26話 幽透の新たな力。
「さてと、それじゃあ始めるわよ。」
「ういっす、よろしくお願いします!」
魔力、属性の仕組みを理解した所で、次は実践。
魔力を増やすのはやはり今すぐどうこうできる話ではないので、とりあえず属性を使い分ける練習だ。
「使い分けとは言っても習うより慣れろ、よ。」
「やり方さえ分かれば後はひたすら特訓します。とにかくやってみない事には…」
ちなみに属性と言ったら、他との相性が気になる所だが、そんなに関係ないんだと。
例えば、冷気を操るチルノに光と炎のマスパが効かないかと言われると全然そんな事はないらしい。
ならなんの為に使い分けるのか。それは純粋に攻撃の威力を上げるためだ。
複数の属性が混じり合うと、反発しないように自然と魔力が抑えられるらしい。同じ量の魔力を使うのならマスパより僕の風の魔砲の方が威力は高いようだ。
魔力を増やしつつ、単発威力の向上。効率良く強くなれるって寸法よ。是非使いこなしたい。
「ふぅむ…私だって分からないことあるし、手探りでやっていきましょ。まずは…以前私にやったように魔砲を撃ってみて。」
「了解です。それじゃ……行きますよ。」
今回は威力の検証じゃなく、属性の使い分け。そこまで全力じゃなくていいだろう。
一呼吸置いて魔力を手に集中させる。使える魔力が増えたから最初に比べて随分スムーズになった。
「結界詠唱、展開!」
「あら…よっと!」
パチュリーさんに向けて魔砲を放つ。撃っている感じ、特に何も変化はない。
ただ、これはマスパと同じ属性だ。使い分けは出来なくても見分けることは出来る。色が違うから。
マスパは外側が黄色で中心が白。レーザーと言われて想像しうる色だが、風の魔砲は外側が緑、中心が白となっている。
感情やイメージで撃つから、そのイメージ通りの色をしているのだと思っている。
そして今僕が放ったのは黄色と白。パチュリーさんの結界にヒビを入れた所で消えてしまった。
「随分と威力が上がったわね。一週間前とは大違い。」
「それは反復練習ですから。それで、今のは風属性じゃないですね。」
「まぁごく普通の魔砲って感じね。それをどうやって風のみに集中させるか……」
難しい顔をしながら唸っているパチュリーさん。僕自身もよく分からないのだ。
撃てる時と撃てない時、その差が無い。そりゃ体調や時間は違ったりするけど、それでも撃てる時は撃てるのだ。
昼だろうと夜だろうと、僕の魔力が少なかろうと多かろうと、撃てる時は撃てる。逆に満タンで、どれだけ魔力を集中させても撃てない時は撃てない。
「結局、霊夢と霊華さんに見せようと思った時も撃てなかったんですよ。何をしてもその時その時で違って…」
「それって、幽透が神社に赴いたの?霊夢達がそっちに行った時に見せようとしたの?」
パチュリーさんは何か閃いたようだ。いや本当、先程の仮説の時といい、閃きが早い。頭が切れる人ってそれだけでカッコよく見える。
まぁパチュリーさんはカッコいいと言うか思いっ切り美人さんなんですけど。
「僕から行ったんですよ。幽香さんが買い物してくるって言ってたからその間に。」
「…つまり、幽香はいなかったのね。そうか……それなら理屈は分かるけど……でもそんな事……いや、幽透だし…ありえるかも…?」
またもや一人でブツブツ考えている。僕に期待してくれている言葉なのか、バカにしてる言葉なのか。おそらく後者だと思う。
でも思い返すと家で特訓する時しか撃てなかった気がする。博麗神社で撃てなくて、紅魔館でも撃てない…
幽香さんとキスをした翌日、幽香さんの顔を見るだけで胸が高鳴ったのを覚えている。その後に、いきなり風の魔砲が放たれたのだった。
それから、撃てる時と撃てない時がある事に気が付いた。家での特訓…いや、幽香さんがいる時の特訓では……
「あっ!!」
分かってしまったかもしれない。確証がある訳では無いが、今までの状況を考えるとしっくり来る。
イメージの元である幽香さんが僕の近くにいるかどうか。これが大きく関わっているのではないか?
