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23話 治療の代償。

「二週間か…まぁそれだけ一緒にいれば好きになって当然って気もするわね。」



 診察という名の尋問が始まってから数分。身体をじっくり観察されながらの質問攻めに、僕はもう自分の感情を隠す気すら無くなっていた。


 人を好きになる気持ちを隠す必要もないし、それが幽香さんに伝わったとしても、僕から再度伝えるだけだ。



「幽香さん優しいんですもん。記憶も無いし、余計に好きになっちゃいますよ。」



「尚更沁みるって感じね。それで、気持ちは伝えるの?」



「本当は幽香さんを守れる自信が着いてから言おうと思っていたんですけどね…」



 カッコ付けたいなんてカッコ付けてる場合じゃない。幽香さんが僕に好意を持ってくれているのは分かってる。


 今回だって僕を想ってくれていたからこそ妖怪達に抑えること無く殺意を向けていただろうし、ここまで連れてきてくれたのだろう。


 それを分かっていて、何も伝えないのは反則だ。少なくとも僕はそれを良しとはしたくない。



「カッコいい所を見たいんじゃなくて、カッコ付ける為に一生懸命頑張っている所を女は素敵だと思うものよ。」



「それってつまり…カッコよく思ってないってことになりませんかねぇ…」



「努力して努力して、目標を達成する。その努力を見ていたからこそ、達成した瞬間がより輝いて見えるのよ。」



 なるほど、一理ある。何も知らずに見せられるより、その過程を知っている方が成長具合が分かるから。


 だけど、その努力をしてる姿を出来るだけ見せたくないのが僕の面倒なとこなんだよなぁ…



「努力をしなくてもいい天才より、努力を続けている凡人の方がいいってことですか?」



 嫌味っぽい言い方をしてしまった。ちょっと屁理屈っぽい所は直していかないと…



「ん…両方凄いのだけど、努力出来るのも才能だと思うのよね。私の見た感じ…幽透は才能もあるし、努力も出来る。女としては…魅力を感じざるを得ないわ。」



「それは嬉しいですね。ただ、極力見せたくないんですよね…カッコいい所だけ見せたいと言うか…」



「例え努力の姿を見てなくても、出会った頃の幽透より成長しているのは分かる。それを才能の一言で済ますほど、幽香は薄情じゃないわよ。」



 見ていても見ていなくても、幽香さんは僕が努力をしないとは思わないってことか。


 本当にそうだとしたら…嬉しいな。



「だといいんですけど。既にカッコ悪いところはたくさん知られてるし、これからに期待ですね。」



「フフッ、信じられてるからこそ裏切れないわよね。大丈夫よ、貴方の努力は認められる。少なくとも、私は幽透に頑張ったねって言いたいわ。」



 『頑張ったね』と永琳さんに言われた時、目頭が熱くなるのを感じた。


 そうか…僕は褒められたかったのかもしれない。努力は見られたくないけど頑張りは認めて欲しくて、だから妖怪達からも逃げずに戦ったんだ。


 幽香さんの優しさに触れていく内に、自分の存在が必要とされているんだって思えてきて、だからこそ、その居場所を守りたくて。


 嬉しくて笑顔になってるのに涙が流れるこの不思議な感じ、なんだか久しぶりだ。幽香さんと出会った頃は毎日がこんな感じだったな…



「…はぁ。止めてくださいよ。僕、そう言うの結構弱いんですから…」



「それだけ幽透は頑張ってきたってことよ。自分を追い込んだ分だけ認めて欲しい、それは当たり前の感情だもの。」



 ポンと永琳さんの手が僕の頭に置かれる。頑張った頑張ったと言いながら。


 幻想郷の人達は僕を撫でるのが好きらしい。僕はそれに抗う術を持ってない訳だから…



「うぅ…マジで止めてください…あぁもう…無理…」



 目から溢れるものを抑えられないのは仕方ないだろう。これはどうしようもない。


 普段から優しさには触れてきていた。なのに僕の心にはまだ優しさが入り込んで来るようだ。



「別に我慢する必要なんて無いと思うんだけど。まぁ男のプライドってやつ?」



