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異世界で神の化身は至極最高に楽しむ。  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫


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12 恋に落ちる音。




 後ろを向けば、鞄を抱えて少年は目を輝かせていた。


「ぼ、冒険者の方ですか!?」

「いや? これからなろうと思ってるけど、まだ冒険者じゃないよ。どこを見て冒険者と思ったの?」

「あっ、強かったのでてっきり……ごめんなさい。その、ボクも冒険者になろうとこのルーシー街に来たんです! 名前はダレンです!」

「そうなんだ、私はアイナ」


 よろしく、と握手をする。可愛い顔をしているのに、手はしっかり男らしい。ゴツゴツしているのは、タコかな。


「私、詳しくないけど、冒険者になれる歳なの?」

「なっ……! ボクは、十六です!! なれます!」


 少年ダレンは、プンスカして声を上げた。

 意外な歳だ。もっと数個下かと。


「基本的に年齢制限はありませんがっ! 十五歳からなれます。合格さえ出来れば……」


 ダレンは言い終わると俯く。


「だから、必死に鍛えてこの街に来たのに……」


 落ち込んでいる?


「水晶玉が壊れてしまって、数日は資格の受付は出来ないって……」

「えっ! そうなの?」

「数日どうやって過ごそうかって考えていたら、絡まれて……」

「水晶玉ってランク付けするためのやつだよね?」

「魔物相手なら四匹くらい相手出来るけれど、人間を相手したことないし、歳上だし……」

「まじかぁ、数日待たなきゃだめなの?」

「助けてくれたのは、冒険者でもない同じくらいの女の子……」

「聞いてる? ダレン」


 ぶつくさと静かに落ち込むダレン。

 私は私で、今日冒険者になろうとしてたから、どうしようと考え込む。


「ボクは……やっぱり弱い……」


 気の弱い少年だ。そう印象を抱いた。


「でも魔物相手なら戦えるんでしょう? 私は戦ったことないけど」


 魔物に遭遇しなかったからな。


「強いと思うよ」

「っ……!」


 ポンポンと肩を叩いてあげた。

 ダレンは泣きそうな目をする。


「次絡まれたり物盗られたら、ちょっと痛い目見せてあげるくらい強気でいなよ」


 そうウインクして見せた。


「はいっ!」

「あと、私のこと別にさん付けしなくていいし、タメ口でいいよ」

「あ、じゃあ……お言葉に甘えて……えへへ」


 どこか照れているのか、ダレンはへにゃりと笑う。

 うん、幼顔だ、この子。可愛い。頭撫でたくなる。


「ダレンは宿とった?」

「うん!」

「じゃあそこ案内してくれないかな。私も当分この街に滞在しなくちゃ」

「そうだね、こっちだよ」


 まずは宿を決めよう。ダレンと同じところでいいと思い、私はついていった。


「ダレンはなんで冒険者になろうと? 小さい頃の夢とか?」


 他愛ない話をしようとしたけれど、ダレンは寂しそうな笑みになる。


「うん、小さい頃からの夢なんだ。お父さんが冒険者だった。三年前に魔物にやられちゃったけど……」

「あ、ごめん……」


 こういう時、なんて言った方がいいのだろうか。


「ううん! ボクはお父さんみたいな冒険者になるって決めたんだ! すっごい強い冒険者だったんだ! 冒険者になって、人々を救って、かっこいい男になる! それを叶えるための一歩なんだ!」


