表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/44

1話 風見幽香との出会い。

 目が覚めると見知らぬ土地。辺り一面に向日葵が咲き乱れ、一瞬ここが天国かと思える程の絶景が広がっている。


 身体は少し重いが意識もあるし、大きな怪我をして動けないという訳でもない。ただ、記憶が無かった。



「ここは…何処だ?それに僕は…?」



 この場所に心当たりもないし、自分が何をしていたのかも分からない。名前も、住んでる場所も、何もかも。


 ここが実際に天国だとしても、何故自分が死んだかも分からない。不慮の事故?自ら身を投げた?それとも殺された?どれだけ考えても謎のままだ。



「死んでるんだとしたら目覚めないで欲しかったけど…仕方がない、人を探すか。」



 重たい身体に鞭を打ち、ゆっくりと立ち上がる。背丈より少し低い向日葵が改めて美しい。


 考えても分からない事を考えながら少しずつ歩を進める。


 少し歩くと一軒家が見えた。広い庭には様々な花が咲いており、こんがらがった頭を癒してくれる。



「家だ…誰かいるといいけど…」



 淡い期待を胸に歩き続ける。ボヤけていた家の輪郭がハッキリと見える程に近付くと、庭に人がいるのが分かった。


 女性だ。背が高く、白いシャツに赤を基調としたチェック柄のスカート、遠くて顔までは見えないが、綺麗な緑髪が目に付いた。


 とにかく誰でもいい。自分ですら分からない事をあの女性に聞いても結局分からないだろうが、右も左も分からない世界で孤独を感じるのはいい気分ではない。



「あら…見慣れない顔ね。」



 向こうから声を掛けてくれた。目が合うだけで心が踊りそうな程の美女、遠くからも見えた緑髪と、先程は見えなかった真紅の瞳がとても印象に残る。



「…綺麗な人。天使か…?やっぱり僕は死んだんじゃ…?」



「…一人でわちゃわちゃするの止めてもらえる?ゆっくりでいいからどうしたのか教えて?」



 あまりの美しさについ変なことを口走ってしまった。助けを求めたい人に開口一番でナンパみたいな事を…


 とにかく落ち着こう。今の状況を説明して、情報収集するしかない。



「初めまして…でいいのか分からないですけど、いつの間にかあの向日葵畑の中にいて…記憶もなくて流石に困ってしまって…」



「幻想入り…ね。記憶が無いのは珍しいパターンだけど、あなたは死んだ訳じゃないわ。元の世界、所謂現代からこの幻想郷に連れてこられたってところよ。」



 幻想入りだの元の世界だの、スルーしてはいけない気がするワードがゴロゴロ出てくる。


 ただ、自分でも不思議な程に冷静で、とりあえず死んでなくてすぐには帰れないのだろう、くらいにしか思わなかった。



「なるほどですね…連れてくるだけ連れてきておいてその後は放置ってのが気に入らないけど。」



「まぁ…あいつがやりそうな事よ。何の目的なのか私も分からないけど、死んだらその程度だった…と見切りを付けて次の人を幻想入りさせるだけ。」



 随分と畜生な奴がいるものだ。あいつと呼称してる辺りこの女性は知ってるようだが…



「その人に会ったら文句言ってやる…!」



「是非そうするといいわ。それにしてもあなたはラッキーよ。この辺には誰彼構わず襲いかかる妖怪もいるのに私の所にたどり着いたんだから。」



 …絶対に絶対に文句言ってやるからな!妖怪…とか現実的じゃない事言ってるけど…とにかく危険なんだな!?


 そもそもこの人だってありえない程の美人だし、緑髪に真紅の瞳だって見たことない。…記憶無いけど。


 冷静になればなるだけ実感する。ここは間違いなく別世界なんだと。



「こんな花の様な美人がいる世界だもんな…そりゃ棘の一つや二つあって当然か。」



「あら、上手いこと言うのね。フフッ、気に入ったわ。ねぇ、行く宛てが無いなら私の所にどう?畑仕事の人手が欲しかった所なのよ。」



 願ってもない申し出だ。この美人な人と一緒に住める……いやいや、雨風を凌げるなら畑仕事でもなんでもしよう。



「めちゃくちゃありがたいです…本当にいいんですか?あの……」



「あぁ、名乗ってなかったわね。私は風見幽香、妖怪よ。」



 どっかで聞いた事あるフレーズ…じゃなくて妖怪!?オイオイ死んだわ僕。


 いやまて、冷静に考えろ。記憶も無くて帰る場所すら分からない僕が最期にこの人に会えて死ぬんだとしたら悪くは無いんじゃないか?



「…出来るだけ痛くないようにしてください。」



「………変な覚悟が出来てるのね。安心していいわ、別に取って食おうなんて思ってないから。それで、あなた名前は?」



「名前……あるのか無いのか…分かりません。」



「んん…そうねぇ、ゆうと。私の字を取って風見幽透、なんてどう?自分で名乗りたい名があるなら別だけど。」



 この人が風見幽香さんで、僕が風見幽透…?字で書くとまるで家族みたいだ。


 でも嬉しい。住む場所も名前も与えてくれるなんて本当に願ったり叶ったりだ。



「気に入りました。これからはそう名乗らせて貰います。」



「それは良かった。それじゃ中に入って。そろそろお昼だし、何か食べながらこれからの事を考えましょ。」



「えぇ。これからよろしくお願いしますね、幽香さん。」



 幻想入りだか何だか知らないけど、とりあえず新しい世界で記憶もリセット。拾った命だと思って幽香さんとの生活を楽しむとしようか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 間違いだったらすいません。 もしかして過去に『なろう』か、『ハーメルン』でコレ投稿して削除されてます? 好きだったのに、消えてて、残念だったんですけれども、復活したならば良かったです。 糖分…
[良い点] 遠くからも見えた緑髪に対して、先程は見えなかった真紅の瞳と、【見える】と【見えない】を並べて対比する表現にとても鳥肌です。 [一言] お帰りなさい!まーりん先生に幽透くん!! なんていうか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