6話 幽香さんのお友達。
「いやいや、いくら何でもそこまで似てないわよ。」
先程霊夢が境内から手を振っていた人、つまり霊夢のお母さんなんだけど、遠くで見ると霊夢にそっくり。んで近くで見ても…
「いや…めっちゃ似てますよ霊華さん。」
とにかく似てる。霊夢のお母さん…博麗霊華さんは霊夢を少しだけワイルドと言うか勝気にした様なイメージだ。
霊夢と同じ巫女服を着てるし、顔立ちも本当にそっくりだ。強いて言えば背が霊華さんの方が高い。
「実際あなた達はめっちゃ似てるわよ。長年一緒にいてもそう思うもの。まぁ見間違える事は無いけど。」
友達である幽香さんですらそう言うくらいだ。僕の目が悪い訳じゃない。
流石に間違えはしないけど、初見だと絶対勘違いするって。境内から見た時、本当に霊夢かと思ったからね。
「幽透的に私とお母さん、どう見えるの?」
「どう…って言われても…霊夢は可愛い。霊華さんはカッコイイって感じ。」
二人はめっちゃ似てるんだけど、雰囲気がちょっと違う。まぁ出会ったばかりだし、本当にパッと見の感想でしかないんだけど。
「そりゃ私の娘は可愛いに決まってるじゃない。」
「そりゃ私のお母さんはカッコイイに決まってるわよ。」
とりあえずこの親子は仲良しだ。霊夢がニコニコしながら霊華さんに寄り添っているのは微笑ましい。
最初は他人に興味が無いような、ちょっと冷たい印象を受けてしまったけど、そんな事は無く、優しいしこうして可愛らしく笑う子だった。
「幻想郷には美人しか居ちゃいけない決まりでもあるんですかねぇ…」
「…紫に会わせても同じ事言いそうね…」
知らない名前が出たけど、まだ美人がいるのか。それもこの人達に匹敵するレベルの美人が。恐ろしい世界だな、幻想郷。
「紫…って誰ですか?」
「八雲紫。今日の目的、幻想郷の管理者よ。幻想郷については私から説明したけど、幽透からしても知り合いは多い方がいいでしょ?」
紫さん…ね。管理者ともあろう人に挨拶も無しだとなんかスッキリしないし、会えるなら会っておきたいよね。
「まぁ大丈夫よ幽透。紫は私の母親替わりみたいなモンだったし、幽香とも友達。霊夢にも良くしてくれてるわ。」
替わり…って事は霊華さんの親は……いや、余計な事は考えなくていい。
それにしても、霊華さんの母親なのにこの人達と同じくらい美人とは…?昔はそうだったみたいな事か?
もしかして幻想として生きてるからこの世界では必要以上に成長しないとか……?いやいや、まさかな。そんな都合のいい世界があるわけないか。
「別に会うのが怖いとかそんなんじゃないですけどね。」
「でもお母さんに会うのはちょっとビビってたわよね。」
「は、はぁ?ビビってねぇし!巫女のお母さんとか気難しいんだとか思ってなんかねぇし!」
「偏見が凄いわこの子…」
仕方ないじゃないか…初日だっての。楽しむようにしてるけどやっぱり理解が追い付かない時の方が多いくらいだ。
でも、敵を作りたくないとか、人の顔色を無意識に伺いそうになるのは良くないな。人間の良くない所が出ている。それは皆に失礼だと思うから止めないと。
「すいませんね…でも、おかげでこれから会える人が楽しみですよ。紫さんだけじゃなく、皆と会えるのが。」
「フフッ、神社に来た時とは見違えるくらいいい顔になったわよ幽透。」
「そりゃ不安だってあるけどさ、今の僕には前を向くしかないから。」
幽香さんに霊夢、霊華さんもいるし、まぁ何とかなるでしょって気持ちが強くなったよね。
グズグズしてる奴が嫌いって言われたし、実際その通りだと思うし、無理しない程度に前向きに生きてみよう。
「家でも言ったけど、私がいるんだし、生きるのに不自由はしないと思うわ。だから生きたいように、何も背負わずに生きてみなさいな。」
「今日出会ったばかりにしては優しいわね。」
「でしょ?私も鳥居の所で見た時不思議に思ったもの。」
その優しさにどれだけ心が助けられたか。時間で言ったら半日も経ってない程なのに…
昔の幽香さんの事はよく分からないし、もしかしたら優しくない人だったのかもしれないけど、今の僕はこうして助けられたんだし、気にすることじゃない。
「うっさいわね…別にいいじゃないの。」
「そうですよ、幽香さんと出会ってなかったら僕は今頃死んでたかもしれないんですから。」
