第4話 道中
「これからどうするんだ?」
「なるべく離れた場所に行きたいですね。小さな村にでもお邪魔しようかと思います」
「まぁ、いきなり大きな街で問題を起こすと足も付きやすいだろうしな」
街道を進みながら、二人は楽しそうに今後の話をしていく。
悪魔は周りの人に見えないように姿を消しているので、傍からはディゼルが独り言を喋りながら笑っているようにしか見えない。
だがディゼルはそんなこと気にしない。周囲に変な目で見られてもいい。不幸な娘として皆に思われれば思われるほど、悪魔が喜ぶのだから。
「あ。困りましたわ、悪魔様」
「む? 何事だ」
「私、無一文なのです。これでは街や村に辿り着いても宿に泊まることも出来ません」
「実家から適当に金目の物を持ってくれば良かったではないか」
「早くあの家から出たくて、そこに気が回りませんでしたわ」
困ったように溜息を吐くが、ディゼルは今までの暮らしが悲惨なものであったため、多少のことで焦るようなことはない。
しかし、ただ村の隅っこで蹲っているだけじゃつまらない。
それだけでも村中に不幸を招く効果はあるが、悪魔が喜ぶような結果にはならない。
ふと、ディゼルは道端に咲いた小さな花に気付いた。
「……そうだ。私、お花を売ろうかと思います」
「花か。儚げな女を演出できていいかもしれないな。だったら、良いものをやろう。ディゼル、手を出せ」
「はい」
悪魔は懐から小さな袋を取り出してディゼルに手渡した。
悪魔の姿は消えているため、袋が突然目の前に現れてディゼルは少しだけ驚いた。
「これは……」
「魔界の花の種だ。見た目は人間界のものと変わりない。だがその花の匂いには人間に幻覚を見せたりする効果がある」
「あらあら。それは危ないお花なのですね」
ディゼルは自分の手のひらに種を出してみた。
小さくて赤い粒状の種。指先で触れると少し柔らかくて、見た目だけでは植物の種には思えない。
「これ、私が育てても問題はないのですか?」
「お前にはもう俺の血が混ざってる。魔界の花の効果は受けないから安心しろ」
「そうなのですね。でも、どこで育てましょうか」
「人の目がない場所で地面に植えろ。そこにお前の血を垂らせば、すぐに花が咲く」
「人間の血で咲くのですか。魔界の花らしい育て方ですわね」
クスクスと笑みを零しながら、袋の中に種を戻した。
家を出る前に地図を見て、ある程度の場所は頭に入れてきた。街から離れたところにある小さな村は、ディゼルの足だと一日二日はかかってしまう。その道中で野宿でもして花を少し育ててみようとディゼルは思った。