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40話 異変解決した初めての夜。

 キッチンでフランと別れた後、幽香さんの待つ寝室に戻ってきた。


 アリシアとワインを嗜み、フランとも話し込んでしまった。もしかしたら寝てるかもしれない。


 寝てる時の事を考えて静かにドアを開ける。



「あら、おかえり幽透。」



 椅子に腰を掛けて本を読んでいた幽香さんは笑顔を向けてくれた。


 一緒にお風呂に入った時にも見てはいるが、幽香さんのパジャマ姿が可愛い。家では上下で分けられているセパレートタイプのパジャマだが、今日に限ってはワンピースタイプだ。咲夜さんの物を借りたらしい。


 肩ストラップタイプなので肩がモロ出しなのだ。これを色っぽいと言わずして何とするって感じだ。



「ただいま幽香さん。遅くなってごめんね。先に寝ててくれても良かったのに。」



「大丈夫よ、なんだか寝れなくて。本を借りに図書館に行ったらパチュリーも同じ事を言っていたわ。」



 皆寝れないみたいだ。まぁ当然かもしれない。紅魔館総出でフランの狂気をどうにかしようとして、今日、それが解決したのだ。高揚してるのだろう。


 アリシアは結構なペースでワインを飲んでいたが、眠れないのと同時に、嬉しくてたまらないんだろうな。もう少し付き合えば良かった。



「フランが狂気に打ち勝った夜だからね。それを噛み締めたいんじゃないのかな。」



「幽透にとっては初めて異変を解決した夜だものね。少し時間が経ったけど、自分が解決したんだって自覚は出てきた?」



 自覚か…さっきフランに言われた、僕が狂気から救ったって言葉。それは結構嬉しかった。


 もちろん僕1人の力ではどうしようもなかったと思う。僕だけのおかげだと言うつもりもない。けど、少なくとも皆に胸を張れるような事はしたんだと心から思えた。



「まぁ…ね。僕がって言うよりは、僕も含めって感じだけど。少し自信は持てたかな。」



「充分よ。これからも異変は起きるかもしれないわ。でも、幽透なら大丈夫。私が出来る限り支えるから、自分が限界だと思う所まで突き進んでみなさいな。」



「あれ…正直止められると思ってたんだけど。」



 昼間の幽香さんの反応を見る限り極力異変には関わって欲しくなさそうだったが…



「止めたって聞きゃしないじゃないの。言うだけ無駄に思えてきたわ。」



 納得はしてないようだ。いや、むしろ呆れられているのだろう。


 幽香さんより弱い僕が何を言っても説得力がない。となると見守っていてもらう他ないのだ。


 ただ、止めても無駄だと言う僕の覚悟は伝わったようだ。その期待には精一杯応えたい。



「ハハハ…」



「ただ、約束は約束。幽透にとって自分の命は軽く見えるんだとしても、私はそうじゃない。幽透のことが好きな私を悲しませない為にも…ただいまって帰ってくるのよ。」



 そう。この約束だけは絶対に破ってはいけない。この先何が起きようとも、僕は幽香さんの元に帰るんだ。


 僕が幽香さんを悲しませる訳にはいかないんだから。幽香さんを守りたいから強くなろうとしているのに、そんな幽香そんを泣かせてしまっては元も子もない。



「分かってる。バカだと言われても、心配をかけたとしても、約束は守るよ。」



「まぁ…とりあえず今はお疲れ様と言っておくわ。これ以上は必要以上の心配になっちゃうし。」



「うん、ありがとう幽香さん。よいしょ…っと。」



 ベッドに腰を掛け、そのまま仰向けに寝転がる。程よい反発と布団のフカフカ感が心地良い。一気に眠気が迫ってくるのを感じる。


 お風呂に入った時も思ったが、こうして身体を休めようとすると自分が疲れているのを自覚する。休もうとしている自分に対してさっさと寝ろと言わんばかりだ。



「あぁ、フカフカで気持ちいいわよね。」



「ん…これはダメだね…眠気に抗える気がしない。」



「眠いなら寝ればいいのに。わざわざ抗う理由ある?」



 そう言われると特に無いが、なんだか寝たくない気分なのだ。もう少しだけ異変解決の余韻に浸りたい。


 僕も僕でかなり高揚しているんだな。眠たいが、とてもいい気分だ。



「だって幽香さんはまだ眠くないでしょ?」



「まぁ…そうねぇ。私は魔力を送るくらいしかしてないから。」



 そもそも眠くなる程疲れていないと言いたいのだろう。それもそうだ、僕が無理矢理フランの元に行ったのだから。


 咲夜さんにどれほどの魔力を供給していたのかは定かではないが、パチュリーさんもいたし、咲夜さんの回復後に幽香さんも魔力を回復しているかもしれない。


