37話 心配させるバカと心配するバカ。
ーside幽透ー
図書館から一直線に地下室まで向かってきた僕と幽香さん。
階段を降り、部屋を覗いてみると、泣きながら抱き合ってるフランとレミィの姿が…
離れた所からでも分かるほど強く抱き合って、二人して喜んでいるのが伝わってきた。
「……幽香さん、ちょっと時間を潰そっか。」
「そうね。階段を登った所に腰掛けるとしましょう。」
そ〜っと身を翻し、降りてきた階段を再び登る。
今の二人を邪魔するほど僕らの性格は悪くない。図書館の皆には申し訳ないが、もう暫く待っていてもらおう。
「…よっと、ここら辺でいいよね。」
階段を登切り、陽が当たる所に腰掛ける。直視すると眩しいから背を向けて座ると、陽と影の部分がハッキリ別れて幽香さんがより美しく見えることに気付いた。
後頭部から頭頂部まで陽が当たり、緑の髪がより明るく、輝いているように見える。影になってる前髪はより一層深みを増した緑で、これまた綺麗だ。
「……良い天気ね。背中で感じる陽射しが気持ちいいわ。」
「やっぱり晴れてるに限るよね。朝から霧だったから余計にそう感じるよ。」
「皆が無事で、霧も晴れて……完璧な異変解決ね。」
そうだった、これは異変だった。私利私欲の為に…とか、幻想郷を支配する為に…とかって聞いてたけど、これも異変にカウントされるのか。
幻想郷に何かしらの影響を与える事が異変となるんだろうか。まぁ明確な定義は無いのかもしれない。
それにしても今回は上手くいったけど、犠牲者が出たとしても異変解決にはなるんだろうか…
いや、考えることじゃないな。これからだって誰も犠牲になんかさせない。もっと…強くならなきゃ。
「たまたまだよ。アリシアさん達がフランを消耗させてくれていたから僕でも勝てただけで、そうじゃ無かったらとてもじゃないけど…」
「終わった事に対して、もしもの話をしても意味が無いわ。結果的には幽透がフランを助けた。それ以上でもそれ以下でもない。」
そりゃそうなんだけど、本人としてはそんな簡単に割り切る訳にもいかない。
結果として僕が死ぬのは仕方ない、それは受け入れられると思う。
死んでたかもしれない、と言う事実。これはどうにかしないといけない。この先ずっと、ラッキーで生き残るつもりはない。
死ぬこと自体は受け入れられるけど、幽香さんはそれを許さないだろう。その為にも、リスクは自分から減らさないといけない。
「悲観的になってる訳じゃないよ。これからも幽香さんと一緒にいる為に…強くなんなきゃなって事。」
「…幽透が出張って戦う必要は無いのよ?こういう時の為に博麗の巫女がいてくれるんだから。」
一理…いや、百理ある。僕が霊華さん程強ければ率先して戦う理由にもなるけど、今の僕にそれは無い。
そりゃ客観的に見れば僕が戦う理由なんて無いんだろうけど、本人からしたら別だ。
「他に僕が出来ることが無かっただけだよ。何もしないのは嫌だった…それだけ。」
黙って見てるだけなんて僕が一番避けたいことだ。 少しでも手助けが出来たらいい。
結果的にフランを助けたのは僕かもしれないけど、それは偶然に過ぎない。だけど、僕もフラン救出に一役買ったことは間違いない。それくらいはしたいと思う。
「…それが自らを滅ぼすとしても?」
「バカだからねぇ…幽香さんの為にも死ねないけど、幽香さんの隣にいるにはカッコよくいなきゃ。」
まぁ結局は『幽香さんにカッコよく思われたい』って気持ちなんだけど。
「あなたがいなくなって、私が悲しまないとは思ってないわよね?」
「悲しんでくれなきゃ死にきれないよ。ただ、僕自身が許せないんだ。お世話になった人達の窮地に見てるだけ?そんなんだったら死んだ方がマシさ。」
そんなダサい方法で生きようとは思わない。真っ直ぐ、向日葵のように生きようと思わせてくれた幽香さんの横にはいたくないだろう。
