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第23話 偽りの神子




「今回は随分と変わった趣向だな」

「悪魔様」


 誰もいなくなった部屋で、黒い靄が現れる。

 靄から顔を出した悪魔はディゼルの頬を撫で、軽く口付けた。


「すみません、悪魔様。今の状況はあなたにはつまらないものでしょう?」

「そんなことはない。真実を知った者たちが一気に絶望する様子を想像するだけで面白い」

「良かった……」

「それに、お前がいれば腹は満たされる」


 ディゼルは嬉しそうに微笑んだ。

 今まで訪れた村などでは恋愛による揉め事を利用することが多かった。

 だが今回は違う。いつものように花を売ろうとしたら珍しがられ、無限に花を咲かせられることを知った民達が奇跡だとディゼルを崇めるようになった。

 この地では作物を育てるのにも苦労する。街の人達がディゼルに持ってくる野菜や果物もとても貴重なもの。それだけ彼女の花が価値あるものだと思われているのだ。


「元々、この地では飢えで死ぬ者が多い。誰かが死んでも花のせい、お前のせいだとはそう簡単に思わないだろうな」

「そうですね。おかげで私は食べ物にも困らず、こんなにも素敵な服を貰ってしまいましたわ」


 ディゼルはドレスの裾を軽く摘んで、クルっと回って見せた。

 この地域の民族衣装で、肌触りの良い生地に細かな刺繍が施された綺麗なドレス。この街の族長が神子様にと言ってプレゼントしてくれた特別なものだ。


「何も知らぬ、と言うのは幸せなことですね。私は神ではなく悪魔の花嫁ですのに」

「俺も神などにお前をくれてやるつもりはない。お前の不幸が、心の闇が浄化などされたら堪らないからな」

「私もですわ。この身はあなたのため、悪魔様の空腹を満たすだだけにあるのですから」

「ああ、その通りだ。それはそうと、お前の妹はまたお前を追ってくるのか?」

「来ますよ。そうでなければ困ります。私はまだ満足してませんもの」

「そうか。俺もあの時の復讐に滾るお前の魂を味わいたいからな。楽しみだ」


 ククッと喉を鳴らして笑う悪魔に、ディゼルも一緒になって微笑んだ。

 トワが今何を思っているのかは分からないし、興味もない。

 だが追ってきてくれなくては困る。まだまだ絶望を味合わせたい。苦しめたい。

 自分のため。悪魔のために。


「そういえば、お前はあのガキに随分と心を許しているようだな?」

「ミリィのことですか? そう、ですね……何だか、少しだけ幼い頃の自分と重ねてしまってるのかもしれません」

「ほう?」

「あの子は親を早くに亡くし、親戚の家では孤立しているみたいで……近所の方はあの子を心配しているみたいですが、直接あの子の親に何かを指摘する訳でもない」

「所詮は他人だからな。何かしてやる義理はないだろう」

「そうですね。それに、下手に関わって揉め事になるのが嫌なのでしょう。保身のためですわね」

「お前も見てるだけだしな」

「私があの子を引き取ることの方が可哀想でしょう? まぁ、それはそれであなた好みの展開になるかもしれませんが」

「好きにするといい。お前の描く物語を見届けてやろう」


 悪魔はディゼルの髪留めを外し、綺麗に結われた髪を解いた。

 ミリィがディゼルのためにと丁寧に結った髪型。それを悪魔が崩す。

 ほんの少しの罪悪感を抱きながらも、彼女の胸の中には悪魔への愛情しかない。ミリィへの感情はすぐに悪魔から与えられる快楽に押し潰されて、消えていく。


 全ては、愛のため。悪魔のため。


 復讐のため。





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