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16話 動かない大図書館。

 美鈴さんオススメのジュースを飲んで一休みした後、ある程度の場所は案内してもらった。


 いや本当に広かった。なんか外で見たよりも広く感じるけど…気の所為だろうか。普通なら気の所為で済ますところだが、幻想郷だとありえそうだからなぁ。



「幽透さん、ここが図書館です。人によっては大図書館とも言われますけど。」



 他の部屋に比べて扉がでかい。なんでここまで大きくするんだろう…


 それに、書斎では無く図書館と言うところに規模の違いを感じる。どうせここも想像の倍くらい広いんだろうな。



「図書館ですか…館の一室にそんなものがあるとは…」



「あんまり大きな声を出さないようにしてくださいね。コホン、パチュリー様、お客様をお連れしました。」



 ノックをし、両開きの扉を開く。建付けが少し悪いのか、キィと音が鳴るのがまたそれっぽい。


 そして広い。図書館について詳しい訳でもないから比較は出来ないけど、少なくとも広すぎるのは間違いない。


 飛べるからいいけど、人間じゃ絶対に届かない高さまで本棚があって、びっしりと本で埋め尽くされている。


 呆気に取られながらも中に入って行くと、少し大きめの丸机に、紫色の長い髪の毛の先をリボンで結っており、紫色を基調としたゆっくりした寝巻きの様な服に身を包んだ少女が座りながら本を読んでいた。



「客人…?あら、見慣れない顔ね。外来人?」



「えぇ、こちら、幽香さんと一緒に住んでる風見幽透さんです。幽透さん、この方は……」



「パチュリー。私はパチュリー・ノーレッジよ。美鈴、この客人は私が責任を持ってお相手するから…門番の仕事に戻りなさい。」



 美鈴さんが丁寧に説明してくれてるところを遮ってパチュリーと名乗った少女は自分の紹介をし始めた。


 しかも何だか興奮気味だ。大人しそうな少女だが一度僕を見てからずっと目を離してくれない。



「え、ちょ…パチュリー様…?」



「悪いわね美鈴。魔女は好奇心に勝てない生き物なの。気付いてないかもしれないけど、この子はとんでもない逸材よ。」



 魔女…?魔女って言った?この人魔女なんだ…少女に見せかけておいて、大人しそうなお姉さんっぽい雰囲気を醸してるのはそう言うことか…


 それに、どうやら僕に興味津々なようで。人体実験に使われない事を願いたいものだが。



「わ、分かりましたけど…私だって幽透さんとお話したいんですからね!独り占めはダメですよ!?」



「はいはい、いいから戻りなさい。幽透、そこの椅子に座って。」



「全くもう…!幽透さん、それじゃあまた後でゆっくりお話しましょうね!」



 少しムスッとしながら美鈴さんは図書館を出ていった。そんな美鈴さんに手を振りながら見送り、パチュリーさんの前の椅子に腰を掛ける。



「幽香さんの作業が終わるまでなんで…そんなにゆっくりもしてられないと思うんですけど…」



「改めてよろしくね幽透。そんなに時間は取らないし、幽香とも知り合いだから後で私から言っておくわ。」



 あぁ、幽香さんとも知り合いだから僕にも興味があるのかな?魔女のパチュリーさんの好奇心を埋められるかは分からないけど。



「それはよろしくお願いします。それで僕に興味があるって言うのは?」



「好奇心としか言ってないけど…まぁいいわ。幽透、あなた幻想入りしてからどれくらい経った?」



「えぇと…二週間くらいですかね。」



 意外とあっという間なんだよな。慣れないことも多くて大変…かと思いきや生活的には大変じゃないし、幽香さんもいるから楽しいし。


 日課の特訓だって身体を動かすから汗もかいてリフレッシュにもなるし、日々強くなってる実感もあるし、正直良い生活を送らせてもらってる。



「二週間…?たった二週間で……幽透、出会ったばかりでこんなこと頼むのは申し訳ないけど、聞いてくれる?幽透にもメリットはあると思うわ。」



「僕に出来る事でしたら何でも。」



「ありがとう。幽透の持てる限りの魔力、全部を私にぶつけて欲しいの。弾幕でも魔法でも魔砲でも…形はなんでもいいわ。」



 い、いいのだろうか…?以前、幽香さんのマスタースパークを真似た時とは比べ物にならないくらいの威力はあるけど…本当に大丈夫か?


 日々強くなってるのは感覚の話じゃなく、実際に魔力がどんどん増えているのだ。上がり幅は疎らだけど、確かに増えてはいる。


 それでも幽香さんにはまだまだ追い付けないが、僕の中では一歩ずつ前進してるのだ。



「本とか、建物とか大丈夫なんですか?後から責任取れって言われても困りますよ?それに、僕のメリットって?」



「大丈夫よ。本の劣化を防ぐために強固な結界を常に貼ってあるわ。メリットとして、幽透の魔力に適した効率の良い魔力の出し方、回復の仕方とかを教えるわ。」



 そこまで言うのなら…僕としてもやらない理由はない。強くなる為のキッカケは逃したくないから。



「分かりました。じゃあ…本気で…行きます!」



「…結界詠唱、展開。」



 デカい結界だ。だけど、結界のデカさなんて関係ない、やるからには全力で、結界の向こうまで届くように!


