冥途の土産に貴女の話を聞かせて欲しい(ロマンシス。お姉さんと少女。ちょっと不思議)
少女には、逃げ場があった。
辛いことがあったとき、彼女はいつもそこへ行く。
まちはずれの日本家屋。
そこには、歳の離れた『友だち』がいた。
その『友だち』……女は、いつだって少女の話を聞いてくれる。
女は、いつだって少女の来訪を待っていた。
「わああああっ、啓太のバカァァァァ! なんっで私の魅力に気が付かないんだよぉぉぉっ、ぽっと出の女にコロッと騙されやがってぇぇぇ。幼馴染なんて、全然得しねぇぇぇぇ!!」
「そうだねぇ、ひどいねぇ。はい、ごはん」
「ありがとぉぉぉ、詩乃さんのごはんおいしいいいい」
「ありがとう。あら、お味噌汁も空ね。こっちもおかわりする?」
「するぅぅぅぅ!」
「はーい、さつまいも、たくさん入れとくねぇ」
「おねがいしまっす」
ひっ ひぐっ、んぐっ、うま……おいし……もぎゅもぎゅ……ひっく
少女は、泣きながら栗ご飯をかきこんだ。
鼻水を啜り、煮物の汁を啜った。
「に、にくじゃが、うま……っ」
「肉じゃがは、やっぱりつゆだくに限るわね。はい、お味噌汁。そろそろ鼻かんだら? はい、ティッシュ」
「ありがとうございますぅぅぅ」
ずびびびびっ、ちーん!
「……詩乃さんは」
「うん?」
「何でいっつも、私の愚痴を聞いてくれるの?」
お味噌汁のお代わりを啜って、少女が問うた。
「美味しい料理と一緒にさ」
「……どうしてかしらねぇ」
女は、小首を傾げ、小箪笥の上を見た。
古びた写真立ての中で、二人の少女が笑う。
「似ているからかしら?」
「?」
「さ、聡子ちゃん。たんと食べて。デザートもあるからね」
「! 食べる!」
もりもりと食べ始めた少女を見つめながら。
『詩乃! 詩乃の料理、美味しいね!』
「……ホント、似てるわぁ」
『げっごんなんが、じだぐないよぉぉぉ、ずっど詩乃といるぅぅぅぅ』
遠い面影。
『ねえ詩乃! この子のことも、よろしくね。私の娘』
今はもう、
『私の孫の聡子。私とも娘ともよく似てるでしょ?』
逢えない人。
『美子と聡子のこと……おねがいね……』
寂しいけれど、哀しくない。
「? 詩乃さん?」
「いいえ、何でもないわ」
女は笑った。
「あ、詩乃さん、この巾着たまご美味しい!」
「ふふ、ありがと。いいおあげさんが手に入ったから、作ってみたの」
「おあげさん、私も好き。死んだおばあちゃんも大好きだったんだよねぇ」
「みんな、おそろいね」
連綿と続いていく愛しい血脈を、ただただ、そっと眺めている。
いつの日か、遠い先。
貴女と再会したときに、たくさんお土産話が出来るように。
女はずっと、
「あ、それでね、詩乃さん」
「はいはい」
彼女たちの話を聞いている。
END.
詩乃さんは、お狐様をイメージしていますが、お好きな妖さんがいればそちらのイメージでも。
代々続いていく友情っていいなあと。