4 お茶会ハブ?
わたくしの手元に、集音魔道具が用意された。
集音魔道具は、拡声魔道具と対になっていて、小さな魔石を仕込むことで魔力がない者でも広い場所に声を響かせることができる。
わたくしは拡声魔法も会得済みだが、集音魔道具を用意されている場であえて魔法を使う真似はしない。自分の力を無駄にひけらかすことに繋がるからだ。
隣のデュドリックは、そんなわたくしをニコニコと見ている。わたくしを信頼して任せてくれる彼が心地よい。
グレイの許可を得て、わたくしは発言を始めた。
「三年のアデラマリス・クレメラです。淑女会代表として、台上から失礼いたします」
一年生、二年生から「素敵」「お姉さま」との声がため息と共に漏れ聞こえてくる。女子の声が圧倒的に多いのがなんとなく納得できないが、しかたない。
「サブリンさま、ここからはわたくしがお答えします。
その前に質問なのですが、よろしいでしょうか」
グレイが頷いたのを確認して、わたくしは問いを口にした。
「サブリンさまは、なぜわたくしがあなたをいじめていると思われるのですか?」
とたんに、サブリンさまの両側にいた男子二人がうるさくなった。
「おまえ、何を言っているんだ」「おまえがいじめたのはわかっているんだ」「しらじらしい」
この学園に通う女子をおまえ呼ばわりとは、紳士にあるまじきことですわね。
わたくしは、隣に座っている紳士会代表に目を向けて軽く眉を上げた。デュドリックはまた首をすくめただけだった。
「サブリンさま、お答えください」
グレイが促してくれる。
「あの、だって、アデラマリスはわたしに嫉妬しているのでしょう? デュドさまがわたしに興味を持ってるから」
はぁ?
思わず口を開けてそう言いそうになり、わたくしは慌てて口をつぐんだ。みっともない真似は見せられない。
わたくしを呼び捨てにしたのを聞いたせいか、話の内容のせいか、下級生から「ひっ」と小さな悲鳴がいくつも聞こえた。
「あのくそガ……」
この学園で聞くはずのない言葉が聞こえた気がしたのは、三年生からだろうか。目の端に、男子が隣の男子の口を押さえているのが映る。
隣のデュドリックを見ると、彼はぶんぶんと音がなるほど首を横に振っていた。
「なぜそのように考えられたのかしら」
声と目つきがキツくなるのは仕方がない。
彼女の横にいるメルネスさまが顔を引きつらせた。二年生なのに、まだ肝が据わっていないのかしら。
「だって、デュドさまは、わたしに会いに生徒会室に来てるんでしょ。
顔を見るたびに、わたしに話しかけてくれるじゃないですか。
わたしの手作りクッキーだって『もう持ってきてはいけないよ』って全部持ち帰って。独り占めしたかったのよね」
ふふんとサブリンさまは自慢げだった。
デュドリックを見つめるのは、もう何度目になるだろう。
彼はまた、ぶんぶんと首を横に振っている。
まあ、彼女の考えと、デュドリックの対応はわかった。
そちらはデュドリックに丸投げしよう。
嫌われたら面倒だと甘い顔をするから、こういうことになるのだ。責任を持って火消しして欲しい。
「わかりました。それではお茶会の件です」
私は生徒全体に意識を向けた。彼女だけでなく、すべての人に理解してもらえるように。
「お茶会とおっしゃっているのは、わたくしが放課後に皆様を呼んで開いている会のことでしょうか」
「そうよ。いろんな人を招いているのに一度もわたしに声がかからないのは、わたしが平民上がりの男爵家の娘だって見下しているからでしょう。
そんな女に自分の好きな人をとられて、嫉妬しているのよね」
その高い声でキンキンと噛み付くような話し方は、なんとかならないものかしら。耳が痛くなるわ。
「それであれば、それは淑女会の一環です。わたくしは個人的なお茶会は、学園では開いておりませんから。
そして、淑女会へは、あなたのクラスメートや生徒会補助の方を通して、何回か招待状をお渡ししているはずです。ペールピンクに金の縁取りの封筒はご記憶にありませんか」
視線をさまよわせたサブリンさまは、「あっ」と言って顔をしかめた。
そうなのです。
彼女がお茶会と考えていたものは、淑女会の会合でした。
淑女会は、全学年の女子が参加できる会です。
少人数ずつの会合は、会員の紹介という形で招待状を送ります。会合の間、その紹介人が新人の責任を持つのです。
招待制と言っても漏れがあってはいけません。夏過ぎには一年生の全員が参加できたかのチェックを入れ、そのときに編入生のサブリンさまをまだご招待していないのに気づきました。
サブリンさまは女性の友人がいらっしゃらなかったので、知人の方にお願いして招待状を送りました。
ところが、参加も不参加もお知らせがないまま、当日欠席。あと二回、招待状を送りましたが、いずれも同じ。
招待に名前を貸してくださった方々が申し訳なさそうにしていらっしゃるのが、お願いした身として心苦しかったです。
「わたくしは、淑女会代表として招待状を差し上げました。でも、欠席のご連絡もなく、当日いらっしゃいませんでした。
三人の方にお願いをして、すべて同じ状況です。
これは、参加する意思がないとみなしてもよろしいのではないでしょうか」
ざわざわが大きくなる。
大部分の生徒にとって、淑女会の会合を欠席するなんてあり得ないだろう。しかも無断欠席はわたくしが知る限り初めてだ。
「でも、参加費がいるって書いてあったから。わたしん家男爵で貧乏だから、お金ないし」
「平民の方々も参加していらっしゃいますよ。奨学金で学んでいらっしゃる方々も。
淑女会は学校の規約の中の会ではありません。ですので、活動費は受益者負担としています。食べたもの飲んだものは、その日に参加した人たちが払うということです。参加費は、そのための費用です。
その費用が負担になる方のために、救済措置がとられています。学内での指定アルバイトがそれにあたります。
そうたとえば、お昼に食堂の手伝いをするとか、放課後皿洗いをするとか、学園の敷地内のあまり手をかけない庭の草むしりをするとか。
労働の対価として、学園から淑女会に参加費の肩代わりをしてくれるように、取り決めがなされています。
紳士会も、同じ取り決めがありましたね?」
わたくしはデュドリックを巻き込んだ。
「ああ、同じだ。
紳士会も費用負担がある。そのため、学園の労働を請け負うことで学園が費用を肩代わりしてくれる。
一・二時間、それも一日か二日のことだ。いままで無理な負担なく参加してもらっていると考えていたのだが」
生徒の何割かが、大きく頷いている。平民の皆だろう。
よかった、負担ではないようだ。
ラスボス(?)回、いかがだったでしょうか。
アデラマリスは、後輩女子に絶大なる人気があります。
番外編でそのあたりに触れる予定です。
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次話は明日夕方に投稿します。