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29話 親子揃って本当に笑えない。

「あら、幽透。今日は霊夢とデートの日?」



 紅魔館を後にして、霊夢に連れられるがまま博麗神社に来た途端に放たれた一言。


 境内に降り立った所をたまたま縁側で見ていた霊華さんの開口一番だった。


 相変わらずだけど、お茶を片手にお煎餅を食べているのほほんとした出で立ちからは想像も付かない言葉だ。



「そうよ。私の分のお煎餅残しといてよね。」



「違います…霊夢もテキトーな事言わないで。あ、霊華さん、僕の分のお煎餅もありますか?」



 初日と比べて随分と仲良くなれたと思う。二人ともフランクな性格だし、接しにくい訳じゃないんだけど。それでもどうも遠慮してしまう部分があった。


 それが今ではこうしてお煎餅の要求まで簡単に出来るようになった。僕のコミュ力も捨てたもんじゃない。



「ん…無いこともないわ。あ、この前咲夜から貰ったクッキーもあるけど、どっちがいい?」



「「お煎餅。」」



「え?な、なんで?」



 僕と霊夢、同時に声を出していた。咲夜さんのクッキーも凄く美味しいんだけど……



「もう食べてきたのよ。咲夜の淹れた紅茶と一緒にね。」



 図書館で本を読んでる時、差し入れと言って咲夜さんが持ってきてくれた。


 魔力を使って、頭も使った後の甘いクッキーは抜群に美味しかった。



「めっちゃ美味しかったですよ。だから次は緑茶とお煎餅で。」



「はぁ…まぁいいわ。お煎餅とお茶持ってくるから二人とも座って待ってなさい。」



 そう言って霊華さんは中に入っていった。僕と霊夢は縁側に腰を掛けて待つ。



「あぁ…暑いわねぇ。今日も今日とて良すぎる天気だわ。」



 確かに暑い。夏真っ盛りだし、仕方ない気もする。梅雨は明けているようで、カラッとした暑さなだけマシだ。


 そうだ、こんなに暑いなら以前幽香さんに連れて行ってもらった湖に行くのが良さそう。霊夢や霊華さんも誘おうみたいな事も話した気がするし。



「そうだねぇ。霊夢、紅魔館の近くにみずう………いや、ちょっと待って。やっぱりなんでもない。」



 危なかった。『霊夢や霊華も誘った時に泳ぐとするわ。』って幽香さんが言っていた。よく思い出したぞ僕。


 泳ぐのは別にいい。水着になるのが問題だ。さっき霊夢に言われてしまったが、絶対に見てしまう。


 今日言われた事をすぐさま実行する訳にはいかないのだ。エッチ、と言われるくらいならまだいい。気持ち悪い、と幻滅されるのだけは避けなければならない。



「ん?何よ?」



「いやいや、気にしないで。僕も暑くて頭が働いてないっぽい。」



 実際は真逆なのだけど。危機回避の為にフル回転している。


 僕が一緒に行かなければいいだけの話なのだが、絶対に連れていかれる。水着を見て、アタフタしてる僕を皆してからかってくるのが目に浮かぶようだ。


 多分幻滅されることは無いだろうが、如何せん自分自身どうなるか分からないのだ。予防はしっかりとしなければ。



「二人とも、お待たせ。おやつ持ってきたわよ。」



 ナイスなタイミングで霊華さんが戻ってきてくれた。手にはトレー。大きめの木のお椀にお煎餅が入っていて、三人分のグラスに緑茶が注がれている。


 氷がカラカラと音を立てるのがなんとも心地よい。既に結露を始めていて尚更冷たそうに見える。


 まぁ、先程までヒヤヒヤしていた訳だが。



「お、ありがとうございます。」



「ありがとうお母さん。いただくわね。」



 お椀のお煎餅を一枚齧る。こんなに暑くても美味いもんは美味い。縁側でお煎餅を食べながら境内を眺める。これぞ和と言うものだろう。



「それで、幽透は何か分かったの?」



「裏付けが出来た訳じゃないですけどね。とりあえずはイメージ通りに使えるようには。」



「それは良かったわね。やっぱり幽香が関わってるのかしらね。」



 飲んでるお茶を思わず吹き出しそうになった。霊華さんにはまだ何も話してないのにどうして…?