きっと僕には運を操る能力とかあるんじゃないか?この幻想郷に来れたこと、幽香さんに会えたこと、霊夢や霊華さんに会えたこと、素敵な経験ばかりだ。
「ま、それもそうね。幽透が面白そうなのは間違いないし、いきなり弾幕を撃てるセンスを失うのは少し勿体ない気もするし。」
「名前まで付けたのよ?勿体ないとかじゃなくて今更死なれても困るわ。」
「え?幽透って名前、幽香が付けたの?」
霊夢と霊華さんは驚いたような顔をしている。自分の子供以外に名を付けるなんてそうそうある事じゃないし、驚くもの無理はないか。
「えぇ。あなたって呼ぶのも面倒だし、すぐに記憶が戻る気配も無いし、名前は必要かと思ってね。」
「…え、幽透的に、出会ってすぐの女に名付けられるのってどうなの?アリなの?」
「アリも何も…名前は欲しいですよ。記憶が戻るまでずっとあんたって呼ばれるの嫌ですし。」
そんな風に呼ばれ続けたら心が荒みそうだ。名前を呼ばれることで自分はここにいるって実感が湧くというか…やっぱり名前ってその人しか持たないモノだからこそ、僕という存在が認められている気がするよね。
「それもそうか。幽香はどうして自分と似てる名前を付けたりしたの?紛らわしくない?」
「一文字違いだものね。なになに、幽透がイケメンだったから盗られないようにマーキングのつもりなの?」
ある程度話していて分かった事がある。霊華さんは意外と下世話な話が好きだと言うこと。褒められているのは分かるけど、言い方というか…もうちょい何とかならんのか…
まぁそれも友達だから出来ることなのかもしれない。心を許している証拠…なのだろうか。
「そんなつもりは無いわよ。名付けやすかったと言うか、まぁ深い理由は無いわ。」
「ふぅん…まぁ私もお母さんと一文字違いだし、幽香の事言えないわね。」
「自分で言っておいて何だけど…名前でマーキングとかよくよく考えたらキモいわね…じゃあ幽透は今の名前で満足してるの?」
僕は軽く笑いながら頷く。ありがたいと思ってるし、似たような名前を付けてもらったおかげで幽香さんと近しい存在になれた…そんな気がしている。
「そりゃもちろんですよ。嬉しいです。」
「そう言って貰えると名付けた私も嬉しいわ。あなたの名前、しっかり幻想郷に刻みつけないとね。」
「フフッ、最初に出会ったのが幽香である意味良かったのかもね。幽透はもちろん、幽香にとっても。」
霊華さんの言葉に霊夢も乗じてウンウンと頷いている。僕はもちろん良かったけど、幽香さんにとっても良かったのだろうか…?迷惑にしかなってないと思うが…
「ん…?どう言うことですか…霊華さん?霊夢まで…」
「まぁ今は気にしなくていいわ。さてと…いい加減紫を探しに行きますか…ねぇ、霊夢?」
気にしなくていいと言われると余計に気になるけど…仕方ないか。それに霊華さんが言うように紫さんにも会いたいし、探してれるのはありがたい。
「そうねぇ、夕飯の買い物もしたいし、私は人里の方を探してくるわ。幽透と幽香はここでお留守番よ。」
「分かったわ。よろしくね。」
「二人共、よろしくお願いします。」
フワフワと空を飛んでいく二人に手を振りながらお見送り。何とは言わないが見えそうで見えなかった。
二人の姿が見えなくなった頃、隣に座っている幽香さんが小さくため息を着いた。
「全く…霊華には困るわ。マーキングだのなんだの…」
「ハハハ…別に僕はそれでもいいんですけどね。」
僕が幽香さんに見合うだけの男かどうかは置いといて…
「まぁその気がまるっきり無かったら家にあげたりはしないけど…人に言われるとねぇ。」
「その気があるんですか!?」
「幽透次第ね。妖怪にも恋心はあるし、伴侶となる人が欲しいって思うかもしれないわよ?」
紅い目を少し細めて笑みを浮かべる幽香さん。そんな事を言われては期待してしまう。
「頑張りますよ!僕を拾って良かったって言わせてみせますからね!」
「フフッ…まぁ期待しておくわ。」
こうして改めて気合いを入れ直す。この世界に慣れること、生き抜くことだけではなく、人を守れるだけの力を付けなければならないといけない。
いつになるか分からないけど、花のように美しい笑顔を咲かせ続け、守り続ける為に…僕は生きようと思うのであった。