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第32話 実は似ていたのかもしれない




 ようやく見えてきた彼の心の闇。

 もう正気を保てないファルトは、腹の底に溜まったドロドロの感情の塊を吐き出していく。


「む、かし……おや、親が、妹を、虐待して……元々体が弱かったのに、そのせいで……病気になって……薬を買うために僕が頑張って働いても、お金を取られて、酒代にされて……」


 そう言いながら、ファルトは光の失った瞳から涙を零す。

 何となく、彼の生い立ちは理解出来た。ディゼルは向かい側の椅子に座り、頬杖をつく。


 彼の親は妹に虐待をしていた。妹のために必死に働いてきたのに、そのお金を奪われ、薬も買うことが出来なかった。そして積もりに積もった怒りが爆発し、彼は両親を殺したのだろう。

 親を殺す前か後かは分からないが、妹も死んだ。

 そんな自分を正当化するため、己の罪から逃げるためにファルトは人を憎むことはしないと言い続けてる。話し合えば分かるなんて綺麗事を言い続けてる。親を殺した事実を頭の中から消そうとしている。


 そんなことを一体どれくらい続けてきたのだろう。いつしか記憶までも綺麗事で隠してしまった。何重にも何重にも蓋をして、人を殺した事実を封じ込めてしまった。

 だから人を殺したら駄目なんて言えるのだ。自分が犯した罪を忘れて、妹がまだ生きてると思い込んでる。


 なるほど。ディゼルは心の中で納得した。

 悪魔が言っていた彼の心の闇。確かにこれは、とてつもなく根深い。


「貴方は、本当はどう思っているの?」

「……にく、い……妹を助けられなかった、自分も、親も、助けてくれなかった大人も、全部……」

「だったら、殺してしまえばいいのに」

「……いや、だ……いやだ……僕は、僕は、悪く、ないんだ……」

「まだ認めたくないの? 貴方は親を殺したのよ。妹のためなら許されるとでも? 子供のしたことだから許されるとでも? そうね、貴方は親から虐げられていた。正当防衛とでも言えば、貴方は許させるかもしれないわね」

「殺しちゃ、いけないって……フルールが、言ったんだ……」


 フルール。きっと妹の名前だろう。

 彼の感情の引き金を引くのは妹の存在だ。ファルトが声を荒らげたのも妹の死に触れたから。

 ディゼルはニヤッと口角を上げて笑みを浮かべた。まだきっと彼の心にはドス黒いものがあるはず。それはきっと、悪魔が喜ぶ感情。引き出してやれば、愛する方が喜ぶだろう。ディゼルは香りを強めようと、花で作ったアロマキャンドルに火を付けた。


「妹が、殺しは良くないと言ったの?」

「……親を殺した僕に、言ったんだ……こんなの、嬉しくないって……僕、僕は……フルールのために、やったのに……」

「それで?」

「カッとなって、家を飛び出して……暫くして帰ったら、妹は、死んでた……自分で、ナイフを……刺して……」

「へぇ……貴方が親を殺したショックで、妹は自ら死を選んだのね」

「ぼ……ぼく、ぼくの、せいじゃ……ない……」


 ファルトは頭を抱えて、テーブルに突っ伏した。

 目に見えるほどの深い闇。泣きじゃくる青年の姿にディゼルは静かに微笑む。


 妹を大事に思うあまり、彼はこうなってしまった。

 自分とは正反対だけど、妹がキッカケで狂ってしまったところは似ている。

 家族に狂わされた人生。少しだけディゼルは彼に同情した。




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