 父親を亡くしたことからは、もう立ち直ったようだ。

 目を爛々と輝かして息を巻く勢いで告げたダレン。


「そうだね。……でもその一歩目を踏み出したのに、水晶玉が壊れたなんて幸先悪いねー大丈夫?」

「うっ!」


 私はついつい意地悪に笑った。

 確かに、とダレンはまた俯く。


「ちなみになんでまた壊れたの? そういう代物だったの?」

「いや、そこまでは聞いてないな……。でも貴重品だから、王都から運ばせているところだってことは聞いたよ」


 貴重品か。大量生産は、無理な代物。


「金貨五十枚はする代物だって、聞いたことあるなぁ」

「へぇー……」


 私、買えちゃうな。

 それにしても、と私は周りを見回す。どんどん街の隅に進んでいる。

 というか、引き返してしまっているのだ。


「……ダレン。もしかして、お金ないの?」


 びくん、とダレンは肩を跳ねた。


「な、なんでわかったの!?」

「いや。宿代を安くすませたでしょう。街の中心にある宿に比べて、民家が密集している隅っこは宿代は安いでしょう?」


 現に、今いる道には、人がほとんどで歩いていない。

 ちなみに、街の隅の安い宿の部屋には、シャワーやトイレがないことが多い。ガネット街の宿屋の夫婦から、そう聞いた。


「ご、ごめん……贅沢出来ないんだ……。冒険者になるにも、いくらかお金かかるし……」


 え。それは初耳。


「ボクは、孤児だから……」


 あ。母親もいないのか。


「そういうことなら、私が宿を払うから、もっと街の中心にある宿にしようよ」

「ええっ? 悪いよ!」

「冒険者になったら、稼ぎが増えるでしょう? その時に返してくれればいいから。私は余裕あるんだ、ほら行こう!」


 別に返してもらわなくてもいいけど、こう言っておけばダレンも気を負いしないだろう。

 ダレンの後ろに回って、背中を押し、街の中心部へ歩いていく。

 触れて気付いた。この子、そこそこ魔力がある。

 魔法でさっきの連中を懲らしめればよかったのに。

 そうしない辺り、気が優しい子なのだろう。


「どうして……そんなに親切なの? アイナは」

「ん? 私は別に、自由気ままなだけだよ? まぁ、ダレンも余裕があったら、誰かに親切にしたらいい。気分いいよ」

「そっか」


 ここで会ったのも、何かの縁だ。出来ることはやってあげる。


『僕達の子、本当にいい子だね』

『私達の子、本当にいい子だわ』


 絶賛する神様夫婦。

 街の中心部に近付けば、人が多くなってきた。

 冒険者だろうか。大剣を背負っている大男や、腰に二つの剣を携えた女性とか、目につくようになった。ローブを羽織っているのは、魔法使いタイプの冒険者だろうか。

 二人して興味津々に眺めていれば、その声が耳に届く。


「やめてくださいませっ!!」


 可憐な声。精一杯上げた感じの声の主を探してみれば、さっきダレンに絡んでいた若者達が女の子に絡んでいる姿を、左横で発見。

 ベージュ色のマントのフードを深く被っているけれど、水色かかった白銀の細い三つ編みがはみ出ている。間違いなく、少女だろう。


「いいからオレ達と遊ぼうぜ」

「触らないでくださいませ! わたくしには待っている人がっ」


 道端で堂々と強引なナンパか。


「またあの若者達は懲りないなぁー」


 呆れた。どうやって悪事をやめさせよう。ここはやっぱり。悪夢を見るほど怖さを植え付けようか。

 考えている間に、ダレンが飛び出した。


 ドーン!


 若者の一人に突進した。若者は豪快にひっくり返った。


「いてっ!?」

「何すんだ!」

「あ!? さっきの!」

「てめぇ!」


 ここでようやく若者達は、私とダレンに気付く。


「女の子にまで寄ってたかって困らせるな!!」


 ダレンがそう声を上げて叱りつけた。

 当然、それで反省するわけもなく、若者達は暴力を選ぶ。


「うるせぇ!!」


 拳はダレンの顔に命中してしまい、ダレンはよろける。

 ダレンの可愛い顔に何してくれてんだー!!


