20話 幽透と幽香の人里デート。
「あら、幽透ちゃん、幽香ちゃん。いらっしゃい。」
人里に到着した僕達は一直線に団子屋に向かった。
外で客引きをしていたお店のおばちゃんにすぐ見つかり、手招きをされたところだ。
「おばちゃん、また来たよ。」
「前に背中が痛いって言ってたけど、もう大丈夫なのかしら?」
人里に行く度に、こうして里の人達と会話をするのが僕の楽しみでもある。
団子屋のおばちゃんは、歳もあって身体を少々痛めている。それでも元気に振舞って接してくれる姿を見て、僕は元気を貰っている。
「大丈夫だよぉ。竹林の薬師さんに良い薬を頂いてからはバッチリさね。」
「そう、それは良かったわ。私もまだこのお店のお団子を食べたいし、元気でいてもらわないと。」
僕としてもそう思っている。能力を持たない普通の人間は幻想郷でも歳を重ねるし、寿命の概念もある。
必要以上に歳を取らず、成長も止まる僕らだからこそ、人里の人達には永く生きていて欲しいし、変わらないでいて欲しいと思う。
「ヒヒヒ、嬉しいねぇ。さぁ、外は暑いし、店の中に入りな。」
おばちゃんに促されて店の中に入る。クーラーが効いているのか、ヒンヤリとした空気が流れている。
意外にも家電は普及しているようで、エアコン以外にも冷蔵庫や洗濯機なんかもしっかりある。
なんでも機械を作るのが得意なエンジニア妖怪がいるんだとか。是非会ってみたいものだ。
「幽透ちゃんも幽香ちゃんも、いつものでいいかい?」
いつもので通用するくらいには認知してもらっている。人里の住民意外にも、僕らみたいに外からやってくる人もいるだろうに…嬉しい限りだ。
たった二週間で覚えられる程変な注文をしてるって事なのだろうか…?確かに最初っからよく食べるやつ…みたいな覚えられ方をしていたが…
まぁ、何にしても記憶に残っていないよりはマシだろう。
「うん。いつものみたらし団子を……そうだな、今日は五本!」
こんな頼み方をしている辺り、僕も僕である。ちなみに五本と言うのはいつもと比べたら少ない。
「私は三本でいいわ。あと、冷たいお茶もあると嬉しいわね。」
「幽透ちゃんが五本、幽香ちゃんが三本だね。後は冷たいお茶。以上でいいかい?」
おばちゃんの問い掛けに頷く。おばちゃんは笑顔で厨房に行き、お団子の準備を始めた。
「いつもより少ないじゃないの。」
「まぁご飯食べてないし、お団子だけで満腹ってのも流石になぁ……って。」
別にダメだとは思わないけど、幽香さんのご飯はめっちゃ美味しいし、食べない訳にはいかない。
そもそも、一緒の食卓を囲みたい。幽香さんだけ後でご飯食べて、僕は食べないなんて少し寂しい。
「それもそうね。お昼ご飯どうしましょうか?」
「お団子食べるし、軽い物でいいですよねぇ。」
こうも暑いと食欲も湧きにくいものだ。昼食は普段から結構軽めにしている。
食べない選択肢は無いのだが、だからそこ毎日の献立を考えるのも大変だ。世のお父さんお母さんは凄い。
「うぅん…蕎麦とかいいんじゃないかしら。」
「あぁ、いいですねぇ。お好みでとろろとかつけたいですね。」
結構すぐに決めれる時もあるのだが、決まらない時は本当に決まらない。蕎麦だって一昨日食べたし。
「そうねぇ。野菜を買って、サラダを作って、後はお漬物とかあればいい?」
「充分ですよ。お昼はそれでいいとして、夕飯は買い物しながら思いつきで決めちゃいましょ。」
なんか買い物しながら、その日の献立を一緒に考えるってまるで夫婦みたいだよね。
そんな事を考えつつ、いつもニヤケるのを我慢しながら幽香さんと買い物している。
まぁ多分バレてると思うけど。何を考えてるかまでは分からないよね…?