「幽透、勇気と無謀は違うのよ。」
「もちろん分かってる。確定で死ぬなら僕だって行かないさ。でも、レミィも咲夜さんも、ボロボロだけど生きてた。」
実際は一撃必殺をフランは持ってた訳だけど。それでも回避法も聞いた、それなのに挑みすらしないのは……僕には出来ない。
「だからって幽透が無事とは限らないでしょ…!」
「幽香さんに心配掛けたのは反省してるよ。でも、僕にもプライドがある。逃げたくない意地だってある。それが誰かの為なら…尚更ね。」
そんなに賢かったら最初っからあの妖怪達と戦ったりはしないだろう。やはり僕はバカなのだ。
僕の事なら僕が我慢すればいい。しかし、人の事になるとそうはいかない。僕が我慢したって意味が無い時もあるし、そもそも我慢できない。
「…はぁ。」
どデカいため息を着かれてしまった。片手を頭に乗せて呆れるように俯く幽香さん。
まぁ僕自身呆れられても仕方ないとは思う。皆が言うように、賢い生き方ではない。
「ゆ、幽香さん…?そんなに露骨に…」
「幽透、誰かのために命をかける……そんな生き方をこれからも続けていくの?」
「…どうだろ。毎回毎回ギリギリの戦いにするつもりもないし、無理だと思ったら退くと思うけど。」
僕の気持ちとしては…退きたくはない。だけど、幽香さんに心配は掛けても、悲しませたくはない。
やれる限りはやって、無理だったら別の手段を考える。こんな感じになるんだろうか。
そもそも心配されない程強くなればいいのだ。今回の反省点としては、強くもないのに無理をした、これに尽きる。
「バカで向こう見ずでバカで無鉄砲でバカ。そんなんだから人の為に無茶出来るのよね……」
「うん……ん?それはただのバカじゃん。」
「そんなバカを好きになった私もバカ…か。ねぇ幽透、もう一回約束して。」
俯いてた顔を上げてこちらをジッと見つめてくる幽香さん。
「…何を?」
「これから何があるかは分からない。何があっても、必ず私の元に帰ってきて。」
顔色を変えることなく真顔で告げた幽香さん。他の思いは無さそうだ。純粋に僕の帰りを望んでくれている。
これだから好きなんだよなぁ。照れながらでも、笑みを浮かべながらでもなく、ただただその想いを伝えてくれる。
だからこそ、この約束は絶対に破れない。幽香さんを裏切る訳にはいかないんだ。
「…うん。」
「幽透、私が人をここまで愛したのは初めてよ。そんな人がいなくなってしまったら、私はその悲しみに耐えれる自信がないわ。」
ここまで言ってくれてるんだ。尚更死ぬ訳にはいかない。心配して、悲しんでくれる人を実際に悲しませてはいけないんだ。
「約束する。絶対に幽香さんの元に帰るし、悲しませたりなんかしないから。」
そう言って幽香さんを抱き締める。幽香さんもそれに応えるように僕の背中に手を回し、服をキュッと掴んだ。
抱き締めた時に今のように服を掴まれるの、結構好きなんだよなぁ。なんか、必要とされていると言うか、求められるなって感じがして良い。
それを普段はクールでカッコよさもある幽香さんがやってると思うと尚更良い。
ここまで心配してくれて、僕のことを想ってくれてるなんて嬉しくて嬉しくて…ニヤけてしまいそうだ。
「…心配…したんだから…バカ…」
「嬉しいよ、ありがとう幽香さん。そんなバカをこれからもよろしくね。」
幽香さんの頬に軽くキスをする。透き通るような白い肌が徐々に紅くなっていくのは何回見ても嬉しくなる。
頬にキスするだけで顔に出る程照れてくれる。それだけ好きでいてくれてるってことだろうし、そんなの魅せられたら何回もしたくなる。
結局時間を忘れてイチャイチャしていたせいで地下室から出てきたレミィとフランに見られ、二人にイジられながら皆が待つ図書館に戻るのであった。




