30話 イチャイチャ。
「ふぅん。とりあえず使えるようにはなれたのね。」
神社で散々からかわれた後、日が傾きかけた頃家に帰ってきた。
買い物に行っていた幽香さんは流石に先に帰って来ており、僕の帰宅を見透かすようにご飯の用意をしていてくれた。
ご飯は作ってもらったので、洗い物は僕が済ませ、お茶を飲みながら今日の出来事をお互いに話していた。
幽香さんは人里に買い物に行った後、たまたま居合わせた永琳さんといつものお団子屋でみたらし団子を食べながら談笑していたようだ。
羨ましいと思いながらも、僕は僕でパチュリーさんとしていた事を話していた。
「うん。風の魔力に関しては使いたい時に使えるようになったって感じかな。」
「完璧に使いこなすまでにはもう少しかかりそうね。でも、私をイメージする事で使えるって…本人としては何とも言えない気持ちになるわ。」
確かにそうかもしれない。いくら好きだからと言っても、魔砲をぶっぱなす時にイメージされるのって、いい気分はしなさそうだ。
いくら幽香さんが永く生きてきたと言っても、自分をイメージして強くなる奴なんて知らないだろう。
正直僕だって理解はしたけど納得はしてない。我ながら不思議なもんだ。
「幽香さんに対する想いがそれを実現させたんじゃないかと…僕は思ってる。」
「嫌な気持ちはしないし、幽透がそれで強くなれるのならいいんだけど。」
「どこまで強くなれるかは分からないけどね。」
でも、それに頼りきりではいけないだろう。あくまでも身体が資本。どれだけ魔力が増えたとしても、それを扱いきれるだけの身体が無ければ意味が無い。
何でもパチュリーさんは喘息で全力で戦う事が出来ないらしい。所持してる魔力で言ったら幻想郷最高峰らしいが、それを発揮出来ないのを悔しがっていた。
パチュリーさんに色々教えてもらった身として、僕は教えられた全てを発揮出来なければいけない。
「それは幽透次第よ。まぁ魔力の勉強もしてるみたいだし、この程度で終わる気なんてないんでしょ?」
「もちろん。もっともっと幽香さんとイチャイチャして、魔力も増やして、幽香さんを守れるだけ強くなるからね。」
「あら…幽透は強くなる為にイチャイチャするの?私は幽透が好きだから一緒にいたいのに?」
意地悪そうな顔で僕を見てくる幽香さん。もちろんそう言う意味では無いことは分かっている。
幽香さんとイチャイチャ出来るならそれだけで幸せなのだ。ただ、結果的に強くなってるだけで。
「そんな訳ないでしょ。僕だって幽香さんが好きだからに決まってるじゃんか。」
そう言って幽香さんの細い身体を抱き寄せ、背中に手を廻す。
何回してもこの瞬間に自分が高陽するのを抑えられない。幽香さんの柔らかさや、匂いや幽香さんの吐息が近くに感じられるのが堪らない。
「フフッ、そうやって力強く抱き締められるの好きよ。」
「離すつもりなんてないもん。今日だってずっとこうしたかったんだから。」
パチュリーさんに話している時、霊夢に話している時。幽香さんとの事を話せば話すだけ会いたくなってしまう。
その時は一緒にいた二人に失礼だと思ったから極力思わないようにしていたが、ふとした時にそんな気持ちが湧いてくる。
言ってしまってはいるが、離すつもりは無い。誰に何を言われたって幽香さんが心から拒絶しない限りはこうやって僕の想いを伝え続けるつもりだ。
「私もよ。幽透の匂い、吐息、鼓動。全部感じられるのが大好きなの。」
「僕も同じこと思ってた。でも、幽香さんはいい匂いするけど、僕はどうかな…」
お風呂に入ったとは言え、この暑さでは汗はかくし、いい匂いとは違うような気もするけど。
その点幽香さんは抜群にいい匂いがする。こうして抱き合っていると目の前に首筋があって、そこに顔を埋めたくなるくらいだ。
形容のしようがないが、幽香さんの匂いがする。幽香さんの匂いだけは判別できる自信がある。
そんな特技、どこで使うかは疑問であるが。
「あら、私が好きって言ってるんだから気にしても意味無いわよ。」
「まぁそうなんだけどさ。自分の匂いってよく分からないじゃん?臭くならないように気を付けてはいるけど。」
「私だって私の匂いなんて分からないわよ。幽透が好きって言ってくれるからそれでいいって思ってるだけで。」
そう言われると僕も気にしなくていい気になってくる。気にしたって分からないんだから幽香さんが良ければいいんじゃないかって。
いやまぁ悩んでる訳では無いし、汗をかいているから気になった程度だ。
「んじゃ僕も気にするの止めるよ。幽香さんの好きにしてくれれば良いや。」
「あら、いいの?それじゃ…」
幽香さんの髪が耳をくすぐったと思ったら首筋に何か柔らかい物が当たり、その部分が引っ張られるような感覚がした。