「ケホケホ…な、なんで…?」



「最初に見た時は何も思わなかったけど、幽香とそう言う関係になった翌日に使えるようになったんでしょ?それとの因果関係を普通考えるわよ。」



 そ、それもそうだ。いや…でも感情が魔力に直結するなんて知らなかったし、結局分からずじまいだったとは思うが…


 パチュリーさんもそれで幽香さんのことを考えてって言ったのだろうか。



「でも結局、幽香をイメージしながら使うって答えに至ったのはパチュリーのおかげでしょ?」



「ま、まぁね。少なくとも今日使えるようにはなってないと思う。」



 いずれは自分で閃いたり、他の人からのアドバイスだったりで使えるようになってたとは思うけど、今日相談して今日使えるようになったのは間違いなくパチュリーさんのおかげだ。



「私も、幽香が関わってるんじゃないの?くらいにしか考えて無かったし、良かったじゃないの。」



「僕自身驚くレベルの威力でしたし、早くこれに慣れるためにも使えるようになって良かったですよ。」



「今日は身体も疲れているでしょうし、帰ったらゆっくり休みなさいね。無理は良くないわ。」



 パチュリーさんに回復してもらったとは言え、やはり自然回復が一番なのだ。


 よく食べてよく寝る。これぞ最上の回復方法だ。寝る子は育つとはよく言ったものだな。



「幽透としては早く帰りたいんじゃないの?幽香とイチャイチャするんだもんね。」



「またそうやってテキトー言うんだから……するとしてもわざわざ言ったりしないよ。」



 いや、するけどね。幽香さん次第だけど、僕は今日一日中幽香さんの事を話したおかげで甘えたい気分だよ。


 ずっと一緒にいるより、こうして別行動をした日の夜にその日にあったことを話し合って寂しさを共有した後にイチャイチャする方が燃えるんだよ。何とは言わないけど。


 だから無理して一緒にいようとするんじゃなくて、いない時の寂しさを共有できるように努めるべきだね。



「まぁそれもそうね。幽香に聞いたらポロッと話してくれそうだし、幽香にカマかけるとするわ。」



「あ、お母さん。さっき幽透もイチャイチャの内容話してきたわよ。」



 やはり親子なだけあって思想が似てるのだろうか。


 それによく考えてみたら霊夢に話してしまっていた。幽香さんのイメージがあまりにも可愛くてつい。


 い、いや、でも内容って言ったってカップルだったらごく自然の事しかしてないし。聞かれてマズイような事はまだしていない。



「あら、どんな事してるのかしら?どうせ言えないようないやらしい事でしょ?」



「してませんって…いくら僕でも幽香さんが望まない事をしたりしませんよ。」



 そもそもこの幻想郷において僕が無理矢理なんて不可能だ。そんなことしたら至近距離でマスパを撃たれてそのまま旅立ってしまう。


 普段はクールな幽香さんだからこそ、心をしっかりと開いてもらって、グズグズになるまで攻めて、そこからゆっくりと……


 いや、流石に妄想が過ぎるぞ僕。そんなんだからエッチって言われるんだ。



「幽透が言わなくても幽香の顔見たら分かると思うけど…大丈夫?」



「…もし気付いても見て見ぬふりしておいてください。」



 確かに幽香さんは意外と顔に出る節がある。特にイチャイチャ関連。照れる事があまり無いのか、本人は誤魔化すがバレバレなくらい隠せてない。


 それがまた可愛いんだ。肌が白いからなのか、赤みを帯びたのがより分かりやすい。


 そう考えると…多分霊華さん達にもバレるだろうな。



「お母さん……わ、私…絶対に笑っちゃうわ…!」



「そうねぇ。ヤッたの?って普通に聞きたくなりそうよ。」



「親子揃ってそういう意地悪するのやめてもらっていいですか…?」



 幽香さんの昔からの友達なだけあって扱い方が慣れていると言うか…それが許されるだけの仲良しさんと言うことで…


 霊夢に話した事も幽香さんにいずれはバレるだろうし、そうなったら恥ずかしがる幽香さんに怒られるのかな。


 それはそれで悪くない……なんて思いながら僕は更にこの親子にイジられるのであった。

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