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6 その後の約束

 冬休み、わたくしはデュドリックと街を歩き、カフェの個室で休憩していた。デュドリック殿下の護衛たちは扉の外だ。

 先日の生徒総会が話題にのぼった。


「あの二年生の男子二人を、紳士会はどうするのですか?」

「何もしないよ」

「つまり、放置ですのね」

「そう。

 実質的には、学園内で皆に相手にされないだろう。つまりは今後の仕事も交友関係も期待できないということだ」


 デュドリックは、両手の人差し指を交差させて、バツを作った。



「あの女子の方はどうなるんだい?」

「淑女会代表が変わったので、クラスメイトにもう一回だけ声をかけさせるそうです。

 それで参加の意思があれば招待状を送ると。

 反省して学ぶ姿勢があれば、それ以降も声をかけると言っていました」


「ということは、反省の姿勢がなければそれで終わりということだな」

「そういうことですわね」



 きっとあの三人は変わらない。三人とも無知なのを気づかずに、お互いで傷を舐め合っている。

 男爵と子爵の令息、平民から男爵家に引き取られた令嬢。その立場で知る以上の努力をしなければ、国の中枢にはいられない。

 本来の立場では学べないものを身につけるために淑女会と紳士会があるのだが、きっと彼らにはわからないだろう。


 そして、自分たちには与えられないと騒ぐのだ。それに伴う義務も負わずに。



 彼らも学園は卒業する。だが希望の学校や仕事にはつけない。

『学園出身なのに』という言葉がつきまとうことだろう。

 そして本人たちは、周りが悪いと嘆くのだ。





「そんなことより」

 デュドリックがわたくしの手を握って、見つめてきた。

「卒業後マリスと会えなくなるのが、私は寂しい」


 そんなことを言われると、くらりとするではないですか。ついていくことなど、無理なのに。


「わたくしも寂しいですわ。

 でも、外遊はリックにとって大きな糧となるでしょう。

 一年間、お待ちしております」



「その前に、私と婚約をしてくれないか?

 いない間に別の男にとられたくない」

 デュドリックの視線が熱い。


「そんな男の方など、いらっしゃいませんわ」

「君はただ気づいていないだけだ」


 そんなこと、ありえませんわ。

 熱い視線を女性から向けられているのは、あなたではありませんか。

 婚約すれば、他の国の姫や令嬢たちにデュドリックを奪われるのが防げるのかしら。



「わたくしも、リックと婚約できればうれしく思います」

 声がかすかに震えるのは、緊張のためかしら。


「ありがとう」

 ずっと握られていたリックの手が、さらに強く私の手を握りしめた。


「それでは、双方の親の許可を正式にとろう。

 うちの父も母も、いつ婚約するのかとうるさかったから、喜ぶよ」

「まあ、陛下たちが。ありがたいことです」


 わたくしとデュドリックの仲がよいことは、国王陛下も王妃さまも、我が公爵家の両親も知っている。反対をされていないのだから、きっと快く承諾してくれるだろう。



「大学であと二年学んだら、王太子妃になってくれるかい?」


 デュドリックと結婚するということは、そういうことだ。すでに立太子の話が進んでいる。

 覚悟はしている。学園でもずっとデュドリックの横に立ってみんなをまとめてきた。

 その経験が、わたくしの力になるでしょう。


「はい」

 わたくしは、はっきりと返事をした。



 * * *



 学園を卒業し、わたくしとデュドリックは婚約、デュドリックはそれと同時に立太子した。


 デュドリックはその後一年間各国を周り、顔を広げつつ文化を学んだ。その後大学でそれをどう自国に活かしていくかを研究した。


 わたくしは、大学で魔道具の研究をした。

 王太子妃となってから、それらを魔法を使えない人たちに広げていく予定だ。



 * * *



 今日、デュドリックとわたくしは結婚する。

 艶のある生地とかすみの様なレース。白一色の衣装が、結婚することを実感させる。


 白地に金のモールや刺繍で飾られた服を着たデュドリックは、とても男らしくてかっこいい。

 迎えにきた彼を見て、わたくしの頬は熱を持ってしまった。


「素敵です」

 彼の熱い視線に焼けてしまいそうで、視線をそらせてそう言うのがやっとだった。



「マリス、なんて綺麗なんだ。

 こんな君が今日から私の妃だなんて、夢の様だ」


 デュドリックの声が、少し掠れている。

 わたくしたち、どちらも緊張しているのね。




 デュドリックは立派な王太子だ。そして誇れる王になるだろう。

 わたくしは、そんな彼に相応しい妃になる。


 妃は国の母だ。国を愛し、国民を愛す。


 わたくしにできるだろうか。

 そんな不安が、この二年間何度もわたくしを襲った。


 その度に、デュドリックがわたくしにかけてくれる言葉の強さが、わたくしを包む手の温かさが、わたくしに大丈夫と伝えてくれた。

 そして何より、わたくしがいままで培ってきた経験が、わたくしを支えてくれる。




 鐘が響く。時間だ。


「ともに行こう。私の妃よ」

「ともに歩みましょう。わたくしの王太子さま」


 扉が開かれた。



~ 終わり ~



これで本編は完結です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

楽しんでいただけたら、幸いです。


ブックマーク、評価、ありがとうございます。

とても励みになっています。



明日の更新は、登場人物のネタバレありの紹介とその後になります。


人物紹介をはさんで、一年生女子視点の番外編をお送りします。

ひたすら「お姉さま、かっこいい。素敵」と言っているお話です。



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