 全魔力を手に集中…身体の魔力が無くなったら回復…そして再度集中。それを数回繰り返す。


 前は数回だけで限界が来てたし、回復までの時間も長くかかってたけど…今の僕は前と同じくらいの時間で倍以上回復と集中を繰り返せれる!



「…いいんですね?マジで…行きますよ!?」



「フフッ、凄い子を拾ったモノね…幽香。いいわよ、あなたの全力、見せてちょうだい。」



「すぅ…はぁ………いっ…けぇぇえええ!」



 しっかり狙いを定め、一気に全解放する。解放してる間も魔力の回復と集中を止めない。


 パチュリーさんの結界に当たり、激しい音を立てる。手応えは…かなりある!


 結界に薄らとヒビが入るのが見える。以前見た幽香さんの結界ならとっくに破れてるはずなのに…パチュリーさんの結界はヒビが限界か…!?



「…本当に二週間なのか疑いたくなるわね…!」



「くっ…そぉ……!」



 パチュリーさんはまだ余裕そうだ。それに引き換え僕の魔力はそろそろ回復が間に合わなくなる…!


 僕の魔砲じゃ破れない…なら、直に砕く!


 手に集中させていた魔力を再度全身に巡らせ、地面を蹴り一気に結界との距離を詰め、拳に力と魔力を込める。



「なっ…速い…!」



「結界だけは破ってみせる!」



 先程の魔砲でヒビが入った箇所に拳を思い切り振り抜く。結界にインパクトした瞬間、まるでガラスが割れるかのように音を立てて崩れ去った。



「………フフッ、アッハハハハ!」



 少しの沈黙の後、パチュリーさんはいきなり笑い出したが、とにかく結界は破れた。幽香さんの結界を殴ってビクともしなかった時が懐かしく感じる。


 強くなってる自覚はあるが、成果が無かったから本当に良かった…確実に前に進めてるな。



「はぁ…はぁ……な、何笑ってるんですか?」



「いや、期待以上だったから…つい、ね。気を悪くさせてしまったなら謝るわ。」



「え、あぁ、急に笑いだしたから何かと思っただけですよ。それで…お役には立てましたかね?」



 そもそもこれはパチュリーさんのお願いだった。何が分かるのかは分からないが…



「期待以上って言ったでしょ?本当にありがとう幽透。」



「それは良かったです。良ければ何を知りたかったのか教えてくれませんか?」



 期待されるだけされて、された本人が何も知らないなんて少し惨めじゃないか。知る権利くらいあるだろう?



「幽透の才能をある程度測らせてもらったわ。もちろん幽透の努力でいくらでも変化するけど…まぁ一種の基準ね。」



 つまり、僕が強くなれる資質を持っているのかどうなのかって事か。そんなのを知れるなら知りたいに決まってる。


 というか、魔女はそんな事まで測れるのか…



「そ、それで、僕ってどんなモンなんですか?」



「昔、霊華も同じように測ったことがあるのよ。その時の霊華より、強くなる可能性は充分ある。つまり、幻想郷最強に迫るだけの素質があるってこと。」



「れ、霊華さん以上!?い、いや、霊華さんって誰もが認める最強なんですよね?そりゃ越えるつもりで努力してるけど、今言われても実感無いですよ…!」



 自分で聞いておいてあんまし信用出来ない。実際霊華さんの本気ってやつを見たことないから尚更実感が湧かない。



「幽透は知らないかもしれないけど、霊華は昔本当に弱かったのよ?妖怪退治を妖怪の幽香と行うなんてザラにあったくらいだし。」



 おいおい、それでいいのか博麗の巫女。


 というか、幽香さんってそんなに昔から霊華さんと友達だったんだな…



「…つ、つまり?」



「つまり、霊華より素質のある幽透は霊華より強くなれる可能性が充分にあるってこと。霊華はね、努力は裏切らないってのを自分で体現したのよ。」



 そりゃ努力もせずに幻想郷最強なんて呼ばれるほど強くなれる訳ないだろうけど、努力だけでのし上がったなんて…



「…本当に末恐ろしい人ですねぇ。」



「それに追い付けるだけのセンスは持ってるわ。幽透、あなたの努力も体現してやんなさいよ。」



「そこまで言われたら…いっちょ見せつけてやりますか。何年掛かるか分かんないけど…」



 霊華さんを越えるセンスがあるとは言っても結局のとこ、実力差はかなりのものだ。


 その差を埋めるだけの努力はしなければならないし、その間も霊華さんが強くならない保証もない。


 ちんたらしてたらいつまで経っても越えるどころか追い付きすらしないだろう。


 だけど、見えない道を歩き続けるのは辛い。パチュリーさんのおかげで僕が進んでる道に間違いがないんだと想わせてくれた。これからも迷わなくて済みそうだ。

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