プロローグ
「大丈夫か!」
激しい爆音と爆風。
舞い上がる土煙の中から、こちらへ向け投げられた青年の声。徐々に晴れていく視界の先に、その声の主が姿を見せる。
直後、脳裏に駆け巡った幾多もの映像。
胸の奥がじわじわと、熱を灯す。
心臓が今までにない程、大きく脈打つ音を確かに感じた。
──あぁ、目の前にいるこの人は……
この人を、私は──
*
「……ッ」
「目が覚めたか」
額に手を当てながら体を起こす。ギギッ、木の軋む音が響いた。机に向かっていた白髪の老人が、そっと近づいてくる。
指の隙間から、ちらりとあたりを見渡す。小さな質素な部屋に、いくらかの本や書類。そして少し薬品の匂い。
「診たとこ問題はねぇようだが、頭を打ってるからな、自分の名前はわかるか?」
ドク、ドクと脈打つように痛む頭に、顔をしかめる。
そうだ、確か……街で働いていて、その後、爆発に巻き込まれて……。
「……リタ」
頭を抱えながら絞り出した声は、酷くかすれていた。
さっきよりも、頭の痛みが増している。
「リタか。あの孤児院の子か?」
「……うん」
違う。
この痛みは、あの爆発の所為じゃない。
今まで孤児として生きてきたリタの見た景色ではない、見たこともない光景が、さっきからずっと頭の中を交差している。
これは……記憶。
“リタ”ではない、もう一人の“誰か”の記憶。
「……ディ……ハルト……ロバーツ……」
リタは俯きながら、無意識に頭に浮かび上がった名前を零した。
自分のものではない誰かの記憶。
その映像の中に、確かにいた。
あの時、あの爆風の中から俺を救ってくれた、あの男が。
「おお、彼の名前を知ってたのか。まだ小さいのに。こんな子供にまで名前が知られているのか」
白髪の老人は、リタを見てぱっと明るい顔で笑った。
──知っている、なんてもんじゃない。
「ディハルト・ロバーツ、王国騎士団団長。彼の部隊が、孤児院爆破テロから君を救ってくれたんじゃ」
ディハルト・ロバーツ
──彼は俺の……
私の ≪ 最推し ≫ だ!