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公爵令嬢のいじめの真実。生徒総会は粛々と進む  作者: 銀青猫
番外編1 学園の少女たち
8/10

番外編 ある少女たちの昼休み

生徒総会の次の日の昼休み、一年生の女子たちの会話です。

平民ニナ視点。


「昨日のアデラマリスさま、カッコよかったわね」

 アリスは夢見心地だ。


 いつもの木陰でのランチタイム。友人たちとのおしゃべりが時間ギリギリまで花咲く。

 今日の話題は、昨日の生徒総会だった。


 憧れの淑女会代表アデラマリスさまの勇姿を、一年生のわたしたちは、ただ眺めていた。

 いや、手は胸の前で組んでいたし、目はハートになっていたかもしれない。耳はアデラマリスさまの言葉を一言も聞き逃さないように、アデラマリスさまに集中していた。


「ほんと、凛としてお話する姿、もうため息ばかり出たわよね」

 そう言いつつため息をつくわたしに、ロザリーもため息をつきながら応えた。

「ニナもそう思う? わたしも目が離せなかったわ」


 そして三人でそろって手を胸の前で組んで、目を閉じる。

 瞼の裏にはもちろん、アデラマリスさまのお姿だ。きっとわたしたちの顔は緩み切っていたに違いない。



 ずっとそうやっていたいが、ランチタイムも時間が限られている。

 わたしは惣菜パンを手に取ってかじった。鶏胸肉に垂れないように工夫されたソースがさっぱりとしていて美味しい。

 こんなふうに大きな口を開けて食べられるのも、他の生徒の目がないからこそ。

 やっぱ、これでなくちゃね。




「あの二年生、ひどいわよね。アデラマリスさまのことをいじめの首謀者みたいに」

「そうそう。ケイティ・サブリンさまだったっけ。ときどき食堂に行くと、男子二人と騒いで目立っている人よね」

 アリスもロザリーも、ぷんぷんと怒りながらしっかりと昼食は減らしている。


「お姉さまがたのお話を聞いていると、全部自演よね。なんでそんなことするのかしら」

 あの受け答えをしていらしたアデラマリスさまのご友人方も、とても素敵でいらしたわ。


 わたしの気持ちを読んだように、ロザリーが受ける。

「わからないわ。結局ご友人方のすばらしさが浮き彫りになっただけだし」

「やっぱり、かっこいい人の友達もまたかっこいいわよね」



「殿下ともお似合いよね」

 ロザリーがまた、ほうと吐息を漏らした。

「お似合いよねぇ。ご結婚なさるのかしら」

 アリスもまた夢見心地だ。


「アデラマリスさまが殿下を見つめる視線、たまらないわよねぇ」

 わたしの言葉に、ロザリーが反応する。

「殿下がアデラマリスさまを見つめる目も」


 ほぅと、三人の吐息が重なった。

 ランチを食べる手が、また止まる。


 結局三人とも同じ気持ちだったようだ。

 わたしたちはアデラマリスさま命だから、それもまた類は友を呼ぶになるのだろうか。





「わたくしたちが学園で学ぶ目標は、この国の発展を支え、国民を守るための力をつけることです。それは、出自が王族だろうが貴族だろうが平民だろうが同じです。

 目標が同じであれば、なぜその手前で差別する必要がありますか。

 この学園で過ごしたものは、出自で差別はしません。

 あるのは、求められたものをできるかどうか、それぞれの能力による区別です」

 ロザリーが、アデラマリスさまの声真似であのときを再現する。


「ねぇ、合ってる?」

「合ってるわ」

「合ってる。すごいね、全部覚えていて」

「凛々しいアデラマリスさまは、できるだけ覚えることにしているの」


 ロザリーの真似はできないけれども、あのときの凛としたお姿は脳裏に焼き付いている。



「この国の発展を支え、国民を守るための力をつけること。

 あと二年、わたしにもできるかしら」


 他人ごとだったけれども、ロザリーの言葉を聞いて急に自分のことと感じられた。


 平民のわたしも、貴族の人たちからまったく差別されない。

 授業や会合、先輩への対応など公の場の言動について、このようにするのだと注意されることはある。表立ってのこともあり、こっそりと裏で教えてくれることもあり。それは指導だった。

