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冬童話2021 『さがしもの』

白ヤギじいさんとこそどろあおむし

作者: 小畠愛子

「ありゃ、また手紙を食べちまったかなぁ……」


 白ヤギじいさんが、おうちの中をぐるぐる回って、それからメェーッと鳴きました。おともだちの黒ヤギばあさんに手紙を書いたので、それを森の郵便屋さんに出そうとしていたのですが……。


「うぅむ、じゃが、わしはいつも紙の手紙なら食べてしまうから、昨日はキャベツの葉っぱを手紙のかわりにしたんじゃがのう」


 白ヤギじいさんは、長いおひげをゆらしながら、不思議そうに首をかしげました。白ヤギじいさんはもちろん、ヤギたちはみんな紙のお手紙を食べてしまうので、森の郵便屋さんは特別に、葉っぱの手紙を使っていいことにしていたのです。ですが、その葉っぱのお手紙が見当たらないのです。


「どこにいったのかのぉ。確かに昨日、机の上に置いておいたはずなんじゃが……」


 机の上には、白ヤギじいさんがかじりかけの、おやつの本が開いてあります。それに、手紙を書くときに使ったインクとペンもあります。と、白ヤギじいさんが、机にグゥーッと顔を近づけました。


「ん? なんじゃ、こりゃ? キャベツの切れはしが、机の上に落ちておるぞ」


 白ヤギじいさんは目をぱちくりさせました。昨日キャベツの葉っぱの手紙を置いたはずのところに、キャベツの切れはしが残っていたのです。さらに、よく見ると――


「なにかが、はいずっていったあとがあるのぉ。……ははーん、これはなるほど」


 なにかわかったのでしょうか、白ヤギじいさんはふむふむとうなずきました。




「へへっ、今日も白ヤギじいさん、キャベツに手紙書いてるな。それに、スミレのインクのいいにおいがするぜ」


 白ヤギじいさんのおうちの窓のすきまから、ずるずると小さなあおむしがしのびこんできました。こそどろあおむしです。こそどろあおむしは、おいしいキャベツの葉っぱが大好きなのですが、最近は白ヤギじいさんの使う、手紙用のキャベツがお気に入りだったのです。


「なんてったって、あのキャベツ、ふつうのキャベツと違って、スミレのインクで文字が書かれているから、いいにおいがするんだよな。それにスミレのほんのり甘い味もして、へへっ、デザートにはもってこいだぜ」


 じゅるりとよだれをすすって、こそどろあおむしは白ヤギじいさんの机の上にはっていきます。今日もちゃんとキャベツの手紙が置いてあり、しめしめと思うこそどろあおむしでしたが……。


「あれれ、今日は二枚も手紙があるぞ?」


 こそどろあおむしは目をぱちくりさせました。いつも白ヤギじいさんは、『お元気ですか、わしは元気です』しか手紙を書かないのに、どうして二枚も手紙があるのでしょうか?


「なんだなんだ? 白ヤギじいさん、もしかして黒ヤギばあさん以外にも、手紙を送ろうって思ってたのか?」


 こそどろあおむしは、手紙になんと書かれているのか、ちょっぴり興味がわいてきました。キャベツをかじる前に、なんと書かれているのか読んでみることにしました。


「なになに? こっちはいつものやつだな。『お元気ですか、わしは元気です』だ。じゃあこっちは……『あおむし君、食べないでおくれ』だって? げっ、まずいなぁ、まさかおいらが食べてるのがバレてるなんて……」


 からだをうねうねとくねらせて、こそどろあおむしはくやしがります。こそどろなのに、正体がバレているなんて、これはゆゆしき事態です。しかし、そんなことであきらめるこそどろあおむしではありませんでした。


「へへっ、それならおいら、どっちの手紙も食べてやるぜ! そうすりゃあの白ヤギじいさんのことだ、自分が書いた文章も忘れて、おいらが食べたってことも忘れちまうだろうさ。よーし、そうと決まれば、さっそく、いただきまーす!」


 こそどろあおむしは、まずはいつもの手紙をしゃくしゃく、しゃくしゃく、もぐもぐ、もぐもぐ。おいしそうに食べていきます。


「あぁ、やっぱりうまいなぁ。キャベツもおいしいけど、このスミレのインク、ほんのり甘くって、いいにおいがして、最高のデザートだぜ」


 しゃくしゃくしゃくっと、こそどろあおむしは一気にキャベツの手紙を食べてしまいました。またしてもじゅるりとよだれをすすって、今度は『あおむし君、食べないでおくれ』と書かれた手紙にのそのそはっていきました。


