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39話 狂気を失いし少女。

 アリシアとの友情を結び、幽香さんの待つ部屋に戻る前に水でも飲もうとキッチンに寄り道をしていた。



「はぁ…ちょっと飲み過ぎた…」



 アリシアの好意で今日は紅魔館に泊まらせてもらえることになっている。無理をしたおかげで未だに飛べないし、正直助かる。なんなら酔ってるし。


 ちなみに先程飲ませてもらったワインは明日帰る時に手土産として頂けるらしい。嬉しい限りだ。



「あ、幽透お兄ちゃん…」



 僕の後に続くようにキッチンにフランがやってきた。可愛らしいワンピースパジャマで、クマのぬいぐるみを抱いている。


 こうして見ると幼い子供のようにしか見えないのだけど、実は意外としっかりしている。流石はレミィの妹と言った所だろうか。



「あぁ、フラン。どうしたの、寝れない?」



「吸血鬼って夜行性なんだけどね。まぁでも半分正解、寝れないんだよね…私もお姉様も。」



 そうだった、アリシアがあまりにも吸血鬼っぽくないからすっかり忘れていた。普通、昼は寝て、夜に活動するものだった。


 まぁ寝れなくても仕方ない気もする。フランはともかく、レミィなんかは特にそうだろう。ボロボロになってはいたが、こうしてフランと同じベットで眠れるなんて夢にまで見た時間のはずだ。寝るのが勿体なく感じる程だろう。



