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5 緊急動議、終了

 淑女会や紳士会の会合は、貴族と平民のすべての生徒が参加できる。そして、平民でも参加しやすいように配慮されている。

 この先輩方によって作られてきた仕組み、伝わったかしら。



「そんなこと、知らない。

 淑女会がお茶会なんて、知らない」

 サブリンさまがぶつぶつとつぶやいていた。


 ため息をつきたいが、堪えた。

「新入生の説明会で資料を配り、お時間もいただいてお伝えしました。編入生も同じ時期であれば参加義務があったはずです」

「参加したけれど……」


 聞いていなかったものまで、わたくしは責任を負えませんわ。


「生徒手帳にも書いてあります。学園の組織ではないのですが、全生徒が関わるものなので、特別に載せていただいています。

 規約や大事なことはすべて書いてあるから読むようにと、これも説明があったはずです」


 呆然とするサブリンさまの横で、フェルミさまとメルネスさまもまた、ぽっかりと口を開けている。

 この二人も、知らなかったのだろうか。二年生にもなって、まさかね。



 わたくしは集音魔道具をオフにして、こっそりとデュドリックに聞いた。

「紳士会へは、あの二人は?」

「出ていない」

「参加要請は?」

「一回招待状を送り、無断欠席をしたんだ。それ以降誘う義理もない。

 紳士会は、不義理をした時点で次はない。相手から許しを請われれば考慮はするがな」


 うわっ、知らないものが三人寄り集まっても、無知ってことよね。



「知りませんでした。読んでいません」


 厚顔無恥とはこのことか。

 わたくしは気を取り直して、仕切り直した。


「知らないのは、わたくしの責任ではありません。

 この学園は、上流社会で活躍する人を育てるための学校です。いわゆる選ばれた人のための学舎まなびやです。

 自ら情報をとりにいくことなく、ただ与えられるのを待つだけの人まで責任は負えません」



「だから、それが差別だと言ってるんです。平民を見下して」

 ああ、きゃんきゃんとうるさい。


「どこが差別なのでしょうか。

 確かに、知らないことは誰かが教えてくれると口を開けて待っている雛鳥のような人間とは、対等にはお付き合いできません。だってわたくしたちはもう、雛ではなく、社会にでる準備にはいっているのですもの。


 でも、平民だろうと貴族だろうと、差別はしませんよ。何より、わたくしの大切な友人エバ・サンテさまは、平民ですわ」



 表立ってこの学園内では、身分がどうのこうのという話は出ない。皆が平等なのだ。

 だが、それまで育ってきた環境の違いで、新入生では行動や考え方に大きな差がある。その差を埋めるのが、淑女会であり紳士会だ。


 卒業時には、すべての学園生が上流階級らしい振る舞いと考え方ができる、すなわち、他人に不快感を与えないスムーズな仕草と、他者を保護し国のために尽くすと考えることができる、それが両会の目標だった。


