18話 紅魔館の当主。
「お父様、お客様よ。」
相変わらずデカいドアだ。この部屋の中にいるのか。
図書館でパチュリーさんやレミィと話した後、お邪魔させてもらって当主に挨拶無しは気が引けたので紅魔館の当主、つまりレミィのお父さんの元に案内してもらった。
「ん、入ってくれ。」
返事が聞こえたのでドアを開ける。当主の部屋なだけあってかなり広い。人の部屋のジロジロ見る趣味は無いが、これだけ広いと目を奪われる。
「幽透、この人が紅魔館当主、お父様のアリシア・スカーレットよ。」
「アリシアさんですか、つい最近幻想入りして、幽香さんの元でお世話になってます。風見幽透です。」
「外来人が紅魔館に来るなんて珍しい事もあるもんだ。よろしくな幽透。」
ニッコリと笑みを浮かべながら握手の手を差し伸べてきた。それに応えるように僕はアリシアさんの手を握る。
身長は僕と同じくらい。レミィと同じく吸血鬼の大きな羽がある。それに、イケメンだ。
幻想郷に来て今まで女性…それも美人すぎるほどの女性しか出会わなくて、アリシアさんが初の男性だけど、イケメンだった。やっぱり見た目が良くないといけないルールがあるんだろうな。
「はい、よろしくお願いします、アリシアさん。」
「うんうん、じゃあわたしはパチェの所に戻るから。じゃあね幽透、またゆっくり話しましょ。あ、お父様、幽透のことイジメちゃダメだからね。」
レミィはそう言って小さく手を振ってから部屋を出ていった。
皆そうなんだけど、別れ際に手を振ってくれるの凄い可愛くて良いと思うんだ。分かってやってる……いや、多分そんな事ないな。素でやって、可愛いんだ。
「父親をなんだと思ってるんだ……まぁいい。改めて、俺がこの紅魔館当主、アリシア・スカーレットだ。当主として歓迎する。」
「ありがとうございます。幽香さんが植物の様子を見る間の時間潰しみたいな感じだったですけど…なんか結局皆と話してしまって…」
まだ終わってないようだし、大変そうだ。定期的に来てるとは言っていたが…毎回こんなものなんだろうか?
「楽しんでもらえて何よりだ。先程も言った通り、外来人が紅魔館に来ることなんてまず無いからな。新鮮なんだろう、また話し相手にでもなってやってくれ。」
「えぇ。これからも幽香さんと一緒に来ることになると思うんで、その時にでも。」
花を操るとは言っても、どんな風にしてるのか知らないし、見てみたい気持ちもある。
それに、なんだかんだで畑仕事の手伝いだって些細な事しか出来てないし…役に立てる事があるなら立ちたい。
「そう言えば幽香と暮らしてるんだってな。慣れないことも多いと思うが、大丈夫か?」
「幽香さんに拾ってもらえなかったら死んでましたし…今のところは特に不自由してませんね。」
もちろん周りに助けられているけど、僕の適応能力も高い気がする。
よくよく考えて、記憶が無くて知らない場所で目覚めるとか、そこで死んでもおかしくなかったとか、もっとパニックになってもおかしくなかったな。
まぁ記憶が無かったからこそパニックにならなかった気もするけど…我ながらイカれてるな。
「そうか。また困った事とか、何かあったら紅魔館に来るといい、力になろう。」
「はい、ありがとうございます。そう言ってもらえると助かります。」
「気にする事はない。この幻想郷では何かに追われながら生きることなんて無いからな、のんびり、羽を大きく広げて生きていけばいいさ。」
そう言ってアリシアさんは自身の羽を大きく広げて見せた。左右に展開される赤黒い羽は、見慣れないと少し不気味に感じて、吸血鬼らしさを醸している。
のんびり…か。生き急いでるつもりもないし、何かに追われているつもりもない。ただ、ゆったり生きているかと言われるとそうでも無いかもしれない。
ここ二週間で僕の力はかなり増えた。それはパチュリーさんとのやり取りで実感できた。焦っても仕方は無かったので僕としてはのんびり特訓をしていたのだが…丸々一日身体を動かさなかった日は無かったかもしれない。
「そう…ですね。僕としては自由気ままに生きているつもりなんですけど。」
「人生何があるかなんて分からないだろ?俺も永い時を生きた。運命を操れようと、想定外な事なんていくらでも起きるもんだ。幽透、外来人のお前が俺の前にいることだってな。」