「ん…ちょ……幽香さん?」
もしかして…吸われてる?時折舌が這うような感触もするし、唇を当てられているのは間違いないだろう。
それにしても…首筋を舐められるの、めっちゃ興奮する。いや、気持ち悪いと自分でも思うけど、普段そんな所舐められないから敏感なんだろう。舌の感触がハッキリ伝わってきて、良い意味でよろしくない。
幽香さんが今どんな表情をしているのか見てみたい。絶対に見れないからこそ見たい。
見たら見たらで理性が保てるか不安であるけども。
「…はぁ。よし、ついた。フフッ、ご馳走様。」
最後に強く吸われて、唇が離された。無意識にそこに手を伸ばすと少し濡れていた。
舐められたのだから当たり前ではあるのだけど、舐められたと言う実感が湧いてくる。
おそらく幽香さんは特に意識もせず舌を出したのだろうが、僕にとっては効果抜群だ。
見えないけど、吸われた部分にはしっかりとキスマークもついているだろう。
何から何まで、こちらがご馳走になった気分だ。
「またこんな所につけて……」
「見えるからいいんじゃないの。見えない所につけたって面白くないわ。」
キスマークって面白いからつける物では無いと思うけど。相変わらず幽香さんのそういうところは不思議だ。
「そう?一見普通に見えるけど、脱いだらキスマークだらけって方が興奮しない?自分達しか知らない秘密…みたいな感じでさ。」
「それは変態すぎよ……そんなプレイじゃなくて、このキスマークは私の独占欲なの。」
僕はどうしようも無い変態らしい。普通の事を言ったつもりだったのにプレイって言われてしまった。
意識的な所は直せると思うけど、無意識だとそうはいかない。僕は変態、エッチと言われる運命にあるんだろうな。
今度レミィに聞いてみよう。怒られると思うけど。
「独占欲って…僕は幽香さん一筋だし、何度も言ってるけど離すつもりなんて無いよ?」
「私から見て、幽透は私のって分かるのがこのキスマークなの。私がそう思いたいだけの…ただのエゴよ。」
「なるほどね。」
幽香さんでも不安になるらしい。霊夢の言うように、やっぱり慣れていないのだろうか。
いや、そんなことを気にするのは野暮ってモンだな。それだけ僕が幽香さんに好きでいてもらえてる、それを喜ぶべきだ。
「欲しい物は言わなきゃ手に入らないし、その想いだって伝えなければ相手は分からないでしょ?」
「確かにね。幽香さんの想い、しっかり受け取ったよ。」
鏡でこのキスマークを見る度に幽香さんの好きって気持ちが伝わってくるんだろう。
周りから見たら鏡見てニヤニヤしてるヤバい奴だと思われる可能性もあるが……それはまた対策しよう。
「幽透、私、まだ欲しいものがあるのよ。」
「僕が用意出来る物ならいい……んっ…!」
僕の言葉を遮るように幽香さんは唇を当ててきた。
夏場だからかもしれないが、幽香さんの唇はいつもプルプルだ。カサカサしている事がない。
そんな見ただけでキスしたくなる唇と僕の唇が重なり合っている。
幽香さんの背中に回している手を片方だけ幽香さんの後頭部に。柔らかいくせっ毛が手の中でクシャっとなる。
「幽透…好きよ。」
先程僕の首筋を這っていた舌が今度は唇をノックする。それに応じるように唇を少し開き、幽香さんの舌に絡ませる。
部屋には水音が微かに響き、口の端から雫が垂れるのを感じる。
唇を啄み、歯型がつかない程度の力で噛む。噛んだ跡を優しく舌で撫で、口内に侵入させる。
あまりに濃密な口付けに、息苦しくなった僕達は同時に唇を離す。
「…ふぅ。僕も大好きだよ。」
「はぁ…フフッ、幽透、垂れてるわよ。」
「ゆ、幽香さんもね。」
口の端から顎に掛けて滴る雫をティッシュで拭ってくれる。僕も同じように幽香さんの口元を拭く。
子供が口から零した物を拭くように、優しく、丁寧に。
「あぁ…素敵なキスだったわ……まだ足りないくらい。」
余韻に浸るように唇を舐める幽香さん。その仕草を見るだけで僕も再び昂ってくる。
「もっとしよっか。たくさんたくさん……しよ。」
抱き合っている幽香さんを押し倒し、後頭部に添えてる手が床についたところで幽香さんの唇を奪う。
返事なんて聞かない。目を見れば幽香さんの応えは伝わってくる。
「んっ……ゆ…ぅと…」
端から漏れる吐息混じりの声。幽香さんも僕の後頭部に腕を回し、貪るように舌を絡ませてくる。
幽香さんの首筋が少し汗ばんでいるのが分かる。それだけ興奮してくれているんだろう。
「幽香さん……もっと…」
何度しても足りない。幽香さんの吐息、それに混じる消え入りそうな声、時折力を込めて僕を抱き寄せる腕、それら全てが滾らせてくる。
幸いなことに時間はたくさんある。もう少しだけ、この蕩けるような甘美な時間を堪能するとしよう…