 そのため、会員としてすでにそれらが身についているものが姉兄となり、新入生の世話や指導をしていく体制がとられている。


 入学したときには何も知らない平民だろうと、卒業時には上流階級の義務が身につく。そのために働いているのが、淑女会と紳士会だった。



「生徒手帳をもう一度読んでくださいませ。


 わたくしたちが学園で学ぶ目標は、この国の発展を支え、国民を守るための力をつけることです。それは、出自が王族だろうが貴族だろうが平民だろうが同じです。

 目標が同じであれば、なぜその手前で差別する必要がありますか。

 この学園で過ごしたものは、出自で差別はしません。

 あるのは、求められたものをできるかどうか、それぞれの能力による区別です。


 わたくしたち貴族は、平民の方々が受けていない教育をされています。だからこそ、平民の方々がそれを学ぶ手助けをします。これは差別ではありません」


 わたくしは、生徒全体を見渡した。

 彼らの瞳は皆、わたしくしに向かってキラキラと輝いている。


「他国と渡り合うためには、腹の探り合いも必要でしょう、自分の気持ちを覆い隠す必要もあります。簡単に気持ちが乱されない鍛錬も必要です。

 三年生をご覧なさい。彼らの振る舞いを。どの人が平民でどの人が貴族かわかりますか。皆一様に素晴らしい。これがこの学園の目標を達した姿です」



「でも、でも。わたしはお茶会に参加していない」

 サブリンさまは、いまだにフェルミさまの腕にぶら下がったまま、下を向いてぼそぼそと言っている。


「サブリンさま、先ほどわたくしが言ったことをお忘れですか。


 淑女会からは招待状を送りました。

 招待されたものに返事をしないのは、本来は誘われると迷惑だという意味になります。そして連絡なく欠席されるのは、交流の意思なしとみなされます。

 無断欠席のあともさらに二回ご招待しましたが、これはまだ社交に慣れてない可能性を考えての温情です。


 ご自身で参加する機会を潰されたのです。おわかりですか」


 サブリンさまは、下を向いて黙ってしまった。



 * * *



 デュドリックは、司会のグレイの許可をとり、わたくしから集音魔道具を引き継いだ。


「今、淑女会代表が話したことは、紳士会でも同じだ。

 紳士会では、一回無断欠席をしたものには、次の招待はないがな」


 デュドリックは、フェルミさまとメルネスさまを睨んでいる。彼らは怯えた顔をしているが、自業自得だ。


「紳士会の意義については、淑女会の説明があったのと同じだ。

 学園にいる間に己を磨き交友関係を広げて、将来活躍してくれることを望む」


 やっぱりリックはかっこいいわ。

 わたくしが言い足りなかったことも、きちんと補足してくれて。さすが未来は王族として仕事をしていく方ね。


 あちこちから女子のため息が聞こえ、男子からは熱い視線がデュドリックに注がれていた。



「サブリンさま」

デュドリックは口調を変えた。小さい子をたしなめるような感じだ。


「私は以前から、私を呼ぶときはルクミマスまたは殿下と言うよう伝えていたはずだが、なぜ、デュドと呼ぶのかな。

 実際生徒会でも、二年生一年生は殿下と呼んでいるはずだ。


 さっきは、アデラマリスのことを呼び捨てにしたよね。

 彼女を呼び捨てにしたり愛称で呼んだりできるものは、彼女と親しい許可された者だけだ。それもプライベートな場限定になる。

 下級生でほとんど面識のないサブリンさまが呼び捨てにするなど、失礼にもほどがある。


 ちなみに、他の上級生に対しても同じだからね」



 サブリンさまは、フェルミさまにさらに強くしがみついたまま、目を丸くしてデュドリックを見ている。

 デュドリックの声がきつくなった。


「それに、私があなたに会いに生徒会室に行っているなんて、なんで勘違いしたのかな。

 私は前任の生徒会長だったからね、今の生徒会長が困ったことがあったら相談に乗れるように、たまに顔を出していたんだ。

 そのときには、できるだけ全員に声をかけるようにしている。

 よくアデラマリスと一緒に行ったんだけど、それは覚えていなかったのかな。


 手作りの菓子については、生徒会室への持ち込みは禁止している。

 何回言っても改めないとナバルコが悩んでいたから、私が持ってきてはいけないと禁止の確認をして取り上げたのだが、伝わっていなかったようだな。


 はっきり言わなければわからないようなので、言おう。

 私は君にまったく興味がない」


 あらまぁ、みんなの前で言ってしまうなんて、顔には出していなくてもよほど腹立たしかったみたいね。

 わたくしは、頬が緩んでしまうのを止められなかった。



 サブリンさまは、驚いたように口を開けて、それから顔を歪め手で覆った。

「わたし、わたし、そんなつもりでは」

声が小さくなって、体が震えている。


「大丈夫?」「君は悪くないよ」

「きっと勘違いされているのさ」


 フェルミさまもメルネスさまも、お声が全部集音魔道具に拾われてましてよ。

 他の生徒たちはみんな呆れた顔をして眺めているのに、気づいていらっしゃらないのね。





 茶番を遮るように、グレイが集音器に向かった。

「お茶会に呼ばれなかったといういじめの訴えは、却下します。

 以上、すべての訴えは却下されました。


 まだ何かここでお話したいことがありますか?」


 フェルミさまもメルネスさまも、泣いているようなサブリンさまを慰めるのに必死なようで、グレイに対しては首を横に振っただけだった。

 せめて、口で言えばいいのに。どこまで常識外れなのでしょう。

 それにサブリンさまのあれは、泣き真似ですわよね。


「それでは、これで緊急動議については終了します。

 生徒会長、お願いします」



 その後、ナバルコさまと新生徒会メンバーのご挨拶があって、生徒総会は終わった。



生徒総会、終わりました。

いかがでしたでしょうか。


本編はあと一話で終了です。

明日の夕方更新します。


その後、番外編をご用意しています。

一生徒から見た生徒総会の様子と、アデラマリスとデュドリックのチビの頃の話です。

毎日更新していますので、お待ちくださいませ。



ブックマーク登録、評価、感謝しています。

皆様のおかげで、新しいお話を書く力が湧いてきます。



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