 まぁ、そうだとしても心配は掛けたし、僕だけじゃなくフランやレミィの安否も気にしていたはずだ。精神的に疲れているとは思うが。



「いやいや、あれだけ怪我をしていた咲夜さんやレミィを見て何も思わない幽香さんじゃないでしょ。」



「気疲れって意味で言ってるなら、その通り…と返すわ。実際胃が痛くなる程には心配したし。」



 間違いなく余計な事を言ってしまった。気疲れしていない訳がない。


 ただ、普段から冷静な幽香さんが胃を痛めるほど心配してくれたのだと思うと少し嬉しくもある。



「…ありがとね。幽香さんがいなかったらフランの狂気を満足させるなんて出来なかったよ。」



「それは幽透が強くなったからよ。私のおかげで強くなったって意味かもしれないけど、それはあなたの強い意志があったから。」



「いや、幽香さんがいてくれたからだよ。幽香さんにただいまを言わなきゃいけなかったからこそ。紅魔館の皆の為なら…ってね。」



 その約束がなかったらフランと刺し違える気でいたかもしれない。


 フランの為なら僕の命なんて…って思ってしまったかもしれない。それを幽香さんの約束が止めてくれた。



「…今後、二度とそんな気にならないでね。」



「…うん。」



 僕の返事を境に、少しの間沈黙が続いた。


 幽香さんは読みかけの本を再び手にして読み始めた。チラチラと僕の方を見ては本に目を移し、ニコニコしている。


 何度も思ったが、本当に幽香さんには心配を掛けてしまった。


 幽香さんは僕に対して怒ってる訳では無い。ただひたすらに僕の身を案じてくれていたのだろう。


 誰かの為とは言え、自分の好きな人が命を投げ出しているのをカッコイイとは思えないだろう。僕だって、幽香さんが誰かの為に命を投げ出すなんて言い出したら全力で止める。


 かと言って怒る訳にもいかない。正しいか間違いかは置いておいて、曲がったことはしていないのだから。


 幽香さんはそんな風に考えているのだろう。我ながらとんでもない板挟みをさせてしまっている。



「…ふぅ、ねぇ幽透。」



 本をパタリと閉じて僕を呼ぶ幽香さん。読み終わったのだろうか。



「ん?」



「こっち…おいで。」



 両手を広げ、ニコリと僕を見つめてくる。


 まるでそれに吸い込まれるかのように幽香さんの腕の中に収まる。


 暖かくて、柔らかくて、いい匂いがして、僕の疲れや何もかもを包み込んでくれているようだ。


 僕は僕で幽香さんの胸に顔を埋める程に抱き締められ色々な意味で癒されているが、幽香さんは幽香さんで僕の頭を撫でている。



「…な、なにさ……またそうやって子供扱いして…」



「色々心配したし、無茶をする幽透にヒヤヒヤもしたけど、今日の幽透…本当にカッコよかったわよ。」



 僕の前髪を上げ、額に唇を落とす幽香さん。まるでご褒美だと言うかのようなキスだった。


 別に初めてキスをした訳ではない。何回も幽香さんとは唇を重ねているし、頬や額にキスをするのもされるのも慣れている。


 ただ、今回はとても嬉しかった。興奮するとか、気持ちが昂るとかでは無い。純粋に嬉しかった。好きな人にカッコいいと言われるのがこんなにも嬉しいとは思わなかった。



「…あ、ありがとう。」



 暫くは顔を上げれない。嬉しさと照れているので顔が酷い事になっているだろうから。


 泣き顔を見せた事もあるのに何を今更とは思うが…



「フフッ、日中は私も色々気を回す事が多くて冷静じゃ無かったけど、今になって考えて分かった事があるわ。」



「分かった事って…何それ?」



「この人を好きになって良かった…って。幽透となら安心してこれからを過ごせるなってね。」



 ただでさえ熱い顔が更に熱くなるのを感じる。今を楽しむだけじゃなく、僕とのこれからを考えてくれているのが何より嬉しい。


 もちろん何があったって幽香さんの事は可能な限り僕が守るし、幽香さんの為なら僕は何だって出来る。


 それがしっかり伝わっていた…いや、今回の異変で伝わったのだろう。



「…これからもそう思わせてみせるよ。僕を選んで良かったって何回だって思わせるから。」



「フフ…期待しておくわ。」



 こうして異変解決した初めての夜が終わった。今日一日色々な意味で大変だったけど僕の思いや、生き方が好きな人に伝わって良かったと思う。


 これから先何があるかなんて分からないし、予想もつかない。だけど幽香さんが僕を信じてくれている限り、僕は笑って前を向けそうな気がしていた。

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