「無理して寝る必要は無いと思うよ。狂気に打ち勝った夜は今日限りなんだから。」



「喋りたい事は地下室で全部言ったと思うんだけどね。実際横になって喋ることは無かったし。」



「まぁ今になって改めてあれこれ話すもの小っ恥ずかしいかもね。」



 地下に繋がる階段の先で抱き合ってる二人を僕は見た。その時が一番素直になれるタイミングだったんだろう。


 フランがレミィに抱いてる感謝や尊敬は計り知れない程大きいだろうし、レミィがフランに抱いてる感情も然りだ。


 声にしないと伝わらないようなモノではない。五百年お互いを想い続けたのだ、既に伝わってるだろう。



「まぁ…それもあるし、同じ天井を見つめて、お姉様の手を握ってベットに入る時が来るなんて思ってなかったから…嬉しくて眠れないのかな。」



「いい事じゃん。僕としても、そうして姉妹愛を見せ付けられる方が嬉しいよ。」



 紅魔館との付き合いがあって良かったと思える。僕のおかげと言うつもりは無いが、スカーレット姉妹の仲睦まじい姿を間近で見られるのは特権だろう。


 アリシアも言っていたが、普通なら当たり前だった事をこれから進んでいく二人を僕は見守りたいと思う。


 一緒に寝れるのが嬉しくて眠れないなんて最高じゃないか。その特別感をずっと味わっていて欲しい。今日の幸せを忘れないで欲しいな。



「幽透のお兄ちゃんの言ったように小っ恥ずかしいのかもしれないね。」



「甘えればいいさ。今までずっと頑張って来たんだから。レミィに思う存分甘えなよ。時々アリシアにもね。」



 僕は親じゃないからアリシアの気持ちを全て理解するのは無理だけど、レミィの想いを分かってるからこそ今はレミィとフランを一緒にいさせたいのかもな。



「あ…やっぱりお父様寂しそうだった?パチュリーが私をお姉様と二人きりにしてくれてるのは分かったんだけど…」



「さっきアリシアと話してきたばかりだよ。そろそろ子離れしなきゃなぁ…とは言ってた。」



「フフッ…何それ。ずっと近くにいて遠かったんだからこれからが甘え時なのに。」



 こうして話してると本当に大人だと思う。狂気に飲まれた五百年という永い年月を理解した上での発言だから。


 永い年月を離れていたのはアリシアも同じだ。今まで甘やかせられなかった分、これからたっぷり時間を掛けて甘えさせたいのは分かる。


 お互いの想いは一致してそうだし、今度親子水入らずの時間を作ってあげるのも悪くないかもしれないな。



「今日はレミィとって意味合いだと思うけどね。まぁ何かあったら僕にも甘えてよ。幽香さんもいるしさ。」



「うん、ありがとう。あ、そうだ…幽透お兄ちゃんってなんで幽香お姉ちゃんとくっ付いたの?」



「ブフッ…!フ、フランさん…?」



 口に含んだ水を吹き出しそうになってしまった。まさかそんなことを聞かれると思ってなかったから。


 この子は子供じゃないことを忘れてはいけない。下手したらとんでもない事を聞かれる可能性もある。



「パチュリーの所で本をいっぱい読んだりするんだけど、幽透お兄ちゃんみたいな男の人って全然いないんだよね。」



「そ、それで…どうして僕と幽香さんのことを?」



「ん〜純粋に興味本位かな。私にとって恋愛ってフィクションでしか無いんだもん。お互いを愛し、他人から家族に変わっていく……どうも現実味が無くてさ。」



 幼い頃…いや、物心がつく前から地下室にて人との関わりを制限されたフランにとってはその考えが当たり前なんだろう。


 考えてみればフランの周りで恋愛をしている人はいない。アリシアもレミィも何も言わなかったし、僕も聞かなかったが、紅魔館にはアリシアの奥さんがいない。


 別れただとか、色々考えられる事はあるけどそれをわざわざ聞いたりはしない。


 しかし、それがフランの疑問を生んでしまった。



「僕と幽香さんはまだ結婚してないから正式に家族って訳じゃないけど、ずっとずっと一緒にいたいって思うよ。レミィとフランがお互いを想うようにね。」



「私とお姉様は産まれた時から家族だもん。どれだけの時間離れていたってその事実は覆らないよ。どうして幽透お兄ちゃん達は一緒になろうって思ったの?」



 家族の重みが分からない訳じゃなさそうだ。いや、むしろ家族の絆が強いからこそ…他人に対して家族と似たような感情を抱けないのだろう。


 ある種、僕とフランは似てるのかもしれない。


 地下室に一人でもレミィがいたフラン。幻想郷入りして一人だったけど幽香さんに見付けられた僕。


 恋愛感情の有無はあれど、一緒にいたい理由は似たり寄ったりかもしれない。



「僕は幽香さんに助けられたからね。幻想郷入りして初めて会った人が幽香さんでさ、色々教えてもらって…それで、好きになっててさ。」



「結構単純だね。でも、読んでた小説みたいに人の心を探ったりしてなくて、純粋に好きって気持ちなんだって伝わるからステキだな。」



 また単純って言われた。霊夢、パチュリーさんに次いでフランにまで…


 小説と同じような恋愛をするのはある意味難しい気もするが、フランには駆け引きや疑ったりするような恋愛はして欲しく無いな。


 好きって気持ちを持ったら一途に一直線に望む結果を掴んで欲しい。



「幽香さんのこと本当に好きなの?とか聞かれる方がショックだし。フランにもいつかそんな相手ができるといいね。」



「でもさぁ、幽透お兄ちゃんが五百年の狂気から解放してくれた訳じゃん。私にとっては白馬に乗った王子様なんだよねぇ。」



 モテ期と言われるやつだろうか。焦らないといけないシーンなんだろうが酷く冷静だ。


 確かに僕がやった事だけを客観的に見てみればフランにとって僕は救世主だろう。五百年生きてるとは言え、外界との関係を断ち切られていたフランがそんな救世主に好意を抱くのは当然だ。


 それに僕には幽香さんがいる。そんな僕がフランの好意に気付いたとしても動揺なんて…



「い、いやいや!な、何を言って…!?」



「フフッ、動揺しすぎだよ。幽香お姉ちゃんに言いつけちゃうよ?」



 してました、動揺。だって仕方ないじゃないか。フランは子供じゃないって自分に言い聞かせた所だ。子供が言う好きとは意味が違うのは分かってる。


 僕はフランにまでからかわれて生きていくのか…



「ぜ、全然してないし!僕は最初から最後まで幽香さん一筋なんだからね!」



「そりゃそうだよ。幽香お姉ちゃんを泣かせたりしたら今度こそきゅっとしてドカーンだからね?」



 手を僕に翳し、そっと握るフラン。狂気に任せ様々な物を破壊してきたその掌は…フランの意思無くしては何も壊さない。



「もちろんだよ。僕は幽香さんと幸せになる為に幻想郷入りしたんだからさ。」



「何それ。それはちょっとクサすぎだよ。」



 幽香さんの目の前ではこんなこと言えないけど、今となっては幽香さんとこれからと過ごして幸せになりたいと思う。



「ま、まぁいいじゃない。そのくらい幽香さんが好きってことなんだよ。」



「ふぁ…あ……それについてはまた今度いっぱい聞かせてね。」



 眠そうに欠伸を噛み砕くフラン。話していて少しは眠くなったのだろう。僕も少し眠くなってきた。



「フランが恋愛をしたくなるような惚気話をいっぱい聞かせてあげるよ。」



「フフッ、楽しみにしてるね。さぁて、そろそろ戻るね。お姉様寝ちゃってるかなぁ…おやすみお兄ちゃん。」



「あぁ、おやすみフラン。いい夜を。」



 冷蔵庫から水の入ったペットボトルを取り出し部屋に戻って行った。


 いい夜…か。フランにとって今日は忘れられない日になっただろう。


 僕も僕で初めて異変解決した夜だし、早く幽香さんの元に戻るとしよう。

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