19話 妖精との出会い。
「あ、ちょっとあんた、このアタイを無視して通ろうなんて随分な真似してくれるわね!」
紅魔館からの帰り道。幽香さんをお姫様抱っこしながらフヨフヨ飛んでいたら、レミィと同じくらいの背丈の子に絡まれた。
水色のセミショートヘアー、頭には同色のリボン、氷の様な羽に瞳の色から服までほとんどが水色と、見たら忘れないような見た目だ。
奇抜と言う訳でもなくて、上手くマッチしていると言うか、なんと言うか。
それにしても無視しようとは思ってなかった。すれ違うのって無視に入るのだろうか?
「止めようよチルノちゃん!男の人とお出かけしてるみたいだし、幽香さんに迷惑だよ!」
こちらも小さい子。チルノと呼ばれた子を止めてるあたり常識人のように感じる。幽香さんのことを知っているみたいだけど…
髪は緑のサイドテールを黄色いリボンでまとめている。白のシャツに青い服で、これはチルノと似てる。首から黄色いネクタイの様な物を着けている。
ちなみにこの子も羽が生えている。チルノは三対の羽だったけど、この子は一対。羽の枚数で強さがあったりとかするのだろうか。
「あら、チルノに大ちゃんじゃないの。何して…って、そう言えばこの湖の近くに住処があるんだったかしら。」
「ん…?あ!幽香じゃん!」
やはり知り合いだったようだ。この辺りを住処にしているようだし、紅魔館によく行く幽香さんと知り合いでもおかしくはないか。
それにしても、この子達の羽を見ても何も思わない自分は少しずつ慣れてきてはいるんだろうか。
「久しぶりね。相変わらず元気いっぱいで何よりだわ。最近会わなかったけど、どうしたの?」
「あぁ…最近は暑くてダメダメだよ。力も入んないし。」
「私には影響が無いんですけど、氷の妖精であるチルノちゃんにとってこの暑さは辛いようで。」
なるほど、この子達は妖精なのか。氷に命を吹き込んだ様な存在であるチルノには夏が厳しい季節になる…と。
逆に言えば雪が降るような寒さになればこの子は更に活発になる可能性があるのか。夏の今ですら通りかかった僕に絡んでくるくらい元気なんだけど…
「それでも自然に触れていないと存在できないんだものね。死の概念が無いとは言え、妖精が生きるのも楽じゃないわ。」
「それでもつまらないのは嫌だもん。だからこうして大ちゃんと遊んでるの。」
なるほど。死を恐れることが無いからこそ、苦手な夏にも遊んでいるって訳か。
ある意味合理的だと思うが、それでも苦しいには違いないんだからこんな晴れてる日に遊ばなくてもいいのに、とも思ってしまう。
まぁ、チルノと大ちゃんの仲がいいのはよく分かった。
「チルノちゃんの能力は一応発動してるのでまだいいんですけど、それが弱まったらすぐ帰るようにしてるんです。」
能力…そう言われてみるとチルノ達の周りだけやけに涼しいような…
「冷気を操る程度の能力だったかしら。いつもならもっと冷えてると思うけど…」
なるほど、意図的かは分からないけど、この涼しさはチルノの冷気によるモノだったのか。
元気が無い状態でここまで大気を冷やせるのか。全力だとどれくらい冷えるのやら…
「まだまだ余裕よ、なんたって、アタイは最強なんだから!」
「そんなこと言って、もう羽が溶けてきてるよチルノちゃん!」
ポタポタと羽の先端から雫が垂れている。あれって氷のような羽じゃなくて、氷を羽にしてるんだ…見た目だけかと思ってた。
氷でどうやって飛んで……いや、こうしてる僕だって羽とか関係なしに飛んでるし、考えるだけ無駄か。
「チルノってさ、溶けた羽とかいつもどうやって治してるの?」
「冷えた場所に行ったり…冷たい物を食べたりするとなんか治ってる。」
つまりチルノを冷やせば戻るってことか。性質まで氷みたいな子だな。
冷やしチルノ……なんかお菓子にありそうな名前だな。
「よくあの湖を浴びたりして冷やしてるんです。これだけ暑いと汗もかくし、私も気持ちいいので一緒に。」
「だけどまだ遊び足りないから水浴びは後よ大ちゃん!」