「ハハハ……そんなところです……皆がそう言ってくれるんで、泣いてたまるか…みたいな。」



「フフッ、幽香に泣いてる所を見られたくないなら私の所に来なさい。私が優しく慰めてあげるわ。」



 永琳さんは本当に悪い人だ。先程のような悪い笑みを浮かべている。


 さっきまで幽香さんが好きだみたいな話をしていたのに、自ら他の人に甘えに行けるものか。


 幽香さんになら恥ずかしさを棄ててでも甘えられる……ような気がする。



「一応…覚えておきます。はぁ、それにしても…どうして皆こんなに優しいんですかねぇ…」



「まぁ正直言うと、私達って永い時を生きてるから、母性が湧くと言うか…幽透が可愛いんでしょうね。」



 女性に年齢を聞くのは御法度だと思うので聞かないけど、レミィがあの見た目で五百歳以上……最早誰が何歳だろうと驚かない。


 それに、皆美人なのだ。驚かないと言うより、そもそも気にならない。あぁ、お姉さんだなぁ…って思うくらい。


 でも大人の色っぽ……落ち着いた雰囲気は漂っているから甘えてしまうよね。これは仕方ない。



「愛でられてるって事ですかね…?」



「幽透としては何とも言えない感じだと思うけど、まぁそんな感じよ。さっきも言った通り、頑張ってるのは伝わってるから褒めてあげたいって気持ちもあると思うわ。」



 霊華さんにも伝わっていたのだろうか…?言われてみるとあの飲み会の時、子を見守る母親のような優しい笑顔だった気がする…



「その優しさが僕の心には大きすぎるんですよね…」



「まぁいいんじゃない?褒められ慣れてるより、今の幽透みたいな方が可愛いもの。」



 面白がられている気もするが、この際それは気にしないようにしよう。


 褒められて当たり前、そんな風な考え方にはなりたくないものだ。泣いてしまうのは抑えたいが、この何にも変え難い喜びは忘れてはいけないだろう。



「なんかそれ霊華さんにも言われたような…」



「霊華は母親だもの。尚更そう言う気持ちになるんだと思うわよ。」



「あぁ……ん?もしかして…僕って霊華さんに子供のように接されてるってことですか?」



 僕自身も霊華さんに母性を感じているし、そう思われていても問題は無いんだけど…


 そうなると霊夢と兄妹になるってことか?いや、霊夢のことだ、僕を弟だと思うに違いない。つまり、姉弟だ。



「可能性はあるんじゃない?ガサツでちょっと大雑把な所もあるけど、人を育て、伸ばすのは得意なはずよ。」



「確かに霊華さんって不思議ですよね。」



 ガサツとか、大雑把だとは思わないけど。まぁ長く付き合っていく内にそう言う所も見れるのかな。



「歴代の博麗の巫女としても異質と言えば異質ね。」



「異質?でも役目を全うして霊夢に世代交代したんですよね?」



 妖怪を倒す巫女が幽香さんや他の妖怪の人達と仲良くしてるのは確かに異質なのかもしれないけど…あくまでも悪事を働く妖怪を退治するのが仕事だった気が…



「博麗の巫女って元々幻想郷の中でトップクラスの実力を持っているのが当たり前なのよ。」



「…あ、確か霊華さんって昔は…」



「めっちゃ弱かった。多分幽透が倒した妖怪ですら倒せなかったくらいにはね。」



 妖怪退治を幽香さんと一緒に行っていたと言っていた。弱いとは言っても…って思っていたが、まさか本当に弱かったとは。



「成り上がりの博麗の巫女って凄いんですね……あ、そうだ永琳さん。良かったら昔の幽香さんや霊華さんのこと、聞かせてくださいよ。」



「まぁまだ診察も時間がかかるし、いいわよ。」



 それから暫くの間、僕は永琳さんから昔の話を聞かせてもらっていた。


 小さい頃の霊華さんの話や、赤ちゃんだった霊夢や魔理沙を霊華さんと幽香さんでてんやわんやしながら育てたいた話とか……


 色々な話を聞いていく内に二人の見方が少しだけ変わった気がする。意外と人間らしい所が沢山あって、可愛らしい二人を知ることが出来た。


 …いつか絶対にからかってやろうと心に決めた。

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