幽香さんが付き合ってくれた時は撃てていた。つまり、僕が無意識に幽香さんを意識していたのだ。無意識に意識…矛盾しているようだが、まぁそんなところだと思う。
イメージを魔力に変えるってことは、僕の頭の中に幽香さんがいないと当然そのイメージは使えない。
僕が幽香さんの事を考えまくって魔砲を放てば、いけるんじゃないか?
「…分かったみたいね。」
「僕も仮説の域を出てないですけど。なんとも僕らしいと言うか…確かに僕だったらありえそうですね…」
パチュリーさんの反応を見るに、おそらく同じ事を考えていたに違いない。
僕も後追いで閃いたとは言え、本人より早く閃いたパチュリーさんは流石としか言えない。
「フフッ、そうでしょ。さぁ、仮説を立てたら次は試すのみ。幽透、魔力は後で私が回復させてあげる。だから全力で来なさい。幽香は幽透の力の源…仮説が正しければ、異次元の火力を出せるはず。」
それもそうか。今までは意図せずに撃っていたが、今回は違う。自覚して魔力を集中させることで…威力が跳ね上がる可能性もある。
異次元の火力とは言っても幻想郷の住人にはまだ及ばない程度だろう。前回も大丈夫だったし、遠慮せずに本気でいかせてもらおうか。
「了解…!すぅ…はぁ……幽香さん…!」
正直、幽香さんを意識するのって言葉では簡単だが、実際どうするのが正しいのか分からない。とりあえず幻想郷に来てからの事を思い出してみる。
僕がこうして新たな事にチャレンジ出来てきるのだって幽香さんのおかげだ。幽香さんと出会っていなければ、こうして守りたいって思うことも無かっただろう。
幽香さんが僕を大切に思ってくれているのは分かっている。あの妖怪に向けた殺意だって、僕の為だってことは分かっている。
ただ、僕はあの時の幽香さんの顔を忘れちゃいけない。怒りと、焦りと、心配を織り交ぜたようなあの表情を、僕は二度と幽香さんにさせる訳にはいかない。
「これは……凄いわね。」
周囲に風が吹き荒れ始める。確実に風の魔力を使えているようだ。
僕は幽香さんを守る。あの太陽のような、最高の笑顔を守り続ける為に僕は強くなるんだ。
この両手に渦巻く竜巻のような魔力が…僕が幽香さんを愛している証拠。今はまだ小さいけど、いつかもっともっと大きく、強くなってやる。
「…パチュリーさん、行きますよ!」
「結界詠唱…属性結界『風』!さぁ、いいわよ幽透。守るべき者を見付けた貴方の全力、見せてみなさい!」
「うらぁあぁぁああああ!」
集中させていた魔力を一気に解き放つ。レーザーではなく、大きな竜巻の様な魔砲がパチュリーさんを飲み込もうとしているようだった。
見た目は違うが、威力も桁違いだ。放った瞬間に分かった、今まで僕が放ったどんな魔砲より強い。
ただ、パチュリーさんの結界は破れなかった。放った渾身の魔砲は結界に触れた瞬間に消え去ってしまったから。
「…凄い。こんな純度の高い属性…初めて見たわ。」
「はぁ…はぁ……ど、どうですか…?か、仮説は…正しそうですけど…」
「正しいには正しい。ただ、私の想像の遥か上を行ったわ。詳しく説明する。まずは幽透の回復ね。」
パチュリーさんが僕に向けて手をかざす。すると徐々に魔力が回復し始めた。
深呼吸で回復する時の何倍も早い。魔女って相手に魔力を送ることも出来るのか。
僕の魔力の最大値がまだ少ないこともあってか、数秒で全快してしまった。魔女すげぇ。
しかし…僕としても思った以上の結果だ。これだけの魔砲…もう少し詳しく説明を聞いて、しっかり使いこなさなければ。
想像以上の魔力に新たな力……フフフ、僕も成長しているみたいで何よりだ…




