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3話 幻想と呼ばれる世界。

 お風呂で外から温まり、美味しい料理で内から温まり、幽香さんの優しさで心まで温まった僕は食後の休憩も兼ねて、幽香さんと縁側で庭を眺めていた。


 花が好きなんだろう。庭には沢山の花が咲いている。向日葵や桔梗と言った夏の元気な花は見てるこちらも元気にしてくれるようだ。



「どう?少しは落ち着いた?」



 幽香さんにも散々甘えてしまった。しかも冷静になると恥ずかしくなるタイプの甘え方を。



「おかげさまで。すいませんね…初対面であんな姿を見せてしまって…」



「謝らくていいわ。泣きたいのを無理に我慢する方が見るに堪えないから。それに…ギュッて私に抱き着く幽透も可愛かったし。」



 流石にダメかなって思ったんだけど…まるで子供が母親に泣き付くかのようだし。


 でも、無言で抱き締めてくれて頭を撫でてもらっていたあの時間…凄く落ち着けたし、めっちゃいい匂いしたし。



「いやぁ、ダメですねぇ。一回泣くとスッキリするまで収まらないというか…」



「私は…あなたの辛さを分かってあげられないから。私の肩を濡らすくらいで幽透の気が済むならいくらでも泣いていいのよ。」



「ダメですって…今、追加で優しくされたら本当に涙が止まらなくなりそうなんですから…」



 別に記憶が無いのが悲しいとかじゃない。何の記憶を失ったかも分からないから悲しみようがない。ただ、人に優しくされた記憶も無いわけで、それがキツい。


 キツいと言っても悪い意味では無い。記憶が無い僕としては幽香さんの優しさが初めてな訳で…それがこんな状況だったら尚更沁みてくる。


 自分の強さも分からない僕が無理に強がらなくていいように振舞ってくれる優しさに…涙が出てしまう。



「また辛くなったらいつでも甘えなさいね。それじゃあ…この世界、『幻想郷』の事について話をしましょうか。」



「そうしてくれると助かりますねぇ…」



 込み上げそうな涙を大きなため息で抑え込み、この世界を理解する為に頭を切り替える。



「とは言っても…管理者でも無いし、そんなに詳しく説明してあげられないのよね…」



「管理者?この世界を管理してる人がいるってことですか?」



「えぇ。だから幽透をこの世界に連れてきたのも管理者の仕業だと思ってるんだけど。」



 それならその人には感謝しないといけない。おかげさまで幽香さんと出会う事ができたのだから。



「でも…世界を管理するってどうやって?」



「あぁ、それは『能力』によるものよ。幻想郷の住人には能力と言うものを持つ者がいるの。」



 随分とファンタジーな世界に連れてこられたモノだ。妖怪やら能力やら…記憶が無くてもそれらが存在しないものだと言うことくらいは分かってる。


 いや、まぁ、さっきの幽香さんの話で信じざるを得なかった訳だけど、まだ混乱してるようだ。


 折角なら全ての状況に対応する能力とか欲しいモンだよなぁ、そうすればあんな姿を見せなくて良かったのに。



「へ、へぇ…幽香さんも能力あるんですか…?」



「あるわよ。花を操る程度の能力ってやつがね。」



 ファンタジーかと思ったら幽香さんの能力はファンシーな能力だった。いややかましいわ。



「この庭の花達も幽香さんの能力で?めっちゃ綺麗で…素敵な能力ですよねぇ…」



「戦闘向きの能力じゃないけど、日常を彩ってくれる能力だから私は好きよ。」



 ファンシーかと思ったらやっぱりファンタジーだった…戦いがあるんだな。


 まぁ妖怪に襲われるとかって話もあったし本当に油断したらすぐ死ぬような世界かもしれないのか。



「そうですねぇ。あ、そう言えば僕が目を覚ました時、向こうの向日葵畑の中にいたんですけど…それは…?」



