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17話 永遠に幼き紅い月。

「へぇ、それでパチェの相手をしてたって訳?」



「まぁね。おかげでいいデータが取れたって言ってたけど。それよりレミィ、本当にこのままでいいの?」



 レミリア・スカーレット。見た目は幼い少女だが、齢五百を越える吸血鬼らしい。咲夜さんや美鈴さんがお嬢様と呼んでいたのはこの子の事だった。


 パチュリーさんは先程の僕の魔力を詳しく調べたいからと言って図書館の奥の部屋に篭っている。パチュリーさんと入れ替えでレミィが図書館に来たって感じだ。


 そして、お互いの自己紹介を終え、レミリアさんと呼んだ時に、敬称なんていらない。と言われてしまったのだ。



「私の従者でもないし、私は幽透に敬われるようなことをしてあげられないもの。」



「まぁ本人がそう言うなら僕は気にしないけどさ。」



 霊夢もそうだったが、わざわざ相手の意思に反してまで敬語を使いたい訳でもないので、フランクに接してくれるならそのように返すだけだ。



「そもそも私は当主じゃないから威張れる立場でもないもの。私も軽く接するから幽透もそうしてちょうだい。」



「あ、レミィが当主なんじゃないんだ。お嬢様って言われてるのもそう言うこと?」



 つまり、紅魔館にはレミィの親がいて、その人が当主を務めてるんだろう。


 当主の娘だからお嬢様と呼ばれているんだな。



「お父様がそうよ。また後で紹介してあげる。今は私とお話しましょう。」



「幽香さん次第だけどね。それにしても、皆してお茶しようとか、お話しようとか言われるんだよね。モテ期?」



「外来人の時点で珍しいのに、人里じゃなく幽香と生活を共にしてる奴なんて初めてだもの。どれだけ長く生きていても真新しい物には興味が湧くわ。」



 あ、なるほどですね。珍しいからとりあえず喋ってみようか的な感じなんだ。モテ期のボケはスルーされたけど。



「ふぅん…やっぱり珍しいんだね。」



「まぁ見た目も良いし、話してて楽しいし、モテないとは思わないけど。そういう意味でも珍しいかもしれないわね。」



 ボケだったのに結構真面目に返されてしまった。照れるから止めて欲しいん…やっぱそのままで。


 幻想郷の人はめっちゃ褒めてくれる。前向きに生きようって思えたのも、それを続けているのも、周りの人が褒めてくれて、肯定してくれるからなんだよなぁ…



「あ、ありがとうレミィ。これ以上褒められると変な誤解をしそうだから。」



「フフッ、子供っぽいところもあるのね。」



 そうだった…皆褒めてくれるけど、皆して子供扱いしてくるんだよな。甘やかし方が子供をあやす時の様な…嫌ではないけど、そのまま受け入れるのも少し恥ずかしいと言うか…



「うるさいやい。褒め言葉は素直に受け取るって決めたんだから…仕方ないでしょ。」



「まぁ…えぇ?本当?とか聞き返してくる奴の方がウザいし、照れてるくらいがこっちとしても気分良いわ。」



「おぉ、レミィって意外とトゲがあるね。」



 トゲと言うほどキツくもないと思うが、優しいだけではないのが幻想郷の住人のいいところだと思う。



「良い意味でも悪い意味でも正直なのよ。お世辞が苦手と言うか…そもそも言う必要もない相手ばかりだし…」



「まぁ、それもそうだね。とりあえず人の言葉は素直に受け取ろうとしてる僕からすると正直に言ってくれた方がいいよ。」



 レミィだけではなく、恐らく幻想郷においてお世辞なんて文化は無いんだろう。素敵な世界だ。


 気遣いは出来るけど必要以上にはしない。自分の思ったことはしっかり伝える…うぅん、素晴らしい。



「頼まれなくてもそうするわ。幽透はそう言う人がタイプだったりするの?」



「え、記憶ないから過去のタイプは知らないけど…今の僕は幽香さんみたいなお姉さんがタイプかも…?」



 甘やかされるのが好きと言うか、無理に強がる必要が無いから自然体でいられると言うか、だからこそいい所を見せようって気になれると言うか。



「じゃあ霊夢や魔理沙みたいなのはタイプじゃないってことね?ふぅん…今度言っておくわ。」



「えっ!?」



「冗談よ。幽透は一人しかいないんだし、全員が幸せになる運命なんて無いわ。」



 いや、まぁそりゃそうなんですけど…そんな僕が全員からモテまくるみたいな言い方されても…


 そもそも僕にはそんな甲斐性があるとも思えないし、そこに自信は持てないよ。



「別に僕がいないと幸せになれない訳じゃないでしょ?」