遊びに対しての熱意が凄い。暑くなると溶けるクセに。だけど、見ていて飽きない子だ。
理性的な大ちゃんが一緒だからこそ、活発なチルノが輝くと言うか…
「程々にしておきなさいね。さ、行くわよ幽透。私達もこの暑さじゃ溶けちゃうわ。」
「了解。それじゃあ溶けない程度に遊んでね。バイバイ二人とも。」
二人に手を振ってから家に向かって再び進む。
チルノは大きく手を振り返し、大ちゃんはペコりと頭を下げていた。真逆の二人って感じだったな。
あ、そう言えば自己紹介してなかった。二人からしたら結局あの男誰だよってなってるかもしれない。
まぁ…いいか。また会う時があるだろうし。
「ねぇ幽透?」
変わらずフヨフヨ飛んでいたら、幽香さんに話しかけられた。
チルノ達と話していた時もずっとお姫様抱っこだったんだけど、それに対しては何も突っ込まれなかった。
すれ違っただけで絡まれたのにそこには一切触れてこない……謎だ。
「なんですか?」
「帰ったら何をしましょうか?」
「そうですねぇ…とりあえずお腹減りました。」
朝、日課の特訓をし、シャワーを浴びて紅魔館に行ったから何も食べていない。
パチュリーさんとのやり取りで魔力も使い切っているし、流石にお腹が空いた。
「それもそうね。それじゃあ、人里に寄って、買い物してから帰りましょうか。」
「あ、それなら甘い物も買っていきましょうよ。あのお店のみたらし団子食べたいです。」
僕が初めて人里に行った時、サービスと言うことでお店のおばちゃんからみたらし団子をご馳走になった。
その時の味が忘れられない。人里に行く度にお店に顔を出し、団子を買っている程だ。
「分かってるわよ。フフッ…いつもいつもキラキラした顔で食べてるものね。」
「…そ、そんな顔してませんよ。」
正直ニヤケている自覚はある。元より甘い物は好物だし、あんなにも美味しい団子を前にしたら綻んでしまう。
人里の雰囲気って和に全振りしてるからこそ、和菓子が美味しく感じるのかもしれないけど。
「ふぅん…まぁいいわ。自覚の無い可愛さが一番愛くるしいものだしね。」
「うぅん…あんまり嬉しくないなぁ…」
紅魔館や神社でも散々言われたけど、やっぱり幽香さんに言われるのが一番ドキッとする。
嬉しいには嬉しいのだが…幽香さんにはカッコよく思われたい気持ちが大きいのだろうか?
我ながら複雑な男心である。
「可愛くないって言われるより良いでしょ?私は幽透を可愛いって思ってるんだから、それを素直に受け入れなさい。」
「誰かにも言われたなそれ…まぁそうなんですけどね。どうせならカッコいいって思われたい訳で…」
「あら、可愛いとは言ったけど、カッコよくないなんて一回も言ってないわよ?」
それそれ、本当そう言う所ですよ幽香さん。逆を言えばカッコいいってことでしょ?
そう思ってるんだって伝わってはくるけど、どうせなら直接言ってもらいたい。
本当に本当に、我ながら面倒な男心である。
「相変わらず僕の心を弄ぶのが上手いですねぇ。」
「カッコいいだけなんて女からしたらつまらないもの。一緒に過ごす相手には可愛さも求めたいわ。」
つまらないとかそう言う問題じゃない気がするんだけど…
いやいや、そう言う男女の受け取り方の違いによって悪化する仲もあるって聞くし、可愛いって言われた僕のリアクションを幽香さんは楽しんでる可能性もある。
確かに、日常的にカッコいいって思われ続けてもそれを維持するのが大変そうだし、偶に思われるくらいでいいのかもしれない。
「カッコ可愛くいられるように頑張りますよ。」
「フフッ、期待しておくわ。」
幽香さんの期待するカッコ可愛いが今一つ分からないけど、お姫様抱っこされてる幽香さんはどこか楽しそうだった。
ひょいと抱っこした僕をカッコよく思っていてくれていると良いんだけど…
いや、こういう思想が既に良くない気がする。幽香さんと言う沼にハマっている気分だ。
それも悪くないと思っている僕は、既に脱出出来ないくらいにはどっぷり浸かっているようだけど。まぁいいか。
 




