手く使えるとか……見せてもらってもいいかな?」
「いえ、俺の腕なんて大したもんじゃないので……」
魔法の威力は知力に依存する。
つまりレベルが上がれば上がるだけ、基本的には魔法の威力は上がるのだ。
更にレベルを上げた今のアッシュが魔法の弾丸を放てば、間違いなくおかしな威力と貫通力であることがバレてしまう。
というかチートキャラのライエンであれば、もしかすると魔法を見ただけで自分がモノであるとバレる可能性がある。
ここで魔法を絶対に使うことはできなかった。
「大したことじゃないだとっ!? この私にあんな恥をかかせておいて……」
「アッシュ、君はイライザ……王女殿下に何をしたんだ?」
「え? 抱きついてチューしただけだが?」
「そんなことされてなあああああああいっ!」
「へぶぼっ!?」
イライザのアッパーカットが綺麗に決まり、アッシュは綺麗に宙へ浮いた。
パワーレベリングでも受けているのか、その拳は無防備だったままのアッシュに物凄く利いた。
どれくらいかと言えば……一瞬で意識を失うくらいに。
「いいパンチだったぜ……ガクッ」
アッシュはそのまま意識を失った。
彼が完全に白目を剥いているのを見て、ライエンは少しだけ白けたような顔をする。
「……違う、彼はモノじゃない」
「そうなのか?」
「ああ、あいつなら、今の攻撃をまともに食らうはずがないから」
ライエンはアッシュを介護しながら、そう呟いた。
イライザは人違いなら悪いことをしたなぁという気持ちと、王族の私に『チュチュチュチューなどと!』という初心さとの板挟みで揺れ動き、顔を真っ赤にして俯かせていた。
アッシュが攻撃を食らったのは、イライザを近くで見たせいでめちゃくちゃに動転して、逃げるとか避けるとかそういう問題ではなくなっていただけなのだが、今回はそれが幸いした。
モノならモノなら……と、修行の際に必ずモノの武闘会での姿を想像しているライエンからすれば、今のアッシュはあまりにも、その、なんというか……あまりに残念に映ったのだ。
アッシュは入学してからというもの、無能な落ちこぼれキャラが完全に板に付いている。
校内での評判も最悪に近い。
ライエンには今のアッシュが、モノとまったく重ならなかった。
顔がここまで違えば、同一人物なはずもない。
「要らぬ怪我を負わせてしまったな、あとで二人で謝りにこよう」
「……ああ、わかった」
こうしてアッシュ=モノ説は否定され、今回アッシュは難を逃れることができた。
同時にライエン達と知己にはなってしまったが……それだけで済んだのだから、まだマシだと考えるほかない。
これで当分の間、問題は起こらないだろう。
そう、それこそ……アッシュが力を使うような機会でも、こない限り。
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