「それは幸せの定義によるわ。人生においてと捉えるなら幽透の言う通りかもしれないけど、例えば恋愛と捉えた場合、幽透の評価、価値は人によって違うもの。」



 そうかもしれないけど…見た目幼女のレミィに言われると頭が追い付かなくなりそうだ。


 まぁ僕本人であっても、人からの評価を否定する権利は無いと思うし、僕を好いてくれる人がいるとしてその人の気持ちを僕が雑にあしらってはいけないよね。



「それを決めるのは僕じゃなくて僕を見てくれている人達ってことか。」



「そう言うことよ。言われたことを素直に受け止めないってことは相手の気持ちを否定するってことになるんだから。」



「人間関係にパターンがある訳じゃないし、言われた内容にもよると思うし、難しいよね。」



「フフッ、それがいいんじゃないの。計算でどうにかなる関係なんて面白くないもの。」



 レミィが笑顔になることによって吸血鬼たる大きめの牙がチラリと覗く。それに比例するように真紅の瞳が細まっていくレミィの笑顔は少女の可愛らしい笑顔だった。


 本当に何から何まで前向きだよなぁ。思い通りにならない事ですら楽しむなんて…子供のように見えて、五百年も生きてるんだし、ある意味達観してるのかもしれない。



「…僕もそう言い切れる日が早く来て欲しいよ。」



「何事も楽しむ気持ちよ。やらなきゃって使命感や義務感より、やってやるって挑戦する気持ちの方が前を向いてる気になるじゃない?」



 諦めるのは無理そうだし、と付け加えて再び笑みを浮かべるレミィ。


 確かに諦めるという選択肢は無い。どうせやるなら…と思う気持ちは大切かもしれないな。



「頭では分かってるんだけどね。その切り替えがどうも難しいと思うんだよ。」



 まぁ僕は記憶も無いし、嫌だと思いながら何かをすることはまだ無いから一概には言えないけど。


 ただ、人間ってそんなもんだろってイメージがある。



「それは楽しい思いをしてないからよ。嫌なことを続けたって嫌なままだし、楽しいことは大変だとしても楽しいまま、前を向けるって訳。」



「なるほどね…人生経験が前向きなれるか、なれないかを左右するってことか。」



「もちろん気の持ちようではあるけれど…実体験って一番の根拠になるじゃない?私が幽透に何を言ってもその時その時を過ごすのは幽透本人だし、その幽透の感情は操れやしないもの。」



「確かにね。今何かを不安に思ってる訳じゃないけど、これから迷いそうになった時、レミィに感謝する日が来るだろうね。」



 幽香さんに言われたこと、魔理沙に言われたこと、その全てが僕を前向きにさせてくれている訳だけど、前向きになる事の大切さをレミィは教えてくれた。


 僕が迷った時、躓いた時、ただがむしゃらに前を向こうとするんじゃなくて、迷ってる時間すらも笑って、楽しめば新たな発見もあるかもしれない。


 悩んだりすると人は後ろ向きになって、思考がどんどん暗くなる。壁に当たった時ほど笑い飛ばすくらい楽しまないと生きる上で損なのかもしれないな。



「私は私の生き方を話しただけよ。それを参考にするのは幽透の自由だし、それでいい結果になったとして、それは幽透が意識して生きた結果。幽透の頑張りが花を咲かせる運命だっただけの話よ。」



「…レミィってさ、なんでそんな達観してるの?そうは言っても自分の行く末って気にならない?」



「ん、そうねぇ…私、運命を操れる吸血鬼なのよ。でも運命は未来じゃない。不思議でしょ?能力で運命を操れるのに思い通りの未来を掴めないの。」



 運命を操れる能力…時間を操れる咲夜さんに引けを取らないレベルのぶっ壊れ能力な気がするが…


 運命は未来と同義じゃない…か。



「思い通りにいかないことすら運命だと思ってるってこと?描いてる未来と実際の結果の差を楽しんでる?」



「そうよ。だからこそ能力に頼らず自分で何とかしようとする、その努力の末に思い描く未来に近付けたら…これ以上楽しい事って無いと思わない?」



「…ぐうの音も出ないよ。」



 もしかしたら僕はまだ甘かったのかもな。嫌だともつまらないとも思わなかったし、楽しい事ばかりだったけど、自分から楽しもうとはしなかったかもしれない。


 でも、確かに五百年も生きているんだ、自分から楽しもうとしなければら退屈になってしまうんだろう。そんなレミィだからこその生き方なのかもな。


 そんな話を折角聞けたんだ。僕の運命がどうなっているかは置いておいて、自分の未来は自分で切り開きたい。そのための努力をこれからは楽しんで行うとしようか。


 ありがとうレミィ、君の話は間違いなく僕の土台になったよ。

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