「だ、大丈夫ですか!?」


 絡まれていた少女は、真っ先にダレンを心配した。


「大丈夫! ボクの後ろにいて! 守るから!」

「……っ!」


 そんな少女を、ダレンが背にする。

 そこで初めてみた少女の顔。私に負けず劣らずの美少女だった。

 白銀の睫毛に包まれたのは、水色の瞳。雪のような肌が、真っ赤に染まっていた。明らかに、ダレンにときめいた表情をしている。

 きゅん。

 私は、恋に落ちた音を耳にした気がする。


「守るだと? へなちょこが、やんのか!」

「かかってこいよ!」


 若者の声に、ハッと我に返る。そう言えば、絡まれているのだった。

 つい恋に落ちた美少女の顔に見惚れてしまったわ。


「いい加減にしなさいよ、あなた達。天罰を食らいたいの?」


 私はダレンの前に立って忠告をする。

 しかし、少女の姿ではやはり届かない忠告だった。


「天罰!? 何言ってやがんだ!」

「痛い目みたくなきゃ、そこ退けよ」

「ガキの方はボコボコの刑!」


 喚く若者達をどうしてやろうか。


「……ほーう? ボコボコの刑がいいのか」


 ダレンをボコボコにしたいらしい。ではそれを味わってもらおうか。

 にやり、と口元を吊り上げた。

 けれど、魔法を使うことは躊躇してしまう。

 道端で騒いでいるから、すっかり人々の視線に晒されている。

 んー。冒険者なるまで、神の化身だってことは隠しておきたい。

 どうしたものか。物理的にやっちゃうか。いい運動になりそう。


「何をしている」

「ぎやあああ!」


 そこに野太い声が聞こえてきたかと思えば、次に悲鳴が上がる。

 悲鳴の主は、若者の一人。

 野太い声の男性に、腕を捻り上げられていた。

 頬の下に傷のある強面の男性。短い髪はオレンジ色。茶髪の瞳。


「アントン!」


 少女が、その男性の名前を呼ぶ。


「ご無事ですか?」

「ええ、わたくしは無事よ。このお二人が助けに入ってくださったの」


 ん? アントンと呼ばれた男性が、少女に敬語。

 少女は逆にタメ口。主従関係かな。


「こうなったら!」

「あ」


 疑問に思っていれば手首を掴まれ引っ張られた。

 一人の若者が、私を盾にする。もう一人がナイフを取り出して、私に突き付けた。


「アイナ!」

「や、やめてくださいませ!」


 ダレンと少女が声を上げ、傍観者達もざわめく。

 アントンだけは、冷静な目付きだ。


『お父様お父様』

『なんだい? アイナ』

『感電の魔法ってありません?』

『それならイメージすればいいじゃないか』

『いや、まだ化身だとバレたくないので、人並みに魔法を使おうと思いまして。呪文を教えてくれたら助かります』

『そういうことなら……』


 私の状況を全然危機だと捉えていない呑気な声から教えてもらった。


「“ーー天空の神よ、我が掌に雷を宿したまえーー”」


 お父様が教えてくれた通りに唱えると同時に、ナイフを突き付ける手と私を捉える手を掴んだ。


 バチバチバチーン!!


 轟く破裂のような音、それから激しい発光が起こる。

 私が握った二人の若者は、すっかり黒焦げとなってしまっていた。


『お父様……感電する魔法を教えてと言ったはず』

『え? 感電、したでしょ?』

『雷を受けたみたいじゃん!?』

『雷って、唱えたじゃん?』

「唱えたけれども!!」


 あはは、と笑うお父様。

 とりあえず、ぺっと手を放す。想像より強い魔法を使ってしまったけれど、まぁ彼らの自業自得だ。


「さて……あなたも天罰を食らっておく?」


 ダレンに突進されてひっくり返った若者に、ニヤリと冷たい笑みを送る。

 黒焦げになった仲間と私を交互に見たその若者はガクガクと震え、そして悲鳴を上げて人混みの中を走り去った。恐怖は植え付けられたかな。

 にこにこしつつ、次はまだアントンに捕まっている残りの若者を見る。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ」


 ガタガタと震えながら、反省の色を前面に出す若者。


「わかればよし」

「「「……」」」


 満足する私を、驚愕の表情で見る三方。

 冷静な眼差しだったアントンまで。


「い、今のは、天候の精霊魔法!? そんな、こんなところにそんな魔法を使える方がいるなんてっ!」


 ん? 少女が目を輝かせている。

 精霊魔法とはなんぞ?


『なんぞって、アイナがさっき使った魔法だよ?』

『今のが精霊魔法なの!?』

『そう、その世界にいる精霊と呼ばれる神級に崇められている存在から、力を借りて唱える魔法だよ。普通はその精霊の許可なしには使えないけれど、アイナは特別だ。好きな時に使っていい許可はもうもらっているよ』

『そうなんですか、それはありがとうございます。ですが、私は人並みの魔法をって言ったじゃないですか!』

『大丈夫、人並みの魔法だよ』


 絶対に違う!

 お父様は頭の中で笑い声を響かせるだけだった。


「とりあえず、ダレンは大丈夫?」


 少女の尊敬の眼差しを受けつつ、ダレンを覗く。

 やっぱり、頬が赤くなり口が切れてしまっている。

 可愛い顔が。


「ボクは大丈夫……」


 力なく笑うダレン。しまった。ダレンにもっと見せ場を与えるべきだったか。ボロボロになろうとも、殴り合いをさせればよかったかな。


「あっ! わたくし、治癒魔法なら得意ですわ! わたくしが治します!」


 ふんっ! と息巻いている様子で申し出てくれた少女。

 早速、ダレンに顔を近付けた。


「“ーー癒しを与えるーー”」


 チリリン。鈴の音が聴こえてきた。

 少女が両手を翳すと淡い光が灯る。


「わたくしのために、ありがとうございます……。とてもかっこいい男の人だと思いましたわ」


 そう少し頬を赤らめて、少女がお礼を言う。

 淡い光に照らされた少女の顔は、やはり美しい。

 そんな顔を間近で見たせいか、褒め言葉のせいか。

 ダレンも、顔を真っ赤にした。

 きゅん。

 私はまたもや、恋に落ちた音を耳にした気がする。

 恋愛要素の多い物語を書いてきた私は、初めて恋に落ちた瞬間を目の当たりにした。そもそも少女漫画や恋愛小説が好きな私には、これはとても美味しいと思えたのだ。

 可愛い少年と美少女の恋!

 萌える!

 この二人の恋の行方を見守りたいと思った。


『きゃあ! いいわね! それいいわね!! 私も見守りたい!』


 ずっと黙っていたお母様が、はしゃいだ。



 

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