「それは分からないけど、その辺も含めて幻想郷の管理者に会う必要があるわよね。私と幽透を巡り合わせたかったのかしら?」



「うぐ…本当に迷惑かけっぱなしでごめんなさい…」



「どうしてそうなるのよ。むしろ感謝しに行くんだから。素敵な出会いをありがとうってね。」



 ニコッと笑顔を向けてくれる幽香さん。今日出会ったばかりだけど、この人の微笑みは本当に癒される。


 どうしてこんなに優しいの?とか、そういった事は思うけど、そんなの考えたって仕方がない。


 むしろそんな気持ちになってしまう自分に嫌気が差しそうだ。人の優しさを素直に受け取れない人の性のようなモノは捨て去りたいな。



「それ、僕も思ってましたよ。僕だって幽香さんに会えた事、めっちゃ感謝してるんですから。」



「んまぁ、どうしてこんなに幽透の事を気に入ったのか分からないんだけど。」



「誰にでも優しい訳じゃないんですか?」



「流石に…記憶無くしてる人に名を付け、その人を家に住まわせる程優しくはないわよ…」



 まぁそりゃそうか、と軽く笑う。もしそうだとしたらこの家の住人は外に溢れてしまうだろう。


 そもそも、幻想郷に連れて来られて、記憶を無くし、生きて幽香さんに出会う人間がそう多くてたまるか。



「僕は本当にラッキーだったんですねぇ。ちなみに幻想入りした人を面倒見るのは何人目ですか?」



「初めてね。幻想入りした人を外来人と呼称するんだけど、そもそも幻想入り自体希少だし、誰と出会う事もなく死んでしまう事もざらなのよ。」



 聞いておいて良かったと思う反面、聞かなきゃ良かったと思う程に死と隣り合わせな状況だったんだと理解させられる。



「聞けば聞くだけ幽香さんに出会うまで何事もなくて良かったと思います…」



「そうねぇ。やっぱり能力も持たない、持ってても自覚の無い人間が生き残るには難しいのかもね。」



 外来人にも潜在的に能力や、特殊な力を持ってる人間がいるってことか?


 まぁ幽香さんの言う通り、それを使えなきゃ持ってる意味なんてないと思うけど。



「普通の人間…って言葉がもうおかしいけど、そういう人は幻想郷にはいないんですか?」



「『人里』と呼ばれる場所があるわ。人間達の集落の様な場所ね。人間に対して友好的な妖怪が守っているわね。私もちょくちょく顔を出すから今度一緒に行きましょ。」



「それは嬉しいですね。まぁ外来人の僕が仲良く出来るか不安ではありますけど。」



 コミュ障的な意味では無いけど…集落って言うと外からの人を迫害するというか…そんな偏見が出てしまう。


 いや、ダメなんだよ?だけど、調子こいてズカズカ距離詰めてめっちゃ冷めた反応されたら嫌だし。



「大丈夫だと思うわよ。妖怪とも仲良くして、食材の売買もするくらいだし。」



 いや人里の人達メンタル強すぎてマジで尊敬。見習いたいくらいだよ、本当に。



「それなら連れて行ってもらいたいですね。」



「その前に管理者の妖怪に会いに行かないとね。どうする?幽透が良ければ会いに行きましょうか?」



「ん…そういうのは先に済ませちゃいたいし、お願い出来ますか?」



「フフッ…真面目ね。いいわよ、それじゃ軽く身支度したら出発しましょう。」



 本当に軽く、パパっと身支度を済ませた後、空を飛んで管理者の元に向かうことになった。


 何かの比喩とかではなく、文字通り空を飛ぶ事になった。


 ヒョイと軽くお姫様抱っこされ、さも当たり前かのようにフワッと浮き上がり、そのまま飛行を始めた時は流石に夢かと思ったけど、僕のリアクションを楽しそうに見てる幽香さんを見て現実に戻された。


 そもそもこんな美人にお姫様抱っこされてる時点で夢物語っぽいんだけど…まぁ、この特等席で空の絶景を楽しみながら移動するとしましょうか。

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