 知らないことを教えてくれるのがありがたい。



 淑女会で、お姉さま方が平民も貴族と同じように扱うために、一年生同士でも平民だから貴族だからといった差別はない。


 ロザリーは侯爵令嬢、アリスは男爵令嬢。平民のわたしと分け隔てなく友人として過ごしてくれている。

 淑女会会合への参加のために草取りをしたときは、終わるまで待っていてくれて、冷たい果実水とタオルを差し入れてくれた。


 この学園が居心地がいいのは、紳士淑女であることを目標としてきた歴代の先輩たちの努力の賜物なのだと、昨日の生徒総会で身に染みた。



「わたしたちにできるかどうかわからないれけれども、努力すればしただけの力はつくのではなくて?」

「そうね。今よりはずっと、できるようになっているわよね」

 前向きな友人二人に、わたしも励まされる。




 次にアデラマリスさまにお会いできるのは、淑女会総会だ。

 淑女会会合に一回でも招かれたものは会員と言われる。その会員が全員集まる一年に一回の場だ。

 いつもは必要な参加費も、総会とパーティは卒業生からの寄付で賄われるということで必要ない。

 そこで、アデラマリスさまから次の方に、代表が代わる。


「またアデラマリスさまにお会いできるのが、楽しみね」

「新年開けてすぐよね。

 代表退任の挨拶では、どのようなことをおっしゃるのかしら」

「わたし、お姿を目にするだけで幸せ」


 卒業なされたら、今のようにお目にする機会がなくなる。

 同じ学園で過ごす特権を、最後までしっかりと受け取らなくっちゃ。



「アデラマリスさまのようにはなれなくても、せめて近づきたいよね」

 アリスもローズもうなずいてくれた。

「せめて、わたくしたちが卒業後に万一お耳に入ったときに、アデラマリスさまに恥ずかしいと思われない程度には、ね」

「同じ学園の卒業生として、ね」



 ふと浮かんだことが、そのまま言葉になった。

「わたし、生徒会補佐をやろうかな」


「ニナ、やりたいの? 今なら一年生も入れるって言っていたし、いいんじゃない?

 ニナがやるなら、わたしも入ろうかな」

「ニナとアリスがするんだったら、わたくしもするわ。

 次は来年の二年生と一年生だから、もうあのサブリンさまはいないし」


 三人で顔を合わせて、にっこりと笑い合った。


 先輩はいないけれども、今の生徒会のメンバーから学んだ人たちが次の生徒会のメンバーだ。

 生徒会のメンバーが次の紳士会淑女会の主要メンバーになることが多いと聞いている。それだけ模範とされる力を持っているのだろう。

 平民のわたしは特に学ぶことも多いに違いない。


 なにより、三人でするなら絶対楽しい。



 わたしたちの目標はアデラマリスさま。

 アデラマリスさまのように、かっこよく凛として優しくありたい。


「そしたら、さっそく放課後に生徒会室に行く?」

「いいですわね」「行きましょう」


 これは、そのためのわたしたちの一歩。



~ 終わり ~



一年生視点の番外編、終わりです。



こんな素敵なお姉さまがいたら、私も絶対推してます。


淑女会は、ぼんやりとした姉妹制度があるイメージです。

先輩または同級生の会員が新しい会員を紹介して、紹介者は紹介した人のその会合での面倒を見ることになっています。

それが高じて、いつも同じペアとして先輩後輩の(仮)姉妹が一部でもいると楽しいなって想像しました。


アデラマリスと生徒会副会長のクレオレッタも、姉妹の裏設定です。



次は、アデラマリスの兄視点の番外編です。

明日明後日と二日かけての夕方更新です。



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