14 女子会。
水分補給もして、食事も済ませて間もなく、アントンとダレンの手合わせをすることになる。
緊張を含めた険しい顔付きになるダレンは、二本のナイフを構えた。二刀流か。
アントンは片腕で、剣を構えて立つ。全く隙が見当たらないから、ダレンが険しい顔付きになるのもわかる。
私なら突っ込まない。なんせ私は丸腰だから。
まぁ戦うとするなら防壁の魔法を使い、魔法で作った剣で挑むか。
それも同じ長さの剣にする。ナイフでは心許ない。
しかし、ダレンはナイフの二刀流のスタイルのようだ。それに手合わせして自分の実力を見てもらいたい。父親と同じランクのアントンに。父親の背中を目指すダレンとしては、突っ込むしか他なかった。
地面を蹴って突き進むスピードは、結構な速さだ。身軽さが売りってところか。
接近し、ナイフを叩き込むも、アントンの剣は微動だにしなかった。
それに動揺をするダレンだったが、攻撃を続ける。
ナイフをぶつけると、アントンが後退した。しかし、ダレンが押している、というわけではない。アントンは冷静に見極めて、無駄のない動きでいなしているのだ。
「うおおっ!!」
ダレンが、全力で向かう。
それもアントンの一振りで弾かれ、そして蹴りを入れられて倒された。
「っ、う!」
明らかな力の差に、ダレンが悔しそうな顔をする。
目指す先があまりにも遠すぎると、絶望しているように思えた。
なんて声をかけよう。考えていれば、先にアントンが歩み寄る。
「いきなりゴールドランクにはなれません。だからこそ、這い上がるように努力を積み重ねるのです。これからたくさんの経験をして、強くなって、ゴールドランクを勝ち取ってください」
そう静かに告げて、手を差し出した。
ちゃんとかける言葉を考えていてくれたのか。
アントンさん、いい人だ。
まぁここで心が折れるなら、ゴールドランクになれないだろう。
「っ!! ありがとうございます! アントンさん!!」
手を借りて立ち上がったダレンは、深々と頭を下げた。
うん、大丈夫そうだ。
「よし。私は街を散策したいんだけど、ダレンとアメー達は何か予定ある?」
「水晶玉が届くまで、ボクは鍛錬しようと……」
「わたくしも散策したいと考えていたの! ダレンも行きましょう?」
「そうだよ、今日は散策して、明日皆で鍛錬しようよ」
ダレンだけ別行動させると、また絡まれそうだから、一緒にいるべきだと思う。可愛い顔が、カモに見えるみたいだもの。
アメーと私で頼めば、ダレンは首を縦に振ってくれた。
ルーシー街に戻って散策。というより、買い物を楽しんだ。
流行りに敏感らしく、王都で流行っているものは大抵揃っていると、どの店もそう謳っていた。
中でも新鮮だったのは、ドレスだ。
両脚が露出するスカートが前開きになったデザイン。
なんでも王都で最近流行っているらしい。その情報をくれたのは、アメーだ。
「中には反発の声もあったのだけれど、【勇者一行の女騎士様】を筆頭に足を出すスタイルの服を着始めて、徐々に浸透してきているわ」
「勇者一行?」
「あの【勇者一行】の、女騎士様。元々、少年のようなズボンを履くスタイルのお方だから、それを元に仕立て屋がこういうドレスを考えたそうよ」
【勇者一行】とは常識みたいで、それ以上は聞けなかった。
この国、またはこの世界の常識を知らなかったら、怪しまれる。
こんな時に、頼れるのはこの世界を知り尽くしているお父様とお母様だ。
『お父様、お母様。【勇者一行】とは?』
『三年前に、隣の魔物の国の魔王を倒した一行のことだよ』
『確か、冒険者や騎士達総出で攻め込んで、勇者と魔導師三人と騎士二人で魔王と戦い、そして倒したのよ』
『三年前……結構最近ですね。それに……ダレンの父親も、もしかしてそこで?』
『きっと、そうだね』
三年前に戦争が起きたなんて、道理で最果てでも平和なわけだ。
魔物に会わないのは、魔王が不在なおかげ、か。
それは知らないと怪しまれる常識だ。うっかり尋ねなくてよかった。
せっかく出来た友だちなのだ。無知な能天気な旅人と思われないでいたい。今は傍若無人は封印。
それにしても、さっきからアメーはボロが出ている。王都から、来たのだろう。【勇者一行の女騎士様】を目にしたことがある口振りから察する。
でも王都と言えば、ギルド本部があるはず。ここは南支部。
よっぽど、親に反対されているのだろうか。わざわざここまで来るなんて。もしや貴族のお嬢様だったり。
「アメーは着ないの? こういうドレス」
「わ、わたくしは……まだ抵抗があるわ」
「じゃあ一緒に着てみない?」
「今ですか!?」
「ダレンも見てみたいよね?」
アメーがマントの下に着ているのは、普通のドレス。
仕立て屋が飾り付けたその前開きドレスを前に、ダレンはキョトンとした。それから、想像でもしたのか、顔を赤らめる。
女性の素足に、免疫のないウブな反応。
アメーまで、つられたように真っ赤になる。
もう付き合ってしまえっ。
『まだよ! アイナ! 両片想いの期間を、少しでも長く引き伸ばして!』
お母様が興奮した声を出す。
それはそうか。両片想い、尊い。
「私もアメーと一緒なら勇気出して着れるよ、お願い」
「あ、アイナ様がそういう言うのなら……」
ぶっちゃけ美少女の今だからこそ、着る気になれる。
おずおずとアメーが頷いてくれた。
