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2話 幽香さんのあたたかさ。

「ふぃ〜!お風呂ありがとうございました、おかげでめっちゃサッパリです。」



 幽香さんの好意でお風呂を借りた。先程まで着ていた服はなんか汚いと言う理由で幽香さんに捨てられてしまった。


 とりあえず幽香さんの家に置いてあった男性用の服一式を着ることになったのだが…


 幽香さんが一人暮らししてる家に男性用の服…ま、まぁそりゃそうだよ。あれだけ美しい人に今まで付き合った人がいない訳ないもんな。



「それは良かった。サイズは…ちょっと小さかったかしら。幽透、あなた意外とスタイルいいのね。」



「着るものがあるだけ感謝ですけど、幽香さんがそれ言いますか?」



 モデル顔負けのスタイルは幽香さんの方だと思うが。まぁそんな人から褒められたと言うことで喜んでおこう。


 それにしても…我ながら楽観的だな。今一つ自分の状況を理解していないというか…ポジティブと捉えておこうか。



「あら、人からの褒め言葉は素直に受け取っておくモノよ?ホント……美味しそうだものね…」



 唇に舌を這わせ、妖艶な笑みを浮かべる幽香さん。特別な事はしてないのに目を奪われてしまう。死の恐怖すら感じられない程に。



「……痛くしないでくれれば…!」



「冗談よ。さぁ、ご飯にしましょ。」



 そう言われるといい匂いが漂っているのに気付く。お風呂からご飯まで、申し訳ない気持ちだ。



「あ、ありがとうございます。お風呂入ってたらお腹減ってきちゃって…」



「気にしないで。男の人がどれだけ食べるか分かんないから足りないかもしれないけど…」



「いや本当…お風呂にご飯まで用意してもらってるんだし……むしろありがとうございます。」



 食卓に着くと、美味しそうな幽香さんの手料理がズラっと並んでいた。


 幽香さんみたいな人の手料理が毎日食べられるのならこんな幸せな事はないかもしれないな…運が良すぎてむしろ死ぬんじゃないんだろうか。



「いいのよ、作りたくて作ったんだから。ほら、折角作ったのに冷めちゃうし、食べましょ。」



 いただきます、と手を合わせ、幽香さんが作ってくれた料理を口に運ぶ。


 とても美味しい。記憶が無くなる前にどれだけ美味しい物を食べていたかは知りようもないが、恐らく幽香さんの手料理の方が美味しいと思う。


 こんなに美人で見ず知らずの自分を住まわせてくれる寛大さもあり、更に料理まで得意なんて付け入る隙がない。


 こんな美人って言葉を使いすぎな気もするが、それは仕方ない。幽香さんと過ごせば過ごすだけ使うと思う。



「めっちゃ美味しい…!」



「フフッ…たくさん食べて……って、幽透、ソース付いてるわよ。ほら、動かないで。」



 微笑みながらティッシュで口を拭いてくれた。少し恥ずかしさもあるが、それ以上に美味しい思いをしている…二重の意味で。



「ん…すいません。思った以上にお腹空いてたみたいで…」



「誰も盗ったりしないんだから…ゆっくり食べなさいよ。」



「確かに…こんな美味しい料理、しっかり堪能しなきゃもったいないですもんね。」



「…あなたって自然と相手を褒め倒すような事を言うのね。とんでもない人たらしだったりして。」



 人たらし…って人聞きの悪い。まるでお世辞を言ってるみたいじゃないか。


 本当にそう思ったからそう言ってるだけで、幽香さんに言ったことに嘘なんてこれっぽっちも無いんだけど…



「まぁ人に嫌われるような性格じゃないだけ良かったと思いますけど…」



「それもそうね。前の幽透の事は知らないけど、少なくとも私は嫌いじゃないわよ。」



「…最初に会えたのが幽香さんでマジで良かったです。」



 よく考えると本当に死んでてもおかしくなかった。妖怪に襲われるなり、餓死なり、右も左も分からない世界で死因なんていくらでもありそうだし。


 幽香さんとの出会いというイベントでそれらの危機を逃れられたのは本当に運が良かった。



「ただの気まぐれよ。そんなかしこまって感謝されるような事じゃないわ。」



「僕にとっては命の恩人なんですよ。この恩は必ず返しますからね、畑仕事でもなんでも言ってください。」



「それはその時考えるわ。まぁ、助けられて当然…なんて考えを持ってる人だったら助けてないと思うけど。」



 そうは言っても多分幽香さんに嘘は通用しなさそうだし、嘘なんてつくもんじゃないってこった。


 美しさも含めて人間離れしてる幽香さん。そもそも妖怪って言ってたし、人間を軽く蹂躙できる力はあるんだろう。


 つまり生殺与奪の権利は幽香さんにある訳で、こちらとしても恩返しをしたい訳だし、幽香さんがフランクなのは接しやすくて助かるところだ。



「…仮にですけど、僕が妖怪に襲われたりしたら助けてくれますか…?」



「名前まで付けておいて見殺しにする訳ないでしょ?私と一緒にいれば安心だし、万が一襲われたとしても私が幽透を守るわ。」



 おぉん…こんなかっこいいセリフをサラッと言ってのける幽香さんはやっぱり素敵だ。


 それに、今の言い方だとやっぱりその辺の妖怪には負けない強さも兼ね備えているようだ。


 この世界の『強さ』の概念がどのようなモノかは分からないが、太刀打ち出来るのだろうか?



「自分から言っといてアレですけど…男としてめっちゃ情けないこと聞きましたよね…」



「人間と妖怪の差よ。物理的な力の差、体内に宿す魔力だって圧倒的に違うわ。」



「い、いや…幽香さん、そんな腕っ節強い見た目してないじゃないですか。それに…ま、まりょく…って?」



 別世界と言われてもどこか他人事のように考えていたけど、この世界の住人である幽香さんからそのような事を言われると嫌でも実感してしまう。



「それも知らない世界から来たのね。分かったわ、ご飯を食べ終えたら詳しく教えてあげる。」



「…何から何まで本当に申し訳ないです。」



「そんな落ち込んだ顔しないの。知らないモノは仕方がないんだから、今はとりあえずご飯食べて、体力をしっかり付ける事を考えなさい、ね?」



 幽香さんの柔らかい手が頭に乗る。ポンポンと心地よいリズムで僕の不安をかき消してくれるようだった。


 人の優しさに触れるとこんなにも嬉しくて泣きそうになるのか…多分、前の自分もここまでの優しさを与えられた事は無いだろう。



「ありがとうございます……へへへ、幽香さんの分も全部食べちゃいますからね!」



「フフッ…いいわよ。食べたいだけ食べて、甘えたいだけ甘えなさい。」



 幽香さんに頭をひたすら撫でられながら、自分の頬を伝う物を誤魔化すように暖かい手料理を口に運び続ける。


 その間もずっと微笑みながらこちらを見ていた幽香さん。その笑顔、手の温もり、料理の美味しさ……それらが全て、僕の不安や焦りを和らげてくれていった…

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― 新着の感想 ―
[一言] 投稿お疲れさまです! 出会ってすぐなのにとても甘いですわ…… 妖怪や魔力を知らないからこそ、自然に接することのできる幽透くんマジ聖人ですわ。まあ、妖怪だの魔力だの知ってても彼なら変わらず接し…
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