「そうね。そうしましょ。それより今は早くお団子を食べたいわ。何はともあれそれからよ。」
「はいはい、お待たせね。」
幽香さんの言葉を待っていたかのようなタイミングでおばちゃんがトレーにお団子とお茶、それに頼んだはずの無いかき氷を乗せて来た。
「お、ありがとう。おばちゃん、そのかき氷は…?」
「ん〜?ま、サービスだねぇ。外は暑いし、冷たい物も食べたいだろう?」
もちろん嬉しいのだが…採算は取れているのだろうか?おばちゃんの人柄の良さが出ているけど…大丈夫か?
僕らはまだまだこのお店に通うつもりだし、赤字になってもらっては困るのだが…
「…いいのかしら?以前も幽透の分をおまけしてもらってるし。」
「いいんだよ。私らみたいな年寄りはね、幽透ちゃんや幽香ちゃんみたいな子達が自分の作った物を美味しそうに食べているのを見るのが楽しみなんだから。」
おばちゃんは確かに僕らがお団子を食べているのをちょくちょく厨房から見てはニコニコしている。それを見た僕らも嬉しくなるものだ。
「そう言ってくれるのはありがたいけど、多分私はおばちゃんより永く生きてるわよ?」
「成長もせずに何が長生きかね。オババの好意は素直に受け取っとくモンだよ。ゆっくり食べておいき。」
おばちゃんは僕と幽香さんの頭に手をポンポンと置いてから厨房に戻って行った。
成長せずに長生き…か。寿命の概念が無い以上、長生きなんて言葉は当てはまらないのかもしれない。
成長を通り越し、老いて寿命を全うするからこそ、おばちゃんの言葉が重く聞こえる気がした。
「…死を意識しない年月なんて軽く感じるモノね。」
「そう…ですね。おばちゃんだからこそ言える言葉でしたよね。」
どれだけ健康であっても、どれだけ力が強くても、どれだけ賢くても、人間である以上死からは逃れられない。確実に一日ずつ、死に向かって行ってるのだから。
幽香さんや僕を始めとする妖怪や妖精達。人間と同じ世界に生きて、同じ時間を共有しているけど、その実、時間の重みは思っている以上に違うのだろう。
「ありきたりな事を言うけど、やっぱりああいう人が本当に永く生きていて欲しいものね。」
「間違いないですね。僕、今までたくさんの人にたくさん助けられてきましたけど、人里の人達の優しさって…なんかこう…違うんですよね。」
うまく説明できないけど、元気を分けてもらっていると言うか、物理的に助けてもらうだけではなくて、精神的にも助けられてると言うか…
幽香さんみたいに、前を向いて生きるぞ!みたいな活力とかではなく、生きてるだけでいい事があるんだろうなって思わせてくれる感じだ。
「なんか分かる気がするわ。やっぱり精神面が大きく違うんでしょうね。寛大と言うか…」
「あぁ…そうですね。広いんですよね、受け入れてくれるって安心感があります。」
「幽透は幻想入りしたばかりだから尚更そう思うのかもしれないわね。何にしても…感謝無くしては生きていけないって気持ちにさせてくれるわ。」
以前の僕がどうだったかは知らないが、幻想郷に来てからは感謝の連続だった。
助けてもらった恩もあるが、それ以上に人の温かさがそうさせているんだと思う。
「日夜感謝ですね。さ、かき氷もある事だし、溶ける前に頂くとしましょうよ。」
「フフッ、そうね。氷を削って蜜をかけただけの食べ物にここまで感謝をするなんて思ってもなかったわ。」
「本当ですね。それじゃあ…」
「「頂きます。」」
手を合わせてから二人してかき氷を口にする。僕がレモンで、幽香さんはイチゴ。食べ進めると中に練乳が入っていて、二度美味しいってやつだった。
時折頭がキーンとなったが、それもまた一興。夏ならではの楽しみだ。
おばちゃんがサービスしてくれたかき氷は、冷たいのにどこか暖かい、不思議な不思議な美味しいかき氷だった。