「やったぁー! すみません! 仕立ててください!」
私は店員さんを呼んだ。
すぐに微笑みを貼り付けた女性店員さんが始めてくれる。
ついたてがあっても、ダレンとアントンさんは店の外で待ってくれた。
インナードレス姿になる。店員さんが枝のような杖を振るだけで、用意された生地が宙を舞う。仕立てるための魔法の杖のようだ。
重ねられ、縫われていく。仕上げに、コルセットを巻いてもらった。
私は二段重ね薄紅色のスカート。ドレープ型の前開き。下には短パン。
さっき言っていた“少年のようなズボン”とは、短パンのことだろう。
アメーの方は、水色のフリルスカート。いわゆるかぼちゃパンツを履いている。
大きな鏡で、確認した。二人で互いを見ては、鏡と向き合う。
美しくほっそりした脚を露出するドレスを着た美少女が二人いる。
「似合っております。お二方!」
「大変お似合いです!」
店員さん達が、絶賛するのはお世辞ではないだろう。
アメーは恥ずかしがって、スカートを引っ張りで足を隠す。
「靴下あります? 出来ればガーターベルト付きの長い靴下」
私が頼むとすぐに出してくれた。
「んー、アメーは白がいいと思う。どう?」
「あ、はい」
差し出せば、素直に受け取るアメー。
「なんか、慣れている? アイナ様」
「そう?」
アメーは受け取った白の靴下を店員さんに渡す。そして履かせてもらった。
アメーの方が、慣れている気がする。
私も、黒の靴下を履かせてもらった。嫌な顔一つしない辺り、仕事の一貫なのだろう。
「いい感じじゃない?」
「そ、そうね」
もう一度、鏡を見て確認。
「じゃあ、ダレンとアントンさんに感想をもらおうか!」
「っ!」
アメーはまた恥ずかしそうにスカートで足を隠す。
白い靴下に包まれているのだから、厳密には素足を晒しているわけではない。それにブーツを履いた。激しく動かなければ、そんなに見えたりもしない。
「大丈夫、綺麗だよ」
ウインクして見せてから、私はダレン達を呼んでもらった。
店の中に戻った二人は、静かなもの。アントンさんは沈黙した。
ダレンは、頬を赤らめる。
不安げに俯くアメーも、赤い顔だ。
「どう……?」
「あっ、えっと……綺麗だ」
ダレンは、間違いなくアメーだけに言っている。
おーい。私もいるんだけどー。ダレンくーん。
「アイナ様もよくお似合いです」
空気を読んで言ってくれるアントンさん。
ありがとう、アントンさん。
「よし、じゃあこんな感じのデザインのドレスをあと数着、お願いできますか?」
「はい、かしこまりました。ですが……」
仕立て屋さんに頼むと、他の予約があるから一日待ってほしいとのこと。
今日は今着ているドレスだけ買って、残りは明日もらおう。
「こんな風に時代が変わるのですね……」
アントンさんが、ジェネレーションギャップを感じていたもよう。
街を練り歩くと、前開きドレスだと気付いた人々の反応は様々だった。
男性陣はウブな反応だったり、明らかな下心を垣間見せる。
女性陣は軽蔑する眼差しもちらほらと見えたけれど、その中に嫉妬と憧れも含まれていると感じた。
夜は、助けてくれたお礼にごちそうをしたいとアメーが言い出すので、アメーのおごりで食堂で食べる。またもや「王都では~」とアメーが流行りのデザートのことを話す。ダレンは気付いていないみたいだけど、やっぱり王都から来たのだろう。
食事を済ませたあとは、宿に戻った。でも、私はアメーの部屋にお邪魔させてもらう。
狭いけれど一緒にお風呂に入っては、互いの手入れをした。
「このオイルが美容に万能なの! 女神フレーア様が愛したとされる薔薇には美容効果があって」
「いい香りー」
「その香りを嗅ぐだけでも、美容にいいのだと言われているわ!」
アメーは語る語る。熱く語るのだった。
ローズオイル一本で、十分は語りそう。
「それにしても、アイナ様の髪は本当に美しいわ……薔薇よりも綺麗」
「そうかな? 褒めてもらえるとより綺麗になっちゃうよ」
「まるで宝石のような透明感と輝き! うっとりしますわ」
はぁ、とアメーが息を溢す。
「私もアメーの髪、宝石みたいだと思うわ」
アメーの髪に、オイルを丁寧に塗っていく。
水色に艶めく白銀の髪。ダイアのように透けそうで、綺麗だ。
「わたくしの髪色なんて、珍しくありませんわ。でも、アイナ様のルビーのような赤い髪は初めて」
「この髪色に選んでくれた神様に感謝だね」
神様夫婦に向かって言ったつもりだけれど、返答はない。
どうにも夜になると二人は静かだ。まるで通話が切断されたみたい。
もしや、お取り込み中?
「最後はパックも兼ねた保湿クリームですわ」
「私も使わせてもらっちゃって悪いね」
「これくらい平気ですわ!」
さっきから、アメーの収納魔法で美容品を取り出しては使わせてもらっている。とりあえず、アメーの美貌を支えている品を覚えて、明日買うつもり。
自分で、顔に塗り塗り、いい美容品は匂いまでいい。
「ねぇーアメー」
「なーに?」
「このまま一緒に寝たら迷惑?」
「添い寝!? 全然! いいわ!」
むしろ部屋を移動したくない。
頼んでみるもので、アメーが快く許可してくれた。
そのまま、一緒に眠ることにした。
柔らかくていい匂いな美少女と添い寝。
心地よく眠りに落ちる間に、そうだ、ルヴィンスに会わなくてはと思い出して、念じた。
夢の中で、会いますようにーー。