確かにその通りかもしれない。レミィのお父さんとなれば何歳なのか想像もつかない。それだけの時を生きていたからこそ、何があるか分からないって言葉に重みを感じる。
そもそもアリシアさんも運命を操れる能力を持っていることに驚いたが。たたでさえ能力なんて信じ難い話なのに、それが被るなんて…本当に何が起きるか分からないものだ。
「僕なんて最初っから想定外すぎて、想定外な事が想定内…みたいな感じありますよ。」
「ハハハ、そうだろうなぁ。二週間じゃ慣れてはきても馴染むことは難しいもんな。」
「レミィとも話したんですけど…そんな人生も悪くないかもなって。僕としても皆と出会って、こうやってアリシアさんと話せて、全部想定外だし、思い付きもしなかっただろうけど、楽しいですよ。」
全てを引っ括めると楽しいになるのだ。それは幻想郷の皆が支えてくれて、助けてくれて、記憶の無い僕に生きる楽しさを教えてくれたからだと思う。
咲夜さんがいきなり消えたのも、僕が魔力を使えるのだって今でも不思議なのだ。でも、楽しい。
驚いてる僕に美鈴さんが軽く笑って説明してくれるのとか、霊夢が僕の魔力に驚きながらも褒めてくれたりとか、全部全部、楽しいし、生きる糧になっている。
「そうか。随分と前向きなんだな。生まれつきか?」
「幻想郷に来る前の事は分かりませんけど、幽香さんと出会えたからこそ…ですかね。」
向日葵のように生きようって思えたのも、それを今も続けているのも、色々な経緯はあれど、全ては幽香さんに出会えたからだ。
感謝なんてモンじゃ言い表せない程に、僕は幽香さんに恩を感じている。
日々感謝はしているが、こうして口に出してみると改めて幽香さんが僕にとってどれだけ大きく、必要な存在なのか思い知る。
家に着いて落ち着いたら再度感謝を伝えよう。
「幽透にとって、幽香との出会いは人生を大きく変える出会いだったのかもしれないな。」
「えぇ、そりゃもう。僕がこうしているのも幽香さんのおかげなんですから。」
霊夢や魔理沙、紅魔館の誰かに拾ってもらったとしても楽しく生きていく自信はあるが、向日葵のらように…とか、そう言う風には思わなかったかもしれない。
だからこそ、僕にとって幽香さんは特別だし、無くてはならない存在なのだ。
「それなら俺からも幽香に感謝しておかないとな。」
「アリシアさんが?どうしてですか?」
「幽香のおかげで俺は幽透と出会えた。これから長い付き合いになりそうだし、新たな友人をありがとなって。」
「ハハハ…それはちょっとクサすぎますよ。」
誤魔化すように笑う。本当は凄く嬉しかった。やはり同性だからだろうか、霊夢達とはまた違った感じがする。
「どれだけカッコよくそれっぽい事を言えるか…みたいな感じ、分かるだろ?」
「あぁ…男ならではってやつ。別に嘘を言ってる訳じゃないんですけどね、女性はどう思ってるのやら…」
「どうなんだろうな。レミィにはウケが良かったけど。」
次期当主…なのかは分からないが、咲夜さんや美鈴さんの上に立つ者としての振る舞いを真似ているのだろうか?
レミィが良くても結局は他の人達がどう思うか…になると思うが…
「気にはなるけど直接は聞けないですよねぇ…」
「カッコつけてる自覚あるからこそ、それをわざわざ深掘りされても困るよな。」
いや、本当その通りである。え、カッコつけてたの?とか言われた際には二度とあんなこと言えなくなってしまう。
気にしていないならそれに越したことはないし、わざわざ自爆する必要もないだろう。
「と言うか、アリシアさんでもカッコつけることあるんですね…自然体に感じるし、わざわざそんなことしなくても…」
「子供の前だしな。カッコよくなくてもいいやって思うよりはマシだろ?」
「確かに…とりあえずはカッコよくないって向こうから突っ込まれるまでは続行と言うことで…」
「あぁ。んで、たまに男同士で息抜きでもしよう。」
こうして幽香さんが戻ってくるまで、アリシアさんと話続けていた。
男同士なのがこちらとしても話しやすく、幽香さんにでもしないような話をたくさんしていた。アリシアさんが言った通り、これからも長く付き合う仲になれそうだ。