「へへっ、それじゃあこっちも……あれ、なんだろう、このインク、いつものスミレのインクじゃないぞ?」


 こそどろあおむしは、目をぱちくりさせました。スミレのインクは、きれいなうすむらさき色をしているのですが、このキャベツに書かれている文字は真っ赤です。それに、スミレのインクのような、あの甘くてやさしい、いいにおいがしません。こそどろあおむしはからだをひねって、考えこみました。


「なんだろう、なんのインクを使ったのかなぁ? あ、わかったぞ! これってきっと、白ヤギじいさんからの挑戦状だな! おいらに、なんの花のインクを使ったか、当ててみろって思ってるんだろう? よし、それじゃあ当ててやるぜ! 赤い色だし、きっとイチゴじゃないかなぁ? それともさくらんぼかな? まさか、バラの花とかじゃないよな……って、からっ! からい! からいよぉ!」


 こそどろあおむしが、バタバタバタバタのたうち回りだしたのです。赤いインクの部分をしゃくしゃくっと食べたとたんに、口の中が焼けるほどに熱くなったのです。そう、この辛さはまさに……。


「ほれ、朝露じゃ。これを飲んで口を冷やすがよい」


 ツユクサの葉っぱにたまった水を差しだされたので、こそどろあおむしは急いでごくごくと飲んでいきました。燃えるようだった口の中が、スーッと冷やされていきます。


「はぁっ、はぁっ、び、びっくりしたぁ……」

「ははは、どうじゃったか、トウガラシのインクは? それにしても、まったく、こそどろあおむしには困ったものじゃわい。わしの手紙をバクバク食いおって」


 白ヤギじいさんに見おろされているのに気がついて、こそどろあおむしは「ヒェッ!」と悲鳴をあげました。そのままドタドタと逃げようとしますが、白ヤギじいさんはあわててこそどろあおむしを呼び止めました。


「これ、待つのじゃ。わしゃ別にお前さんをおしおきしようなどとは思っとらん。トウガラシのインクを使ったのもあやまる。じゃが、わしゃお前さんにお願いがあるんじゃ」

「お願い?」


 逃げるのをやめて、こそどろあおむしが白ヤギじいさんをふりかえりました。白ヤギじいさんはこくりとうなずいて、それから青むらさき色のインクが入った小ビンを見せたのです。


「お前さん、スミレのインクが好きなんじゃろう? じゃから、これからはお前さんのために、このインクで書いた手紙も用意しておくから、そっちを食べるとよい。黒ヤギばあさんに送る手紙には、トウガラシのインクで書くから、そっちは食べたらいかんぞ。それならどうじゃ? お前さんもうまいデザートにありつけるし、わしは黒ヤギばあさんに手紙を送れるし、いいと思うんじゃが」


 これにはこそどろあおむしも大賛成です。何度もからだを上下にふってうなずいたのでした。




 それからしばらくして、黒ヤギばあさんから、白ヤギじいさんのもとへ手紙が届きました。黒ヤギばあさんは、白ヤギじいさんと比べて、筆まめなので、手紙にもびっしり文字が書かれています。そしてそこには、次のように書かれていたのです。


『白ヤギじいさん、元気してるかね? こっちも元気じゃ。そうそう、最近不思議なことがあってな。白ヤギじいさんからもらう手紙は、いつも近所のあおむしたちにあげてるんじゃが、最近あおむしたちが、いらないといいだしてのぉ。そのままにしておくと腐ってしまうし、どうしたものかと思ってるんじゃ。あおむしたちに聞いたら、からくて食べられんといっておったんじゃが、じいさん、心当たりはないかのぉ?』


 白ヤギじいさんは、メェーッと鳴いて頭をかかえるのでした。

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― 新着の感想 ―
[一言] こそどろあおむし用にあおむしの好きなインクで手紙を書いてあげるおじいさんが優しくてよかったです。『かじりかけの、おやつの本』という描写や黒ヤギばあさんの手紙の内容には笑いました(^^)おじい…
[一言] 我が家の家庭菜園のキャベツやブロッコリーも青虫に食べられまくっておりますw 虫が食べるのは安全な証拠とは言いますが、青虫君達の食欲限度を知らずですから、たまにちょっと「うぉおおおお!」となっ…
[一言] のんびりとした時間の流れがある、ほのぼのとしたこういうお話が好きです。 「へへっ」とする、こそどろあおむしを想像するだけで楽しいですね。 絵本を読んでいるみたいに映像が浮かんできます。 キ…
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